ハナミズキ

枯れていくハナミズキを摘んでいる手には
静脈血の温かさがあって
いっそ手首から
枯れ落ちてしまえば良いのにと
そんな事を思いながら
僕は初夏と呼ぶにはまだ早い
六月を迎えていた

新緑と呼ぶに相応しい葉が茂るのを眺めては
葉脈一本一本のその廉直さに嫉妬した
眺める空さえそうだ
雲は外連味のない風に吹かれ
太陽ですら まるで聖人の眼差しの様に
穢れなど知らぬとばかり僕を見つめるのだ

それに比べ 五月に降る雨は優しかった
火葬場で所在無げに立ち尽くす僕の額を
雨粒が伝い落ちていった
火葬場の隅で真っ白に咲くハナミズキも
雨に濡れていた
あの子を悼んで降る雨に
僕はひと時身を委ねた

骨になったあの子は
小さく 冷たく
しかし それは本当に美しかった
焼かれてもなお 
これほどまでに美しいものか
悲しみもすべて削ぎ落された
その白い姿は より一層愛おしく
僕は小指を一かけら がりりと噛んだ

 
ハナミズキの花弁の白は
あの子の小指の色
 

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