臍帯と母子手帳

お兄ちゃんのほうが少し小ちゃかったんだね

我が子の一ヶ月健診を終えた母親が
兄弟の母子手帳を見比べながら
待合室で そう呟いていた

柔らかな眼差し
微笑みを湛えた口元

これが母の顔なのだ
そう思わずにはいられず
しばらくその表情に私は見入っていた

思い出すのは我が母の事
ある時 私の母子手帳を持ち出して
私の生まれた日の話をした事があった

なかなかの難産でね
もうこれは
帝王切開にしようという話になって
当時の事でしょう
全身麻酔をかけられて
意識が遠くなっていったのを
今でもよく覚えているわ

五十年も昔の事を
まるで 昨日の事の様に語る我が母の顔は
まさに今日
私が健診の時に見かけた
あの母親の顔であった

母子手帳はまるで臍帯の様だ
産まれてからも
母と子をつなぎ続ける臍帯

そしてその臍帯はいつまでも
我が子に 
温かな血液を送り続けているのだ





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?