見出し画像

#9 デザイナーが実践する、基本的な創造の型:「分析と統合」その1

デザイナー夫はストアカの講座や美大の授業で、「創造やデザインの最も基本的な型」について教えています。この4ヶ月間、自宅で行われるデザイン講義を傍で聞き続けた【デザイナーの妻】が、デザイナー夫の実際の業務の中で(今回は主に教育に関連して)その型を実践していると気付いた点をまとめてみました👀

おかげさまで、デザイナー夫のストアカでの講座は、2020年5月の開講以来25回の開催(9月17日現在)を経て、100名以上の方に参加していただきました。参加してくださった皆さんに感謝しております。

私【デザイナーの妻】は、zoomの回線バックアップのため、また音声やスライドが滞りなく流れているかチェックするために、実は毎回「スタッフ」として授業にこっそり参加しています。デザインについては素人ですが、さすがに20回以上デザイナー夫の講義を聞き続けた結果、最近少しだけ授業内容がわかるようになりました(という気がしています)。

そこで今回の観察日記では、生意気にも(!)授業で扱われている「創造の型」を、デザイナー夫が自分の業務の中でどのように実践しているか観察してみました。その観察結果をまとめましたので、どうぞお付き合いください。その1では、主にストアカの授業と美大という教育の現場での実践についてです。デザイン業務の中での実践はその2でレポートしたいと思います。

最も基本的な創造の型:「分析+統合」について私が理解したこと

「デザインの仕組」講座では、大学の授業で扱っている内容を凝縮し、
創造やデザインに見られる基本的な型についてわかりやすく解説します。
(ストアカ講座紹介のページより一部を引用)

この講座の中で扱われる最も基本的な創造の型に「分析+統合」というパターン(サイクル)があります。それは何かをデザインする時に、対象について「自分は知っている」と思わず、まず徹底的に調査し、分析(要素分解)すること。分解した要素を構成し直すこと。さらに構成した(作ってみた)ものを分析(分解)し、再構成するとといった繰り返しを経てデザインが良くなってゆく、という創造のパターンです。

20回ほど講座を聞いて、私もようやく自分の言葉でまとめられるようになりました(笑)。講座ではその創造のプロセスについて、分析するとはどういうことか、構成し直すとはどういうことか?など詳しく解説されます。講座紹介では「分析+統合+?」となっており、分析と統合に加えてさらにもうひとつのステップについても学びます。

デザイナー夫が実践する「分析+統合」①、ストアカ授業編

まず、この「分析と統合」のパターンは、ストアカでの講座の内容を繰り返し精錬してきたことに当てはまるかなと思います。講座は一方的な講義の配信型ではなく、ワークショップやディスカッションを含む参加型で進められるため、開催ごとに授業の雰囲気が異なります。参加者の職業や、それぞれデザインに関わる背景によって、ディスカッションの盛り上がり方も質問の内容も異なります。

ストアカの紹介ページにも書かれているように、参加者の皆さんからいただく鋭い質問からデザイナー夫はたいへん刺激を受けています。そして、いただいた質問や話し合った内容は、授業の後にデザイナー夫自身が要素分解する材料になったりするのです。「最も基本的な創造の型は、もう何度も教えているからよく知っている」と思って毎回同じ講義を繰り返すのではありません。「Webデザインをしている方からはこんな質問をいただいたな、調べてみよう」とか「人材派遣に関わる仕事をされている方にとっては、ここが心に響いたようだ。なぜだろう?」デザインを発注する側として参加してくださる方と今後どんなデスカッションができるだろうか」といったことを考えることで、講座のコンテンツを分解し始めます。

参加者のリアクションが期待していたものと違った場合は、傾向を分析して違うコンテンツと差し替えてみたりして、分解+再統合の作業は続きます。分析中に新たに勉強するための本を買ったりして、観察日記#1#8で書いたようにデザイナー夫の本棚(ベンチ)の本もどんどん増えていきます。そして早ければ次の週の講座には、新たに発見したことが講義内容に加わっていたり、順序が入れ替わったりしています。そのようにして講座は少しずつ進化していき、教える際のデザイナー夫の温度も上がっていくのです。これが「精錬されていく」ということなのでは?と思ったのでした。

デザイナー夫の熱い思いにより、そしてアメリカの残念なエアコン事情により、夏の間は大量の汗をかきながら講義を進めてまいりましたが、秋が近づいたこの頃は、講座に対する熱量こそ変わらないものの、爽やかな表情を保ったまま講座を行うことができています。(良い季節になったね👀)

基本的な講座内容はもちろん変わりませんが、当初ひとつの講座で扱っていた内容は、3時間半という長丁場に及ぶケースが増えてきたため、「前編」と「後編」に分けることになりました。その経緯について参加者の皆さんと話していた際、参加者の方のお一人に「まさに、ですね」と言っていただき、その時デザイナー夫自身がまさに「分析と統合」を実践していることに気づかせていただいたのです。

毎回、今日こそはzoomの回線さえ順調であれば、講座を聞きながら自分は別のことをしていようと思うのですが、結局はアップデートされた内容や参加者の皆さんとのやり取りに耳がダンボになり、講座に最後まで聞き入ってしまいます。(しかし最後はNY時間の夜中12時を過ぎますので、時々私はイヤホンをしたままパソコンの前で寝落ちしているようです。冷静なデザイナー夫に「講座終わったよ…」と起こされる時の悔しさ!今のところ2敗。)

デザイナー夫が実践する「分析+統合」②、学生への指導編

ふたつめは、デザイナー夫自身の作業というよりも、美大の学生達に対して「分析+統合」を繰り返し実践する機会を与えているという点です。

現在教えているクラスのひとつは卒業制作のクラスですが、レクチャーをする授業の他に、学生と "One on One" つまり 一対一の時間を順番に取り、それぞれの卒業制作の工程をレビューすることがあります。ひとりひとりのプレゼンを見て話し合い、次のクラスまでの課題を共に考えるという形のようです。秋学期、デザイナー夫は100%オンラインでの授業のため、リビングの反対側で仕事や他の作業をしていても、授業の様子は私の耳にも入ってきます。

デザイナー夫の話を聞いているうちに、彼が学生に「分析と統合」のプロセスを、それとは指摘せずにリマインドしている(思い起こさせている)ことに気がつきました。一つの例を挙げましょう。

ある学生は、卒業制作の課題として「本について研究する」ことにしました。学生は「子供たちのための本を作りたいと思っている」と話したようですが、学生の研究テーマについての話を聞いた後、デザイナー夫は学生にこう尋ねました。(日本語に翻訳したもの:)「じゃぁ…これは考えてみた?そもそも、本とは何か?」。

"What is a Book?" ーこの言葉が聞こえてきた時、私は驚きました。思わずリビングの反対側に目をやると、手元にある自分の読書本の中からある本を見せ「これは”本”?…なぜそう思う?」と聞き、つぎに自分のマック・ブックを手に取り「じゃぁどうしてこれも”本”なの?」「どういうものが”本”と呼ばれるんだろう?」と聞いています。決して意地悪な質問をして学生を追い詰めているわけではなく、「僕たちは、”本とは何か” をどのように定義するだろうか・どんな要素が関係するのか、本当に知っているだろうか?」と、一緒に考えている、もしくは学生に考えさせているようでした。

私は横で聞きながら「本とは…」考えてみるものの…「なんだろう?」とそこで思考は停止してしまいましたが、学生はどう思ったかな〜。その問題提起を今後どのようにリサーチにつなげていくか・新たな発見を得て研究に幅や深さが増していくのか、教師としては次回の"One on One" が楽しみだろうな👀と思ったのでした。

しかし「知っている」と思っていたことを突き詰めて調査していくと、「自分がいかに知らなかったか」を思い知らされます。最初こそ、新たな発見や、それによって広がる自分のプロジェクトの可能性にドキドキするものですが、知らないことが多すぎる現実に圧倒されてその先に進むのが怖くなる瞬間が来ます。わかっていたと思っていたものが「わからなくなるから」です。たくさんの「不確実性」に向き合い、そこで立ちすくんで止まってしまうか、それとも前に進むのか。講座の中でも触れられますが、その恐怖を乗り越えられる学生はめざましく成長するそうです。そして教師はその気づきを与え、直面する恐怖を乗り越えられるようにサポートしていかないとけないということです。

講座を聞いて理解できたことを考えながら、学生とのやり取りを聞いていると、「そもそも本とは何か?」とかいう質問が聞こえるたびに私は学生さんに対して「がんばれよ〜。これは意地悪じゃないんだよ。これからたどるプロセスは、きっと学期の終わりにはものすごい達成感を生み出すものになるよ!」という思いになります。今学期は、各国の時差やクラスメイトから孤立した環境という、オンライン授業特有のチャレンジもある中での課題ですが、学生の皆さん、頑張れ〜!という気持ちで聞いております。

画像1


今回は、教育の現場での実践編をレポートいたしましたが、グラフィックデザイナーとしての実務の中で見られる「分析+統合」のパターン実践編については、今後またレポートをお送りします。現在の状況ゆえに、自宅にてオンラインによる美大の授業が週3回、そしてストアカの講座が週1回行なわれていることで、これまで直接見ることのできなかったデザイナー夫の教育の現場を見ることができ、観察の幅が広がりました。リビングの反対側で、もしくはキッチンの陰から応援しております。

ちなみに、時差のある学生への対応のためにデザイナー夫が食べる暇もないので、対策を考えねば。と思っていた3週間前の心配は「おにぎり作戦」により解決しました。おにぎりを作ってキッチンに置いておくと、トイレに行く一瞬や10分休憩の時につまんでいる模様です。🍙大成功じゃないか🍙

画像2

観察日記#9読んでくださってありがとうございました。

Photo by Kelly Sikkema


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?