美しい人

先日、思わず目が奪われたことがあった。

バス停の前を通り過ぎようとした際、ベンチに腰をかけている同世代ぐらいの女性の姿が目に飛び込んできた。

周りには大勢の高校生やバス待ちの人がいた中で、なぜか彼女にだけ目がいってしまった。顔を見たわけでもなく、モデル並みに背が高かったわけでもない。

その女性の座っている姿が美しすぎたのである。

背中から腰にかけて緩やかなカーブを描く姿勢で、足を揃えて座り、俯きながら顔にかかった長い髪をかき上げていた。

正直、どきっとした。自然と出る色気とはこういうことか、とわかった気がした。

街中で美しい人を見かけることは多いけれど、美しくて色気のある雰囲気を醸し出している人を見たのはこれが初めてだった。

スタイルやファッションに気を遣う人は多い。しかし、ただ座っていたり、立っていたりするときにも気を抜かずにいられる人は少ないと思う。しかも、スマホを見るわけでもなくただそこに座っているだけの動作にどれほどの人が意識を向けているだろうか。

薄暗い時間だったから誰が見ているわけでもないのに、意識なくしてキープするのが難しい姿勢から、彼女の美意識の高さを窺い知ることができた。

彼女を目に入れて通りすがるまで、時間にしてみれば本当に一瞬の出来事だったのにも関わらず、私の心を捉えて数日も経っている。

それ以降、私は外で歩く時や大学で講義を受ける時に、力を入れすぎずに美しい姿勢でいられるように気をつけるようになった。

心がけるようになって気がついたことは、気を抜くと肩が内側に入るし、首も前に出るということである。しかし、正しいポジションに体を持ってくると、意外と体を楽に保てる姿勢であることもわかるようになった。

一朝一夕で彼女のような色気も美しさが出てくるわけではないが、この意識を継続していけば、自然と美しい姿が保てるような気がする。

そして次の誰かの目を奪えたら良いなと思うのである。