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ラムネごしの景色

山が紅葉してきたある日

僕は大学へ向かっていた。僕はいつも、電車で大学に通っている。

今日も、ホームは人であふりかえっている。この人混みの中にいる時間が一番憂鬱な時間だ。僕は少しばかり人よりも鼻がいい。そのせいで、においに敏感だ。特に中年のおっさんのにおいや無駄に香水の匂いがする人が大っ嫌いだ。

いつもと同じように改札を通って、8時発の電車に乗り込んだ。電車の中はホームより密集している。

体から発せられる蒸気が行き場を失い。蒸し暑くなっている。僕は汗をかいた。額から顎えとつたった汗はつま先をめがけて落ちていった。

「ガタンッ!」電車が大きく揺れた。流れるように電車内に「く」が表れ始める。僕も横におされ、「く」になった。なんだか一体感が生まれて少し笑ってしまった。

大学の最寄り駅についた。

人が次々へと押し出されていく。ぼくも、その中の一人だ。

なにもせずとも、身をまかせていればいつも改札の前までつれてってくれる。この楽なところが少し好きだ。

周りをみると、僕だけ止まって見える。いや、止まってるんだ。足元を見てみるとなにやら、座り込んでいる女性がいる。邪魔だった。どいてほしかった。この人混みだと動けそうにないので、こえをかけた。

「どうしたのですか?」

「定期を落としてしまって。」

「あ、そうですか」

「え?一緒に探す雰囲気でしょ?」突っ込まれた。

苦笑いをしながら、僕は彼女の定期を一緒に探し始めた。

定期を落とした彼女はどこかで見たことのある顔だった。

でも思い出せそうではない。

定期はすぐに見つかった。

大学の講義の時間が迫っていたので、彼女に渡してすぐに駅を出た。


なんだか、引っかかる。彼女の顔はどこで見たことがあるのか、しかも美人だった。授業中は彼女のことで頭がいっぱいだった。

なんだか、デジャブを感じる。

だが、それも思い出せない。授業をちゃんと受けていなかったときはたくさんあったから。


ずーと気になりながら、一日が終わった。

なんだか、おなかがすいたのでファミレスに立ち寄り、ドリンクバーとハンバーグを頼んだ。


僕は、さっそうと席を立ちあがりジュースをつけに行っとき、いつもと同じようにカルピスを注いだ。少し遊び心が芽生えて、表面張力の限界まで注いだ。慎重にテーブルまでもっていき、届いたハンバーグを食べ始めた。

静かに食べているのと裏腹に、盛り上がっているテーブルがある。一人さみしいのでいいなーと思い、そっちの方向を向くと朝の定期を落とした彼女がいる。

一瞬目が合ってしまった。僕は無意識に顔をそむけた。だが、彼女は見逃してくれずこっちに歩みよってきた。

「朝の方ですか?」

「はい」

「やっぱり、お礼がまだ言えてませんでしたよね。ほんとうにありがとうございました。」

「てか、誰だか分かっててその反応はおかしいんじゃない?」

この人は何を言っているのであろうか?

「もしかして、覚えてないの?若松奏だよ」

思い出した。学年で一番かわいかったあの子だ。

「久しぶり、ちょっと忘れてたよ」

「ひどーい、駅の時にはもうわかっていたよ」

意外だった。高校生の時は少しはなしていただけの仲。嬉しさで気持ちが高揚してきた。

「何かの縁だし、連絡先教えてよ」

嫌ではなかったので、交換した。照れ隠しはばれていたかもしれない。意外と表情が表に出るタイプである。

僕は、ハンバーグを急いで口に入れファミレスを出た。嬉しさがこぼれ落ちそうだった。

秋になり、日が落ちるのも早くなってきた。もう、真っ暗になりそうだ。ぺガスス座の下を勢いよく走った。いつまでたってもそれの景色は変わらない。

いつもの駅につき、急いで改札を通り電車に乗り込んだ。いつもの匂いや「く」の字が嫌に感じなくなっていた。心臓の鼓動が激しい。耳をつり革を握っている腕につけると「ドックン、ドックン」大きな音が鳴っている。

静まる様子は一向にない。あんなに心が躍る日があるのか。初めての体験だ。

家の最寄り駅についた。

ぺガスス座の位置は変わっていない。まあ、そうだろう。自分のテンションがおかしくなってきた。山より「こうよう」している。

自分を落ち着かせるために自動販売機でジュースを買った。

久しぶりにラムネでも飲むか、

彼女、若松奏と仲良くなったあの日を思い出した。

ラムネを飲むと、歯の奥が染みる。おいしい証拠だ。思わず目を思いっきり閉じてしまった。

ラムネを飲みながら歩いていると、家に着いた。

1LDKのマンションだ。大学生の割にはいい部屋にすましてもらっている。親様様だ。ずっと、この部屋に一人でいるのもさみしいのでたまに大学の友人を招き入れ遊んでいる。

今日は、夜ごはんはもう食べたのですぐに風呂に入った。

お風呂は憩いの場であり、悩み事をするときにいつも使っている。あまり長く入っているとのぼせるが、ちょうどいいタイミングで出ると体にいい感じに熱が回り元気にさせてくれる。

今日はいいことばっかりだったしテンションが上がりすぎたので、なにかしようとは思わなかった。ただただ、この嬉しさを明日にも残しておきたかった。

ベットに寝転ぶと僕は枕と布団を抱いて変な声を出していた。口からやっぱりこぼれてしまった。


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