ホテル療養3日目:1/14

ホテルで缶詰になる生活は三日目になると退屈感が増す。食事を取りにロビーに行くことだけが許された外出で、音楽を聞くか動画を見るかしかない。今日も退屈だなと思っていたら、先日乗ったメッセージが貼ってあるエレベーターの壁に更に付箋が増えていた。内容を読むと「三日目です」と書いてあるものが二枚もあった。やはりみんな三日目から退屈になるのだろうか。「ペッパー微妙ですよね」と書いてあって面白かった。彼は毎日変わらず元気で、ロビーにいる人達を健気に励ましていた。彼は言う、「コロナウイルスとの戦いのためにしっかり食べましょう!」。しかしペッパーには申し訳ないが、その健気さは戦時中を思わせるようなメッセージ内容と相まって、どう見てもディストピア小説の光景にしかなっていない。彼は一生懸命、仕事をしているのに私からはそんなふうに思われてしまう。私はペッパーを少し可哀想だと思うようになっていた。

ペッパーの他に退屈しのぎが必要だと感じていた私は、食事を終えたらすぐにゴミを捨てに行くことを思いついた。そうすれば一度の食事の時間に二回外に出られる。部屋も片付くし、運動にもなる。一石二鳥だ。もちろん時間内なので誰からも文句は言われまい。

味のない朝食を済ませ、運動をする。看護師による健康確認もすぐに終わり、持ってきている本を読み始めたが今ひとつ集中力が続かない。新聞もないからYouTubeでライブ配信されているニュースを見た。ちょうどコロナウイルスに感染したがホテルに空きがなく自宅から移動できない人のニュースが流れていた。そのその動画には視聴者からのコメントがリアルタイムで流れてくる仕組みになっている。そのコメントが罹患者に対して辛辣なコメントばかりだ。罹患者の労働状況、家庭の経済状況もわからずによくもここまで言えるものだ。感染する人が悪いと言いたげでもある。こういう垂れ流された悪意には触れてはいけなかった。私は気持ちが落ち込んだ。

会社からメールが入った。実はホテル療養が明けてすぐの月曜日に健康診断を予約していたのだ。この状態で受診に行って良いのかを確認していた。そうするとやっぱり次の月曜の受診は避けましょうという事になった。職場への復帰については検討中であるが、リモートワークになることは間違いないだろうと言うことだった。私の罹患によってリモートワーク化が進むのであれば必ずしも悪いことばかりではなかったと思うことにする。

昼食を取りにロビーに降りる。弁当のガラを捨てる際に他の人の捨てたものを見るとカップラーメンなどを持ち込んでいる人が結構いる。若い人はあの弁当だけでは食べ足りないだろう。実は弁当は一人一個と決まっているわけではない。人数分以上に用意されていて「足りない方はご自由にお持ちください」と書かれている箱にも弁当が入っている。もっとも献立は同じだし、二つ食べたがる人もあまりいないだろう。私は「もしかしたら内容が違うかもしれない」と期待して毎回覗く。期待する方がどうかしているとは思うが、期待はいつも裏切られる。もちろん、私は持っていかない。

今日は昼食時にビスコがおやつで出ていた。ありがたいと思う。ただ小さなビスコを「一人お一つでお願いします」とはシビアだ。クリームとバターとチョコの三種類のバリエーションがあり、私はクリームを持っていった。またそろそろコーヒーも欲しいと思うようになっていた。飲み物が置かれている長机をよく見ると粉末の「Blendy」が置かれていたのでそれも持っていった。コーヒーがあれば寝起きがスッキリする。

昼食を食べたらまた眠たくなってしまい、昼寝をした。いくら療養とは言えここまで眠り続けているのは却って身体に悪いんじゃないかとさえ思う。寝るのを我慢しようかと思ったが睡魔には勝てなかった。起きたら味がわかるようになっていることを願って眠った(当然そんなことはなかった)。目が覚めた後はYouTubeを見る、音楽を聴く、持ち込んだおやつを食べる。水とお茶を飲み時間が過ぎるのを待つ。

ホテル療養は16日の午前中まで。明日が最後の夜になる。なお先日のTinderは一人副業系のアカウントがマッチした。それから数人マッチしたのでメッセージを出した。しかし返事はいただけていない。




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