ドンペンさん

友達は私の彼のことを、ドンペンさん、と呼んだ。

由来は、彼の婚活サイトの写真は、ドンキホーテのペンギンが映っているものだったからだ。ビニルの安い青いペンギンを右手に持って、彼は、白いワイシャツの上でてれ笑いのような笑顔をしていた。髪型は少しもじゃっとしていた。

私がその人と「やりとりをしてみよう」と思ったのは、ペンギンに興味を惹かれたことが大きい。

彼はなぜ、このような大切な写真にドンキホーテのペンギンを選んだのか。可愛いと思ったのか。可愛いと思ったにせよ、せめて女子ウケしやすいディズニーのグッズはなかったのか。あるいはポケモンのぬいぐるみなら話のネタにもなったのに。ドンキホーテのペンギンなんて「よくドンキいくんですか」「どこのドンキによくいきますか」くらいしか、話が広げられない。なぜ、そんなペンギンを選んだのだろう、という好奇心が私に湧いてきた。

私は彼から「いいね」というリクエストを受けていた。これは自分が良いな、と思った人に送ることができるリクエストで、双方が「いいね」をすれば、メッセージのやり取りができる機能だ。私は、しばし、このペンギンに思いをはせた後、「いいね」とリスクエストを承諾した。

それから、彼とのやりとりが始まった。何通目かのやりとりで私は「なぜペンギンのぬいぐるみの写真を使っているんですか。ペンギンがお好きなんですか」と聞いた。彼がなんと返すか好奇心があった。普段よりも返信までの時間は長かった。翌日に彼から返信がきた。

「そうなんです。ペンギンが好きなんです。ペンギンは空を飛べない鳥、とも言われますが、その分、水中ではとても早く泳ぐことができます。『海を飛ぶ魚』とも言われます。ペンギンは空は飛べませんが海は飛べるのです。

私は営業なのに、うまく人と話せないんです。でも話以外で人を楽しめたいと思って手品や楽器を習ってきました。なんだかその思いをペンギンの生き様に重ねてしまって。

鳥なのに飛べない鳥。でも泳ぎは早い。私も営業なのに話は苦手。でも、その分、他の手段で人を楽しませられるって。」

私は、想定外の返信にその返信に「へぇ」といくばくかの驚きを感じた。彼の手品は見てみたいなと思った。話が得意でない人間が、それを埋め合わせるために磨いた手品は見てみたいなと思った。そして、「海を飛ぶペンギンは空を飛ぶ鳥より幸せなのか」といじわるな質問を聞いてみたいな、と思った。

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