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眠る前に読む小話

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眠る前に読む一言小話です 読者になっていただけるととてもうれしいです。
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2016年8月の記事一覧

人は秘密の話をどの場所でしているのか?

2017年、シークレット研究所の調査によって、「人はどの場所で秘密の話をするか」という分析が行なわれた。それは日本人1万人を対象にしたこれまででもっとも大きい秘密に関する調査であり、その結果、今まで分かっていない秘密の生態系が露わにされた。

人々に衝撃を与えた事実の1つが「人は秘密の話をどこでするか」であった。3番目に多かったのは7%の「温泉」であった。すなわち人は、温泉に浸かりながら秘密の話を

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一番線のない駅

一番線のホームがない町だった。実際にはホームの名残はあるけれど、トイレとなっている。そして、使われていない線路だけが残り、2番線と3番線だけが使われている。

横須賀にあった横須賀造船所に天皇が行くために使われた路線が一番線だった、と言われている。本当かどうか知らないが、いずれにせよその町には、1番線がない。

なかったらなかったで何も苦労はないのだが、ただ、なぜか不思議な喪失感がある。大げさにい

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明日のお弁当のおかずを考える課長

最初に聞いた時は信じられなかった。25歳の人間にとって「目覚ましなしに朝、目が覚める」なんて、超能力でしかなかった。

「朝、5時30分には起きますよ。子供のお弁当を作るとなると、それくらいに起きなくちゃいけなくて」。40を超えた男がミートソーススパゲティをぱくつきながら言う。スパゲティの熱気で曇ったメガネをズリ上げ、

「子供が隣で寝てるんで、目覚ましはセットしません。大丈夫ですよ。その気になれ

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食べログ3.0の中華料理屋の魅力

サトシは、人がいない中華料理屋が好きだった。ただし、毎日いく、というわけではない。定期的に、体がそのような中華を欲しくなる。

「人気のある中華」ではない。味が今ひとつピンとこないが、しかし、ご飯は大盛りで腹には貯まる。油もたっぷりで食欲はそそる。そのような雑な大皿の中華がでてくるような店。そこで、茄子の豚肉炒めかチンジャオロースを食べる。客は、他に1組か2組で。店の人は中国語で雑談をしているか、

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欠けた公園

その公園には欠けているものがあった。

しかし、揃ってもいた。たとえば、噴水があった。5メートルも吹き上がる噴水は、公園の中心に据えられ、多くの人々の目を楽しませてきた。朝の10時から17時まで、5分間隔で吹き上がり、時には鳥が水を飲み、子供がボールを投げ入れた。その周りの芝生には自然と人々が集まり、ゴザやビニールシートを持ち寄り、雑談を交わしていた。

遊具もあった。テニスコートさえあった。その

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歯医者で流れる映画の謎

室内で流れている映画を眺めていて「ん?」と気づく。何かおかしい。

私の行きつけの歯医者では診察台の前にテレビがおかれ、そこでは映画が流されている。待ち時間もそれを見ながら時間を潰せるわけだ。なぜ映画か?というと、おそらく字幕を表示できるからだろう。音声を流すとうるさいし、とはいえ字幕がなければ音声がないと内容がわからない。ということで、映画が流れている。

すでにこの歯医者は10回目弱になるが、

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レシートで栞

本を読んでいると、レシートが落ちてきた。古本ならではの趣だ。きっと前の所有者のものだろう。私自身もたまにする。レシートを栞代りにして本を閉じる。

でも、そのレシートが挟まっていたのが、物語の半ばだった。その人は、その後、一気に最後まで読んだのだろうか。あるいは、途中で本を売ることになったのだろうか。読み終わってからレシートを再度、挟んだとはあまり考えにくいし。

その本は、一種のミステリーだった

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雨の後は、良い日になる

未曾有の豪雨がフランスを襲った。一週間降り続いた雨は、セーヌ川さえも反乱させた。ロワール渓谷では数千人規模の住民が避難をしていた。隣のドイツでも多くの避難者が出ているほどだった。そして、その雨はパリも襲った。

セーヌ川が氾濫し、5区や6区は家が水浸した。道路は数十センチほどの水で埋まり、多くの道が川となった。アメリは、そのうちの家の1つに住んでいた。幸い、彼女のアパートは2階だったから、部屋まで

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