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新古事記

村田喜代子著「新古事記」読了しました。

第二次大戦日米開戦後のアメリカ。オッペンハイマー、ノイマン、ボーア、フェルミ、若手のファインマン……。太平洋戦争の最中、世界と隔絶したニューメキシコの大地に錚々たる科学者たちが続々と集まってくる。
咸臨丸の船員だった日本人の血を受け継ぐ日系三世のアデラは両親にさえ物理学者の夫の仕事の内容を教えられず、住所を知らせることもできない。秘密裏に進む夫たちの原爆開発、施設内の犬と人間の出産ラッシュ。それと知らず家事と子育てに明け暮れる学者の妻たちの平穏な日々。

今年のアカデミー賞受賞映画「オッペンハイマー」で描かれた、原爆開発のために砂漠の真ん中に作られたコミュニティ・アラモアナをそこで暮らした研究者の家族の目を通して描いた作品。
あとがきによると「ロスアラモスからヒロシマへ 米原爆開発科学者の妻の手記」という本が下敷きになっているとのこと。

映画を見に行く前に読もうと思っていたのですが、遅くなっちゃった。
でもおかげでY地やオッピーや将軍のビジュアルが容易に思い浮かべられました。

映画で「キッツイなぁ」と思った、広島に原爆投下「成功」したことをアラモアナの人たちが泣いて喜んでいたところ。
この小説では真逆でした。

3年に渡って家族にも秘密裏に研究されていた何か。
1945年7月、砂漠での実験大成功で研究の内容が明らかになり(映画でもそこは重要なシーンだった)浮かれに浮かれるY地の人たち。軍楽隊のマーチ、子供たちはおもちゃの楽器を打ち鳴らし犬たちは絵の具で「ハッピーバースデーアトム!」と描かれた帯をつけてパレードを繰り広げる。

その興奮が醒めやらない八月五日夜のことだ。
 ウラン原子を詰め込んだ原子爆弾が日本のヒロシマに投下された。そのラジオ放送がY地に流れたの。新聞の束がどっさり放り込まれた。誰もすぐには信じられなかったけど、ラジオは鳴り続けたわ。
 Y地はそれで一変した。日本の死者の数も被害状況もまだよく分からない。これから調査が始まるのだ。外へ出ると昨日までの楽隊はいちどきになりをひそめて、異様な静けさだった。その底の方でひそひそと人声が流れていた。泣き声もあった。罵る声もあった。
 誰を罵るの?
 世界を司どる神を?
 それともあなたの夫たちを?
 あたしのベンジャミンを? 

こっちだと思いたいなぁ。
映画「オッペンハイマー」での広島への原爆投下を泣いて喜ぶ人たちの姿は、いくらなんでも…と思ったことでした。

ところで犬がいっぱい出てきて楽しかった。
主人公はY地の動物病院で働いていてそこで毎日犬の世話をして、犬を連れて来る奥さんたちと仲良くなるのです。
ルーズベルト大統領の犬の話も知らなかったー。

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