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この前の焼き鳥屋に行きたい

「私も同じこと思ってた!」

とは言えず、嬉しい気持ちをしまい曖昧な返事を返す。私たちは数時間前まで別れ話をしていた。切り出したのは私。さらには今回が初めてではない。食べたいものが同じと知るだけで心は踊るし、それを知って欲しいと思ってしまう。そう思える相手から、私は離れようとしている。

彼とはマッチングアプリで出会った。特にやることもなくダラダラと過ごしていた年末。時間もあるし、話し相手も欲しいし、あわよくば出会いに繋がればいいなと思ってアプリをスマホに入れた。普段は使わない絵文字を駆使してプロフィールを書き、毎日(ありがたく)くる「いいね」を右へ左へスワイプ。本当に、いろんな人がいるものだと思った。

メッセージのやりとりを始めて3往復目で「家行っていい?」なんて言ってくるフッ軽男。
恋人探しを兼ね、交流を通じて日本語を勉強しようとしているイギリス人。(めっちゃいい人だった)
「既婚者だけどいいですか?」どう考えてもよくないだろ案件のサラリーマン。

まさに、「普段出会わない人と出会いたいなと思って始めました!」なんて人にはぴったりのサービスだなと、面白半分に眺めていた。もちろん自分からハートマークを送り連絡を取った人もいれば、実際にデートを重ねた相手もいる。
最初は新鮮な気持ちで取り組んでいたこの活動も、本来一人の時間を愛してやまない私にとっては、段々と「無理矢理にでもやらなければいけないタスク」と化し、活動頻度は日々激減していった。それでも良い人に出会えたら、、という思いは捨てきれず、年始明けの仕事始めまで。と期限を設け、それまでにいい出会いがなかったらアプリを削除しようと決めた。

そうして出会ったのが、彼である。
正直に言うと、この人と話してみたい!と興味を持ったわけではなく、溜まっていた「いいね」を捌くために適当にスワイプしていた結果、彼とマッチングした。

その後、すぐに送られてきたお礼と挨拶のメッセージ。そこで初めて彼のプロフィールに目を通し、少し悩んだ。
彼は4つ年下だった。「年下か〜〜〜〜どうするかな〜〜〜〜〜」と、それはそれは真剣に5分程度悩んだ。
そう、私は断然タイプは年上で、これまでお付き合いした人も、好きになった人も、全員年上。年上絶対主義。年上の包容力が大好きな女である。一つ前の記事で「年齢は記号」とか言っておいて、めっちゃ年齢で判断していた。
悩んだ結果、理想には反するが何か感じるものがあるから、、、、なんてことではなく、「年末の暇な時間の話し相手になってもらおう。」という自惚れた理由でメッセージを返信した。

それからやり取りは毎日続いた。たまに出される電話したい雰囲気は上手くかわしつつ、2回ほどお酒を一緒に楽しみ、気づけばお付き合いが始まって、今となっては別れ話をしている。

彼と付き合って一つ言えるのは、やっぱり年齢は記号だということ。彼は私なんかよりずっと大人だ。
急に別れ話を切り出した私を怒ることも感情的に引き止めることもせず、なぜそう思ったのか、原因はどこにあるのか、どうしたら解決できるのかを私に問い、その上で二人でいる道を探ってくれる。
他人と対峙することも、自分の気持ちに向き合うことさえ億劫に思い逃げてきた私とは違い、相手を真正面で受け止め、自分の思いを伝えて、決して一人にはせず、二人で考えようとしてくれている。こんな時にでも、彼は私のことを一番に考えて愛を持って接してくれるのだ。

彼はたくさん愛してくれる人だ。
お腹を出しながら寝ている私を起こさないように寝間着を直してくれるし、よく道に迷ったり、あちこちに足をぶつけ小さな怪我が絶えない私をみて、「ばかだなあ」と優しく笑ってくれる。夕飯のお魚は綺麗に焼けた方を私にくれて、ありがとうと伝えると「バレた?」と照れ笑いしたり、ドラゴンボールの似てないモノマネを何度も披露してくる度胸もあれば、抱きついてきたと思ったらそのまますやすやと寝てしまう可愛い一面もある。

私の大好きな人。

そんな存在を手放そうとしているのには私なりの理由がある。気持ちが落ち着いたらnoteに書きたいと思っているが、まずは彼と話さないと。
あの日焼き鳥屋では話せなかった気持ちを、きちんと伝えなければいけない。

これを書いている間もLINEではいつも通りの私たちのやり取りが続いている。彼は仕事を終え家に着き、私は一足先に布団でごろごろしている。1日の終わりに彼の声が聞きたくなってしまう。だけどさすがにそれは勝手だ、別れ話をしておいて、ずるい。自分の気持ちを抑え込むためには寝るに限る。そうだ、寝てしまおう。

「ね、起きてる?」
「電話したい」

おやすみと一言言おうとトーク画面を開いていたら、彼から送られてきた。こっちは寝ようと思ってたんだぞ!なんて思いつつ、しっかり頬が緩んでしまう。彼はいつもタイミングがいい。

「私も同じこと思ってた」と、打っては消し、打っては消し、結局当たり障りのないスタンプで返す。こんなんで、ちゃんと別れ話を進められるのか、私よ。

大好きでたまらない気持ちと、好きだけじゃ一緒にはいれないの気持ち、ちょうどぴったり半分。