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思い出させてくれたこと

待ちに待ったドールが届いた。
背中に翼の刻印がある、眠り目の少年のドール。

心踊らせて箱を開けて…
愕然とした。

私はユーズドドールが好きだ。
新品より、手放されてあるじを待つドールに愛おしさを感じる。
ジャンク、なんて銘打ってあるとなおさら惹かれる。
誰にも必要とされていないドールが自分に重なり、愛してあげたくなるのだ。
新品は誰でも愛してくれるだろう。
傷や汚れがあって、元のあるじに手放された子は、私の精神に馴染んで癒してくれる。
精一杯手入れし、きれいにすることで、私が救われる。

そんな私でも、どうにもならないものもある。
キャストドールというものは、素材の性質上、年数がたったり日光に長く当たったりすると、変色してしまう。
全体的にくすんだ黄色っぽさが肌に重なって、表面が油っぽい汚れをまとってくる。
これは、素材の問題だからどうしようもない。

箱を開けた中にいたドールは、けっこうな黄変があった。
商品写真は美白されていたようだ。
まあ、写真はフラッシュなどの具合もある。仕方がないのだけれど…。
肌色のくすみもひどく、あちこち汚れがあった。
汚れは足首だけだと書かれていたのに、全身そこそこ黒く汚れていて、ボディペイントも色くすみがすごい。

これは…。
手に終えないレベルでは…?

丁寧に拭いてみた。
ほこりっぽい。ちょっとベタベタする。
長く放置されていたようだ。
服を着せてみたら、美しい少年になったが…。
やはり汚れが気になる。

一大決心し、私はこの子を全身ケアすることにした。
目のとても細かいスポンジヤスリで、汚れとくすみを磨きとる。
ボディペイントを全部消すということ。
ミスしたらお顔も大変になる。
それでも、今のままよりは。

丁寧に磨いていくと、磨いた場所とそうでない場所の差がくっきりした。
完全に美白はできないが、ドールの美しい肌があらわになっていく。

黒ずみに包まれていたドールは、半日で、やさしい色合いの肌をした美少年になった。
顔は、可能な部分だけうすく磨いたのがうまくいった。
顔のメイクは長年で肌に染み込んだのか、軽く擦った程度では削れたりしなかったのだ。

薄汚れた世界に沈み、私も扱えるか悩んだほどのドール。
一か八かでやってみたら、ドールはぴかぴかになり、心なしか嬉しそうに見えた。

思いさせてくれた。
私もかつて、よどんだ世界に沈んで道を見失っていた。
私は、さまざまなものに見捨てられたけれど、このドールのように頑張って生きてきた。

この子は私を救ってくれた。
この子がいなければ、思い出せなかったかもしれない。
この子が汚れていたのは、私が困惑するほどの姿だったのは、「きれいにして」と訴えかけるためだったのかもしれない。

美しくなったドール。
初見では、正直、がっかりした。
今は、それさえもが必要なことだったように思う。

はれて、私の家族の一員となったドールくん。
私に、多くのことを思い出させてくれて、ありがとう。

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