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お話を子どもと楽しむvol.20  知ってるお話

「知ってるお話」を楽しむ

 子どもの聞き手は、知っているお話を喜びますー だいたい、どのストーリーテリング入門のテキストにもそう書いてあります。本当でしょうか?結末を知っているお話なんてつまらないんじゃないかしら・・・ わたしも長いことそう思っていました。主人公が危ない目に遭ったりするお話では、どうやって切り抜けるんだろうと、はらはらドキドキしながら手に汗握って聞き入るのが面白いんで、展開を知っていたら面白さは半減してしまうように思います。
 ところが、子どもたちにお話を語っていると、知っているお話だからこそ楽しめたんだなぁと思えるような場面に何度も遭遇するのです。つい先日もこんなことがありました。トワイライトスクール(放課後児童クラブ)の1年生、40人ほどの5月のおはなし会でのことです。このトワイライトスクールには3年ほど続けて行っていますが、今年の1年生にお話をするのは2回目です。まだ、絵本などの目からの情報なしに、耳だけで聞くお話には慣れていない子どもたちだなので、この日のプログラムは、比較的短くて聞きやすいお話を選びました。

 おいしいおかゆ 『おはなしのろうそく1』(東京子ども図書館)より
 にんじん、ごぼう、だいこん 『日本の昔話1』(福音館書店)より
 おおかみと七ひきの子やぎ 『子どもに語るグリムの昔話1』(こぐま社)より

「にんじん、ごぼう、だいこん」のあとに、「たけんこがはえた」のわらべうたで少し遊んだあと、「つぎのお話は、『おおかみと七ひきの子やぎ』です」と言ったとたん「知ってる、知ってる」「保育園で劇やった」と、知ってるコールの嵐が巻き起こりました。ちょっと静まるのを待って「じゃあ、みんなの知ってるお話とおなじかどうか、よーく聞いててね」と言ってはじめました。
 するとどうでしょう!どの子の目もまっすぐにこちらを向き、うなずきながら聞いています。おかあさんやぎの言いつけを聞く子やぎたちも、きっとこんなふうにだったろうと思うほどです。
 子やぎたちが、おおかみを家に入れてしまうところー「子やぎたちは、本当のお母さんだと思いました。そこで、戸をあけました」ーでは「だめ〜!」という声が上がりました。「お母さんやぎがどんなに泣いたか、みなさんにもわかるでしょう?」という問いかけには、うんうん、うんうん、と頷き返してくれます。そしていよいよ、オオカミが井戸にずり落ちる場面では「やった〜!」と、ガッツポーズ!
 実は、おかあさんやぎがお腹を切り開く場面あたりでチャイムが鳴り、上の学年の子どもたちが部屋に入り始めてしまいました。集中が途切れても仕方がないような状況だったのに、子どもたちは最後までお話の中にすっぽりと入りこんでいたのです。
 何がこんなにも子どもたちを惹きつけたのでしょう。もちろん、お話そのものの力ということもあります。ですが、初めて聞くのではなく、知っているお話だったからこそ、子どもたちひとりひとりが、自分で「絵」を思い描いて、脳内で動画を上映することができたことが大きいように思います。
 お話を楽しむためには、ことばを聞いて、それを絵として思い浮かべることができ、さらに、あたかも動画を見るようにその絵を動かすことができなければなりません。わたしはこれを「脳内で動画を上映する」と言っていますが、幼い子にとって、初めて聞いたお話では、知らない言葉が出てきたり、展開についていけなかったりして、必ずしもうまく上映できない場合が多いのではないかと思います。
 「おおかみと七ひきの子やぎ」は、保育園で絵本を読んでもらったりして、よく理解している物語だったからこそ、耳から入ることばだけでイメージでき、心から楽しむことができたのですね。
 同じようなことを「てぶくろ」(ウクライナ民話)を話したときにも感じました。語り手たちからは、子どもに「知ってる」と言われると怯んでしまう、というような声も聞きますが、知っているからこそ楽しめるというのは、紛れも無い真実です。だからこそ、昔話は繰り返し繰り返し語られて、いく世代もの時を超えてきたのでしょうね。



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