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お話を子どもとたのしむ Vol.13 昔話と創作のお話

ストーリーテリング入門講座(3)

かしこいモリー と こすずめのぼうけん

初めにお話を2つ聞いてもらいます。
ー かしこいモリー (イギリスの昔話)
   『愛蔵版おはなしのろうそく1』(東京子ども図書館)
ー こすずめのぼうけん (ルース・エインワース作)
   『こすずめのぼうけん』(堀内誠一画 石井桃子訳 福音館書店)
   『愛蔵版おはなしのろうそく7』(東京子ども図書館)


「かしこいモリー」の方は、作者が誰かはわからない、長く語り伝えられてきたイギリスの昔話です。「こすずめのぼうけん」の方は、ルース・エインワースというアメリカ人が子どものために書いたお話です。こういう、作家が書いた作品のことを、わたしたちは昔話と区別するために「創作のお話」とよんでいます。

耳で聞いてわかる文学

【子どもが感情移入できる主人公】
 どちらも、私たちがよくお話会で語って、子どもたちもよく聞いてくれるお話です。両方とも、子どもが、耳で聞いてわかる文学としての条件が整っているんですね。まず、子どもたちが感情移入しやすい主人公であることです。「かしこいモリー」の主人公は聞き手の子どもたちと同じくらいの女の子ですし、「こすずめのぼうけん」は、小さなすずめですから、子どもが自分と重ねやすいんですね。
「かしこいモリー」では、「下の三人の女の子を森の中に捨てました」というところで、子どもたちはぐっと集中します。子どもは、家から「捨てられる」ということのおそろしさが、自分のこととして感じられるのだと思います。
 そして、初めて飛ぶことができた子スズメの「ぼく、ひとりで世界中をみてこられる」という気持ちは、どの子も持っているのでしょうね。ちょっと歩けるようになった子が親が手をつなごうとすると、その手をふりはらってひとりで歩きたがりますね。それと同じなんだと思います。

【シンプルな筋・満足のいく結末】
 どちらもおはなしの筋は一直線でシンプルです。
 モリーは森に捨てられてから、大男の家に泊まって殺されるところを逃れて王さまの御殿にたどりつき、王さまとの取引で大男のところへ3回もどって行って、姉さんたちも自分も王さまの息子と結婚するという結末まで、時間がもどったり、話が横道にそれたりせず、結末に向かって一直線です。
 こすずめもそうですね。遠くへ飛びすぎて、休むために、からす、やまばと、ふくろう、かも、の巣に行って、探しにきたお母さんに出会い、おんぶしてもらって、無事にうちに帰るまで、話があっちこっちいくことはありません。
 そして、お話の結末は、どちらも「ああよかった!」と満足のいく結末です。

【繰り返し】
 特徴的なのは、どちらも繰り返しがあるということです。
「かしこいモリーでは大男の「やいモリー、二度ともどってくるなよ」は同じ言葉で3回出てきます。こすずめも、「すみませんが、中に入って休ませてもらっていいでしょうか」とやはり同じ言葉でこれは4回言うんですよね。 
 3回の繰り返しというのは昔話によくあるパターンで、昔話は3という数が好きなんですね。「三枚のお札も」も「三びきのやぎおがらがらどん」も「三」ですし、「ババヤガーの白い鳥」でも、マーシャは帰り道で白い鳥に3回おそわれます。昔話は3が大好きです。
「こすずめのぼうけん」は、作家の創作ですから、そのセオリーからははずれて、繰り返しが4回になってます。

昔話と創作のちがい

 昔話の幸せは、よく、富と結婚、身の安全というふうにまとめていいますけれど、お金持ちになることと、結婚すること、そして、危険な敵をなき物にして、安全を確保することなんですね。とても具体的なんです。お金とか結婚とかというと、ちょっと現代人の感覚からすると「身も蓋もない」ような気もしますが、むかしから人びとの切実で基本的な願いだったんでしょうね。
 創作のお話である「こすずめのぼうけん」には、トロルやら大男のような具体的な敵が出てくるわけではありません。結末も「お母さんのあたたかい翼の下でねむる」という、ささやかな幸せ「幸せな雰囲気」をあじわうものです。
 ロシアの昔話「ババヤガーの白い鳥」も、主人公が「冒険をして無事に家に帰る」話ですが、結末は「ふたりは、おみやげをもらいました」です。具体的に目に見える物をもらうんですね。
 聞き手が幼ければ幼いほど、具体的な方がよくわかります。「お母さんのあたたかい翼の下で眠ること」は、もちろんすごく幸せなんだけど、小さい子にとっては、そういう目に見えない幸せよりも「おみやげをもらう」という目に見える喜びの方が実感できる「幸せ」なのだと思います。
 昔話は、長い年月をかけて語り伝えられる間に、曖昧なもの、抽象的なものは削ぎ落とされて、だれにでも実感できる、目に見える具体的なもので構成されるようになったのでしょう。だからこそ、時代を超えて、大人も子どもも楽しませてくれるのだと思います。
 一方、創作のお話は、作者の意図した対象に向けて書かれたという側面がありますから聞き手を選びます。語る場所や相手、語り方をよく考えないといけないことが多いですね。


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