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#異世界サウナ ⑥-3【異世界で追放されても、サウナさえあれば幸せです ーできれば水風呂と外気浴スペースもつけてくださいー】

前回

 三人はサウナの入り口でタオルをとり、中に入る。タオルもサイズが豊富で、羽や角や尻尾を守るために巻きつけられる長いタオルもあったが、ショチトは「いいんじゃそんなもん」と無視して突っ込んだ。
 サウナ小屋の中は広く、ひな壇のようになった椅子が長く横に伸びている。薄手のタオルのような布――サウナマットがしかれ、数組の男女や友人同士が談笑していた。一段一段がかなり広くなっているため、寝転がって熱と湿度を味わっている者もいる。それぞれが、思い思いにサウナの中で過ごしていた。
「このサウナはあんまり熱くないんですのね」
「うん……ゆっくり過ごしてほしいからね。自慢の『遠赤外線ストーブ』で、空気が熱くならないから、長くいられるのさ」
「ちょっと物足りないが、悪くないのお!サウナの中で横になれるなんて、贅沢な気分じゃ」
 三人は最上段の一角、座面がゆるやかな曲線になっているところに並んで寝転んだ。基本的にサウナは高い場所ほど熱いため、寝転がると幾分ぬるく感じるが、長居するにはちょうどよさそうだった。
「そういえば、ショチト。あなた、普段は何をしてらっしゃる方ですの?」
「ん?ワシか?」
 ショチトはサウナマットにうつ伏せになった。形の良い胸が体の下に敷かれる。
「むずかしい質問じゃのう。あんまり仕事らしい仕事は普段しとらんのじゃ。たまに狩りなんかがあると、母上についていったりもするが」
「まあ、もしかしてお母様は地位のある方ですの?」
「ま、そんなところじゃな。おかげで遊んで暮らせてはおるが、どうも窮屈でならん。それで、たまに夜中に抜け出してサウナに来ておるんじゃ」
「そうなんですのね……似てますわね、私たち」
 しばらくそうしていると、セレーネはふと隣にハラウラがいないことに気がついた。体をおこすと、いつのまにかサウナ小屋の中には多くの人が集まっていた。そこに、ハラウラが戻ってくる。先程カウンターで客の相手をしていた小柄なネ族――ラクリをつれてきていた。
「えー、本日は『サウナ&スパ みなの湯』にお越しいただき、まことにありがとうございます!14時からのロウリュ・アウフグースサービスを担当させていただきます、ラクリと申します。どうぞよろしくおねがいします!」
 挨拶が終わると、サウナ小屋につめかけた客たちはいっせいに拍手した。あっけにとられている二人のもとに、ハラウラが再び戻ってくる。
「ちょうどいい時間だったね。これから、アウフグースをするから、体験していきなよ……」
「アウフグース?ロウリュなら参加したことがあるけど、それとは違いますの?」
 下段のほうで何やら準備をしているラクリを見ながら、セレーネはハラウラに聞いた。以前から『みなの湯』では、香油を入れた水を石にかけて蒸気と香りを楽しむロウリュを提供していた。
「アウフグースもロウリュの一部というか……ロウリュでできた蒸気を、タオルであおいで撹拌したり客を熱くしたり、そういうのがアウフグースなんだ」
「ワシは一回やられたことがあるぞ。体のでっっかいワン公がタオルばっさばっさ振ってのう、体じゅうがめちゃくちゃ熱くなるんじゃ!」
 『みなの湯』では改装に入る少し前にアウフグースを試したことがあり、大柄なク族――ホロンの巻き起こす熱波はかなりの好評だった。
「しかしここには石のストーブもないし、あのチビに熱波はおこせんじゃろ。ちゃんとできるのか?」
「ふふ、まあ見てなよ……」
 ラクリは野外調理用の炉……七輪のようなものを取り出し、そこに水をかけた。馴染みの深い水蒸気の音がサウナ小屋に響き渡る。広い小屋の全体に行き渡るように、何回かたっぷりと水が注がれていく。
「あれ、確か前哨地を視察したときにみたことがありますわ。考えましたのね」
「すごいのはここからさ……」
 ラクリは何やら不思議な形の機械を両手に持った。持ち手の部分に筒がついており、セレーネはその形から文献で見た『銃』を思い出したが、彼が何度か引き金を自分に向かって引いているのが見えたので、どうも違うらしい。
「では、まいります!」
 ラクリが筒の部分を天井に向けて、両手の引き金を引いた。

 ギュオオオオオンッ!!!

「きゃあっ!」
「うわ、なんじゃあれは!!」
 轟音とともに、筒の先端から風が吹き出す!たちまち溜め込まれた蒸気が撹拌され、三人の体に降り注ぐ。先程までのゆるやかな熱から一転して、容赦のない熱さだ。ラクリが先端をセレーネたちに向けると、荒れ狂う怪鳥の如き風と熱が叩きつけられる。
「あ、熱っ!熱いですわ!」
「これが、『みなの湯』の新名物……名付けて『爆風アウフグース』さ……すごいだろう」
「うはははは!こりゃあ効くのうッ!」
 熱に強い体質なのか、ショチトは楽しげに腕をひろげ全身で熱風を受け止めていたが、セレーネには相当キツい温度だった。
「無理はしないでくださいねー」
 そういいながらもラクリは客たちに熱風を浴びせていく。タオルでのアウフグースを受けたことがある者からしても、機械の力で容赦なく、長時間浴びせられる熱風の刺激は格別だ。セレーネの耳が真っ赤に染まる。
「ひぃっ、も、もう出ますわ!」
「じゃあ、ボクも出よう。水風呂を案内するよ」
「何、もう出るのか?情けないやつじゃのう」
 セレーネを含め数人が耳を手でおさえながら、サウナ小屋の出口へと向かっていく。ショチトとハラウラはまだまだ余裕だったが、十分あたたまったので水風呂へと向かうことにした。

サウナに行きたいです!