サイゼリヤ2075

新宿の超巨大モニターに「サイゼリヤ党 圧倒的多数」の文字が映し出された。まだ、開票が始まってから30分と経っていない。
時は2075年。この国のトップはサイゼリヤになった。

「初デートにサイゼリヤ」
文字数にして10文字。しかし、幾度となく争いを産んできた言霊である。男性と女性の価値観、庶民と貴族の価値観。SNSという最強の人種るつぼにこの言葉を投げ込むと、テルミット反応もかくやとばかりの大炎上を起こすことが知られている。
そして、鎮火後には毎回決まった結果に落ち着くのだ。——「サイゼリヤの企業努力、凄すぎ」
イタリア人を持ってして「本場の家庭料理」と言わしめ、料理系のインフルエンサーもこぞって誉め立てる味、そしてリーズナブルなお値段。
これを実現するためには眠れない夜もあったであろう、商品開発の人々の血の結晶がミラノ風ドリアであり、フリウリ風フリコなのだ。
インターネットが大戦争を繰り広げる度に企業努力が国民に伝わる。
サイゼリヤの株は爆発的に伸び、2035年にはトヨタの時価総額を超えた。

2045年には化学業界、機械工業、AIの開発など多角的な分野に乗り出し、いずれも大成功を収める。しかし未だにミラノ風ドリアは300円である。リーズナブルだ。日本人は未だに「初デートにサイゼリヤ」の話を擦り続ける。それどころかSAIZERIYA memeとしてアメリカ、イギリスなど英語圏の国でも爆発的な流行を見せた。

2055年、衝撃が起こる。ミラノ風ドリアが250円になったのだ。これによりインターネット上でのサイゼリヤ論争は激化。3日に1回はインターネットのどこかでサイゼリヤ関連の大バズりが見られるようになった。

2065年、日本のすべての飲食店はサイゼリヤの傘下となった。ミラノ風ドリアは80円。サイゼリヤ・エージェントが飢餓に苦しむ国や紛争地帯に無限とも言えるイタリア料理を供給し、ノーベル平和賞を5年連続で獲得するという快挙を成し遂げた。もはや「初デートにサイゼリヤ」などという声は聞こえない。なぜなら国内すべての飲食店がサイゼリヤ傘下だからだ。

2071年にサイゼリア次元エネルギー社が開発した新技術により、無からイタリア料理を生産できるようになった。これにより人類の食糧問題は恒久的に解決。この快挙を受け、世界終末時計からは永久の繁栄を象徴すべく針が取り外された。この年、サイゼリヤは政党・サイゼリヤ党を設立。公約は「全国民にベーシックイタリアン」
すべての人間に分け隔てなくイタリアンを供給する、というのだ。
支持率は鰻登りである。当然だ、今となっては港区のタワマン女でさえ「初デートがサイゼリヤでなんと幸せなのだろう」と感涙で咽び、床が地上階まで落下するのではという勢いで頭を擦り付けている。
日に8度、サイゼリヤ本社への祈りを欠かさないサイゼリヤンなどという人々も生まれた。

「まず初めにサイゼリヤがあった。
サイゼリヤはミラノをお作りになった。
こうしてドリアが生まれた。」
というわけだ。

——そうして、今に至る。

サイゼリヤは今は日本で、いずれ世界となり、宇宙となる。そして星々にドリアの種を撒くのだろう。
そう、これこそまさにコスモドリア。サイゼリアユニバースへの橋頭堡なのだ。

無論、言うまでもない事ではあるが、この歴史の起点は、今、くだらないプライドや安易なバズのためにサイゼリヤを話題に挙げている貴方たち、そして私なのである。