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短編小説

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#海

海と海底都市

海と海底都市

 透明な海の底は、きっと、柔らかな気持ちで溢れているんだろう、と、ふと、海は思った。ワンルームの部屋の窓際、少しずつ夜に沈む、ぼんやりと開けた瞳、その奥、街灯、が、揺らぐ、溶ける、微睡み、とろっとした肌触りの静けさ、泣きそうな、深い。

 こんな夜の入り口では、心の形がなんだかわかる、それは、小さな海みたいで、丸く、ぬわぬわと揺れ動く、胸のあたりに浮かぶ、流れる水の音、柔く、そうして丸く——それは

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海_初稿

海_初稿

 あの夏の僕は、いつも海を見ていた。
 海は退屈そうに漂って、漂うのに飽きたら夢を見た。
 黄昏時には黄金色に染まって、海は静かに風に揺れていた。

 ◎

 おかしなことを言うようだけど、僕の街から海は見えない。空だって大して見えやしない。ビルというビルも無いくせに、僕の街は不思議と窮屈だった。一本の道路を西に向かえば都市に出て、東に向かえば山に着く。ただそれだけだ。

 窮屈な街で誰かと出会う

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