[物語]まだ学校の宿題、自力でやってんの?

※この物語はフィクションです。3分で読めます。

昔々? あるところに、高校生のAくんがいました。
Aくんはいつも「あー、宿題が面倒だぁ」とこぼし、まったくやりません。
毎回先生に怒られるので、なんとか楽できないか、といつも考えていました。

最近は宿題代行なんてサービスもあるらしいけど、お金は使いたくない。
お金も時間もかけずに宿題を終わらせることはできないか?

ふと、ひらめきが。
そうだ、いつも宿題をやってくるクラスメイトに写させてもらおう!

Aくんには宿題を見せてくれる友達がいませんが、問題ありません。
この学校では先生に提出する前に、いったん教壇にノートを集めるルール。

つまり、いちいちクラスメイトに許可をもらわなくていい。積み重なったノートから勝手にだれかの宿題を写してしまえば、自分は楽ができる。
Aくんはニヤリと笑いました。

翌日。
早速、作戦決行です。

教壇の上にドッサリ積まれたノート。
目についた1冊をサッと抜きとり、手際よく写します。

……ものの5分で終わってしまいました。
自力でやれば1時間、2時間かかる苦行も、こんなあっさり終わってしまうとは。

「あー、楽すぎる。オレってば天才かも」
味をしめたAくんは、すべての宿題を同じ作戦で乗り切りました。


ある日のこと。
先生は最近Aくんが宿題をやるようになって感心しました。

ただ、他の生徒と読書感想文の内容が似ていたり、計算で同じところを間違えていたり、と気になることも。

放課後、廊下で見かけた彼にたずねます。
「Aくん。まさかとは思うけど、他の人の宿題を写してないかい?」

「やだなぁ、先生。提出日を見てくださいよ。オレはだれよりも早く出してますよ!」

宿題として提出するノートには、提出日を自分で記入します。
クラスメイトが書いた日付より1日早い日付をAくんは書いていたのです。

「そっかそっか! 疑って悪かったな! ちゃんと評価しとくから!」
先生は笑って職員室へ戻っていきました。

Aくんは見えなくなった先生の背中にポツリ。
「絶対バレないさ」


ある日の放課後、教室でAくんは声高々に言いました。
「なあ! みんなまだ自力で宿題やってんの?
 オレのやり方ならラクできるよ!」

仲間を募ってみるものの、
「いやいや……」
とイマイチのってこないクラスメイト。

Aくんは続けます。
「オレのやり方なら先生にバレないし!」
「画期的な方法だからさ!」
「エリートたちも裏でやってるよ!」

矢継ぎ早に誘い文句をくり出すと、一部のクラスメイトが
「本当かな……?」
「ちょっと興味あるかも」
と寄ってきました。

教壇の前に集まった数人に小声で教えます。
「このノートを勝手に取ってさ、中身を写すんだよ……。
 そのまま写すんじゃなくて、ちょっと変えるのがコツな」
「……わ、ほんとに早く終わった!」
「な? 楽勝だろ?」
「ねぇ、みんな! この方法すごく楽だよ!」
こうして少しずつAくんのマネをする人が増え始めました。

Aくんの技は日を追うごとに磨きがかかります。
「ノートを見ながらのんびり写すのは時代遅れだ。
 今はスマホで撮影して、ノートはすぐ戻す。
 で、写真から文字をコピペする。
 最新技術はどんどん活用しないと!」

「さすがAくん! 頭いい!」
宿題がラクに終わるとあって、じわじわと仲間が増えます。

宿題を回収する先生たちは、クラスのほとんどの読書感想文が『走れメロス』になったり、ほぼ全員が同じところで計算を間違ったり、おかしなことになっている、と頭を抱えます。
しかし、だれがだれの宿題を写しているのかわかりません。

先生の目をうまくかわすAくんは笑いが止まりませんでした。
「まじめクンたち! 毎日オレのために写させてくれてありがとな!」
ニヤけながら今日も5分で宿題を終わらせ、余った時間で遊びに出かけます。

Aくんと仲間たち。
頭を抱える先生。
そして、いまだ自力で宿題をやる半数のクラスメイト。

はてさて、Aくんの行き着く先は……?


ある日のこと。
仲間たちが目をキラキラさせて、Aくんにこんな提案をしました。

「Aくんのやり方スゴいからさ! 有料にして売ればいいんじゃない!?」
「そうだよ! 宿題する時間がない人、めっちゃ助かると思うし!」
「1万円で売ったらさ、生徒100人が買えば100万円だよ!?」

「ふーん。100万か、いいかもね」
悪くない。そう思ったAくんは、寝る間も惜しんで1週間かけてやり方をまとめた教材を作りました。

宿題を写すときにだれのノートを選ぶか、先生にバレなくする方法、最新技術を使って時間短縮する方法など、画像や図解も込めたこだわりの教材です。

ちょっとこだわりすぎたのか、分厚い参考書のような冊子が爆誕しました。
Aくんは感無量。感じたことのない充実感。はじめての超大作です。
できたてホヤホヤのそれを、ためしに数人の仲間に見てもらいます。

「おー! わかりやすいよ、これ!」
「これ見たら、だれでもできるんじゃない?」
「いけるいける!」

「へへっ、オレとしても自信作だし?」

仲間の反応を見て手応えを感じました。
その勢いのまま、販売開始は明日の正午に決定!
重い冊子は教室に保管し、仲間とその周辺にきっちり販売の予告をしてから帰宅。

きっと口コミで瀑売れ間違いなし。
「100万円か……なにに使おうかな!」
その日はドキドキしながら眠りにつきました。


翌朝。
ソワソワしながらAくんが登校すると、なにやら校内がざわついています。

みんながみんな、どこかで見たことある冊子を持っているのです。

「ちょ、ちょっとそれ見せて!
 ……これ、オレの教材じゃん」

文章が少し違う気もしますが、
話の流れや内容を見れば
間違いなく自分の作ったものでした。

まだ販売してないのに、なぜ?
オレの100万円は?

「これなら宿題ラクに終わるね~」
「こんな方法があったとはね~」
戸惑うAくんをよそに、校内の生徒はみんな冊子に夢中です。

「どうなってる!?」
急いで昨日のメンバーを探し、
廊下で見つけた一人の肩をつかむと
彼は無邪気な声で言いました。

「あ! Aくん、写させてくれてありがとう! おかげで稼げたよ!」


 * * *

~ あとがき ~
さくっと読める物語、お楽しみいただけたでしょうか。

今回の結末は「仲間の裏切り」でした。
裏切りと言っても、彼らに裏切った感覚はなく、
Aくんに教わったことを悪気なく実行したに過ぎません。

まさか、その矛先が自分に向くなんて。

がんばって作った成果を奪われる。
それはどんな気持ちでしょうか。

奪う側にいる限り理解できないこと。
本気でがんばるからこそ、はじめて
奪われる側の気持ちがわかります。

さて、今回は少しホラーチックに幕が閉じましたが、
・先生たちが宿題を写す生徒を見破って、Aくんの評価が最低になる
・まじめに宿題をこなすクラスメイトから叱られる (だいぶかわいい言い方)
なんて結末もあるでしょう。

なににせよ、人が長い時間と労力をかけて作ったものを
自分本位の理由で奪い続ければ、
しっぺ返しをくらう可能性は高そうです。

 * * *

ツイッターやってます。
よかったら感想を聞かせてください^^
https://twitter.com/nekoyogurt

お読みいただき、ありがとうございました!「はー、なんだか投げ銭したくなってきたな〜」と思ったら、こちらからお願いいたします。凹みングウェイで休職中な妻にロイホのパンケーキ(500円)を食べさせるために使わせていただきます。パンケーキは人類を救う!