どっちの餃子

ここに餃子がある。夕飯のおかずに私が焼いたものだ。

結婚して5年。もちろん新婚気分などとっくに無い。それどころか些細なきっかけで喧嘩になる事が増えた。今日も休日だし天気も良いからどこかへ行きたかったのに、彼は何も言わずフラリと1人で出かけてしまっていた。

「どこ行ってたの?」「うるさいな。」この言葉は格闘技でゴングがカーンと鳴るのと同じだ。戦闘開始。もちろん取っ組み合いになる事は無いけれど激しい言い合いとなる。こんな状態が長いこと続いていて、もう私も堪忍袋の緒が切れた。

庭へ行って、初めて喧嘩になった時から大事に育ててきた水仙の葉を切ってきた。刻んで青いボウルに入れる。赤いボウルにはニラを刻んで入れる。それぞれにキャベツや玉葱、挽き肉、大蒜、生姜を入れてよく練った。怒りに任せてよく練った。発散し足りないので皮も作ることにした。それぞれ包んで、焼く。混ざらないように、だけど明らかな違いは無いように、注意して焼いて皿にのせる。そこで醤油と辣油、いやポン酢にしようかな、と冷蔵庫を開けた時。彼がキッチンに入ってきて、気を利かせて餃子の皿をテーブルへ運んでしまった。

どうしよう。どっちがニラ餃子で、どっちが毒入り餃子だろう。色違いの皿にするか、数か大きさに差をつけるべきだった。

「これ、右側にあった皿?」さりげなく聞いてみるが「どうだったかなぁ。考えずに運んじゃったからな。何か違うの?」ドキッ。いや動揺は顔に出てない筈だ。「うーん、と、私の方は挽き肉少なめ野菜多めにしてたんだけど。」2人で餃子を見比べてみる。分からないように作ったのだから、分からない。完璧な仕上がりだ。困った。「食べたら分かるかな。」箸を手に取った彼を慌てて止める。「食べちゃだめ。」彼は止められてキョトンとした顔で私を見た。「だめって…1個食べてみるくらいいいじゃん。それとも罰ゲームみたいな激辛餃子にしたとか。」

言えない。罰ゲームどころじゃない毒入り餃子を作りました、なんて言えない。彼を毒殺するつもりなんかじゃなくて少し腹痛になるように計画してました、なんて言えない。言えないけど自分でも食べたくない。本当にどうしよう。どう言おうかと困って黙っていると彼が私の前に皿を並べた。ニヤニヤとしているのは激辛だと思っているのか、実は気付いているのか。

「自分で作ったんだから、選んでみろよ。さぁ、食べても無事なのは、どっちの餃子かな。」


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