顔自動販売機 / 毎週ショートショートnote

「お前は呑気でいいな。」
「そう？」
彼は小さく溜息をついて窓の向こうを見つめる。
「窓辺に花を飾ったら蝶が来るかな。」
「そうかも。私，花を買ってくるわね。」
隣の花屋で明るい色の花を選ぶと病院の裏口から地下へと降りる。
薄暗い廊下の突き当たりにある自動販売機の前で大きく息を吐いた。
「大丈夫ですか？」
振り向くと年配の看護師がいた。
「あまり頻繁に利用すると疲れてしまいますよ。」
優しい言葉に涙が溢れる。
「元気な顔をつけていないと彼の前でも泣いてしまいそうで。」
看護師は周囲を気にせず号泣する私の明るくない未来の話を聞き優しく相槌を打ってくれる。
「自動販売機で顔を買ってるなんて情けないですよね。彼の方が何倍も辛いのに。」
看護師は笑って小声になる。
「実は先生も使ってるんですよ。冷静な医者の顔。」
ふふふ、と二人で笑った。自顔で笑うのは久しぶりだ。
「そろそろ行かなくちゃ。」
私は元気な顔を購入して貼り付け、彼の病室へと戻って行った。

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