見出し画像

それぞれの時間

お祝い事があると親戚で集まるのが決まりだった。従姉妹や叔母たちで「ひさしぶり」「大きくなったね」などと会話していると高校生の芽依が大きくため息をついた。25歳の奈緒が「どうしたの?」と聞くと、またため息をつきながら「もうすぐ卒業なんだなぁ、と思って。早くない?もう高校生じゃなくなるんだよ?なんかもうあとは歳とっていくだけーって感じ。」それを聞いて奈緒はもっと大きくため息をついた。

「何それ、嫌味?まだまだこれからじゃないの。二十歳過ぎたら本当にあっという間に歳とるんだからね。まだ結婚しないの、とか余計なお世話焼かれるし。」

それを聞いていた37歳理沙は腰に手を当てて2人に言った。

「何言ってんの。まだまだじゃない。三十歳過ぎたら『光陰矢の如し』って感じで本当に光の速さで歳取っていくんだから。結婚したら子供は?って当たり前みたいに聞かれるし。」

それを聞いていた43歳あきは笑って言った。

「甘いなぁ。四十歳過ぎたら、もう三十代なんか記憶にないくらいの速さになるよ。逆に気を遣われて結婚なんて誰も聞かなくなるし。」

芽依、奈緒、理沙の3人が「えーっ!」と騒いでいると、56歳の礼子がケーキを運びながら言った。

「甘い、甘い。人生百年って言うでしょ。まだ折り返してもいないんだから歳とる事を怖がってる場合じゃないわよ。」

69歳の悦子と74歳の美津子が笑って言った。「そうそう。私達なんて50歳過ぎてから色々挑戦して今やっと自分の時間を生きてるって感じよ。ねぇ、みっちゃん。」

「本当よね、えっちゃん。人生まだまだ長いわよ。ため息ついてるヒマなんて無い、無い。」

みんなで笑って、今日誕生日を迎えた節子のケーキの9と0の蝋燭に火をつける。

「節子おばあちゃん位になると、どれくらいの速さで時間が過ぎてるのかな。」

「もしかしたら逆にゆっくりになるのかも。」

「そうね、欲がなくなったら時間もゆっくり過ぎるかも知れないわね。」

静かに聞いていた節子は言った。

「蝋燭を吹き消したらもう一年過ぎとる。ずーっと誕生日だ。まだまだ野望はあるからなぁ。」

ふぅ、っと蝋燭を消して節子は90歳を迎えた。

え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。