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愛車と日曜日

よく晴れた日曜日。

髪はポニーテールにまとめて、黒いTシャツに青い“つなぎ”を着る。本格的に自動車整備できます。みたいな格好なので気に入っているが、残念ながら背の低い私にはブカブカだ。裾は折って袖は通さずに腰の辺りでギュッと結ぶ。

銀色のアンティーク風バケツに柔らかいクロスを数枚。愛車の鍵をポケットに入れてスニーカーを履きガレージへ向かう。

天気が良くて予定の無い日は洗車に限る。ガレージのシャッターを上げると、愛車が待っていた。屋根は白くボディは正確には何色と言うのか分からないけど、もったりした水色のような、薄い曇り空のような…うん、ブルーグレーなのかな。車種はオースチン社のミニ。クーパーs。私よりずっと歳上のクラシックカーだ。

免許取立てのくせにクラシックカーである愛車を買った時、父は「中古車なのに高い。」と驚いた。母は私に正座させ「そんな高い車を今買うなんて。嫁に行かないつもりなの?」と真顔で聞いてきた。ハッキリと「うん!」と答えた私に諦めたようでそれ以上は何も言わなかった。

運転席に座り鍵を回す。かからない。このクーパーsは気分屋でなかなかエンジンがかからない。コツがあるのか私が下手だからか、とにかく1度でかかった事はないので慌てない。ー今日は3回目でかかった。可愛い見た目とコンパクトなボディに似合わず大きなエンジン音が響く。このまま近くの洗車場までドライブだ。

洗車場に着いたら他の車とは離れて停車する。私が駐車が下手だからではない。まぁ下手なんだけど、旧車なので水で濡らしたくないのだ。洗うのは白いリボンみたいなラインの入ったタイヤだけ。あとは柔らかい布で拭く。それだけ。

ゆっくり、すっかり、綺麗にしたクーパーsに乗り(今度は2回目でかかった)家に帰る。ガレージの前に停めて一旦家に入り、手を洗ってコーヒーと椅子を持ち出す。クーパーsを眺めながらコーヒーを飲む。

私は初心者な上に方向音痴で、まだ遠くへは行けない。濡れると錆びてしまうので雨の日には乗れない。クラシックカーなのでクーラーは無い。テレビ画面も無いし音楽も聴けない。「どうしてそんな車買ったの?全然使えないじゃない。」と友達は言うけれど、使われる気は無いの。

ちょっと皆んなには理解しがたいかも知れないけれど私は満足だった。もしかすると私は自分好みの車を見ながら美味しくコーヒーを飲みたかっただけなのかもしれない。

コーヒーと愛車と晴れた日曜日。今日は良い一日だった。



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