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LPレコードを手放す

1. 過剰包装されたレコードを、給料日のケーキのように持ち帰る

 
 LPレコードを買うのが好きでした。
 大判のレコードは、だいたい30センチ(12インチ)くらいのサイズで、33回転のと、45回転のものがあります。たまに、シングルレコードとLPレコードの間になるサイズのレコードもありました。
 LPレコードのジャケットは大きく、並べて飾るのもいい。好きなアルバムはCDと、LPレコード両方揃えて比べたりしていました。

 お店の棚では、紙のジャケット(新譜はポリエチレンでシュリンクされている)の状態で並んでいました。ジャケットの中は、下半分だけ丸い、マットな袋にレコードが入っています。

 さらにレジで、透明のポリ袋(山野楽器とか、大きなお店では、下に店の名前がプリントされてた)に入れ、その上から店名や、ロゴが入った大きな手提げ袋に入れてもらいます。

 CDと比べると、相当過剰包装です。
   でも、それを提げて帰るのがとても好きだったのです。

 CDは購入後、そのままバッグに入れてしまえばよいのですが、LPは薄くて大きめで、取り扱い注意の荷物です。風が強い日は、一瞬ふわっと袋が翻り、軽く感じます。給料日にケーキを買った時のように、大事に持って帰る。なんとも気持ちが弾みました。

 ちなみにLPレコードの日は3月20日、アナログレコードの日は11月3日、音の日は12月6日だそうです。会社ごとに違う、など事情があるのだとは思いますが、1年で何度も記念日があるなんて、大事にされていますね。

2. お気に入りのSONY・PS-Q7

 実家では、一般的な大きいレコードプレーヤーを処分したあと、自分専用に小さめのソニーのプレーヤー(PS-Q7)を買いました。これは、今考えるとかなり個性的で、可愛いものでした。

 形は正方形で、LPレコードのだいたい4分の1、小さいサイズです。
プレイする時に、レコードを一部しか挟まないのです。円盤は、はみ出したまま、回ります。

 スピーカー内臓ではないのですが、電波を飛ばしてFMラジオで聞くか、ヘッドホンを付けて聞きます。そう、さらっと書きましたが、ラジオの周波数を合わせると聞こえるのです!
 回る様子を見るのも好きでした。はみ出しているのに、音飛びもせず、元気に回ってくれていました。プレーヤーの入っていたボール紙の箱も、無印良品のようなデザインで、ポケット付きで可愛かったです。

 コンパクトではありますが、ウォークマンや、そのあと登場したディスクマンと比べるとあまり普及しなかったのかもしれません。

 その後、実家ではCDプレーヤーが主役となり、レコードもPS-Q7も、押し入れに入れたままでした。
 レコード針が手に入らないから、とっておいても仕方ないよと自分で言い聞かせて、10年くらい前に、処分しました。
 このことについては、今ではかなり後悔してます。このプレーヤーを処分していなかったら、レコードを手放そうと思わなかったでしょう。

3. レコードを楽しむにも格差がある


 プレーヤーを処分しても、レコードは、子どもが大きくなったら興味を持つかなと長い間保存しておきました。
 でも今は、サブスクで気軽に楽しめる時代。スマホやパソコンで、音楽は時代も国境も簡単に超えてしまう。すてきなプレイリストを見つければ、次々と知らない曲と出会うことができます。

 過剰包装されて、大事にされていたレコード。飾って楽しいジャケット。回転数を確認して、針を落とす瞬間。曲順や、表面・裏面の選曲を深読みするのはとても楽しい。魅力はたくさんあります。

 それでも、動画やゲームなど楽しみがたくさんあるなかで、多くの人たちにとっては、短い時間で音楽を楽しむという方法で十分なのでしょう。お小遣いでそこそこのヘッドホンを買って、満足しているようです。袋も針もいらない、最短距離で音楽と出会う。つかみの数秒で好き嫌いを感じて、楽しむことができます。

 私自身も、radikoやSpotifyで聞いて、気に入ったら掘り下げる。という範囲で楽しんでます。じっと座って音楽に集中する時間があまりないのも理由のひとつです。
 例えば字が読めないタイの気になる曲を聴きたいとき、かつてはバンコクに住む人に頼んだり、ネットで輸入盤を扱うお店の中で探したりしていましたが、今ならすぐに聴けるので、とても嬉しいです。

 それ相応のプレイヤーや、スピーカーを置く場所もなく、レコードから日焼けや湿気、汚れを守る保管場所もない。今は、レコード<お米やパン。暮らしのなかでは必要ないと判断しました。

 
手放すレコードと、子どもや誰かがいつか再び出会えるような、プレイリストを作って、残すことはできる。厳選したものを除いて、レコードは売ることにしました。必要としている人に届いて、よい状態でコレクションされていけばよい……。

 生活の他の部分を削ってでも、優先してレコードを楽しみたい! という本気の方は別として、たいていの場合は、環境が整った、時間のある、趣味を楽しめる余裕のある方のもとに集まっていく……
 残念ながら、レコードを楽しむにも格差があり、こうした格差は広がる一方なのだと思いました。

 プレーヤーを捨ててしまった時の後悔を思い出し、レコードは一気に手放さずに、大好きだったアーティストのサイン入りのもの、限定版などは何枚か厳選して残しました。

 PS-Q7みたいな簡単で楽しい機械が復活したり、レコードを再生できるよい設備と環境があって、持ち寄ったレコードを、少人数で楽しめたりするクラブ。たとえばカラオケボックスみたいなところが増えたりしたらいいな。貸しスタジオならぬ、貸しプレーヤーボックス。みんなの視聴覚室……。

 ジャズやクラシックのレコードを楽しむ喫茶店はあるようですが、ジャンルを超えて楽しみたい需要もあるかと。
 
 状況が変わって、またいつか、豊かな時間が味わえるかもしれないと希望を残しつつ。

4.大手買取業者にまとめて依頼した


 あれから、業者にまとめて郵送買取してもらいました。
ネットでよく見かける、大手の業者です。結論をいうと、それほど評価はつきませんでした。まあ、予想通りです。

 ネットで申し込んで、おおまかな枚数を知らせて、段ボール箱を送ってもらいます。アルバムを縦にして入れられるサイズの、丈夫な箱です。送料着払いの宅配便のラベルも付いていました。

 そこに、実家の亡き父が集めていたもの、きょうだいで楽しんでいたアニメシリーズ、そして自分が集めていたもののレコードの一部を1箱分にまとめて入れ、免許証のコピーも一緒に入れて、連絡を待ちました。

 1週間で連絡が来ました。今回は、査定額を直接電話で知らせてもらいました。事前に連絡可能な希望日時を書くようになっていました。

 当然、査定金額は、シティポップの波を受けて評価されるのだろうと思いました。でも甘かった。当時人気のあったアルバムは、たくさん流通された→とうぜん今もたくさん残っている。今、見直されているのだから高く売れそう、という理由で80、90年代のアルバムを手放すことを考えている方は、期待しない方がよいです。


 ちなみに一番高値なのは?と聞いたところ、大貫妙子さん『アフリカ動物パズル』が2千円で意外でした。これはCDも持っていたので、いいか、と手放しました。
 でも同時代で大貫さんの周辺で活躍されていた方のアルバムはなぜか、数百円~数十円。どうして??? アーティストの名誉のために、自分で値付けし直したい。という気持ちを抑えました。

 このほか同時代の洋楽も、展覧会の絵も、ポンキッキーズも、一番古い父のコニーフランシスのクリスマスのアルバムはジャケットが素敵だったのですが、これも一律同じような値段でした。

 すべてのジャンルに詳しい店ではない。一気に減らしたい。覚悟はしていた上の業者選びだった。

 たくさん出回るものは、くわしくなり、ブームや、相場もパッとわかるでしょうが、あまり見かけないものを短い時間で判断するのは難しい仕事なのでしょうね。評価額を聞いて、そのまま手放しました。補足情報がなければ、見た目の綺麗さで判断されても仕方ないです。その後、どんな人のところにたどりつくのでしょうか。

5. 理想の手放し方を考える


 ちなみに知人は断捨離をして、洋楽のアルバムを、ジャンルに合った店に自分で持ち込み買取してもらいました。
 バンドメンバーも、ファンもいい感じに年齢を重ね、日本でもほどよく需要があるバンドのもので、納得いく評価をしてもらったとのこと。
 店長さんの名刺もいただいて、”またよろしくお願いします”と言われて、もうお世話になりたくないのになあと、複雑な気持ちだったそうです。

 売りたいものは細かくジャンル分けして、重たくても、自分でお店を選んで持ち込んだ方がいいと思います。お店が近いか遠いかの距離ではなくて。
 中古レコード店にも、それぞれ得意分野があります。よいめぐり合わせがありますように。

 さらに一番いいのは、自分で、1枚ずつ説明して、SNSで宣伝したり、ネットオークション等で販売する方法。
 お別れする側も、買い取る側も、そして、それを別の場所で眺める側も、みんなで楽しい時間を共有できて、よいと思います。売らなくても、SNSなどで紹介したり……。丁寧に説明すれば、その時代の評価や、そのアルバムが見直されて、多くの人に共感してもらえる可能性だって広がります。

 手間と時間がかかってしまうのと、発送の際、郵便ポストに入らない、取り扱い注意という欠点もありますが。


2022.03.09追記 子どもとレコード

 そして、とうとう、10代の子どもがアナログ盤をお小遣いで買い始めたという矛盾…… 不思議な涙が出ました。
 そういえば、買取業者に送る前にダンボール箱の中を物色していたので、あれがきっかけになったのかもしれません。

 モノにもよりますが、ご飯代を節約すれば、当時ヒットしたアルバム1枚が、数百円からと安価で買えるのが嬉しいのだそう。高円寺やら、下北沢やらに行くようになりました。中古レコード屋さん、薄利なのでしょうが、ご縁をありがとうございます。こういう需要があるのか! と実感しました。 高値で売って処分しよう、というのではなく、次の世代に、いいものを安く譲る。この気持ちが大事だったのですね。

 フリマをのぞくと、皆さん、実家の押し入れから出してきたようなレコードをたくさん並べています。現物を手に取れるし、発送の手間が省けるので、かつて人気があったアルバムが気軽に売り買いされているようです。

 そして、子どもは親戚からわざわざ古いプレイヤーをもらってきました。針も未開封のものがフリマサイトで販売されていて、おこづかいの範囲で無事手に入れてました。

 大事にとっておいてたものを安価で譲りあえるような場所が増えたおかげで、子どもでも工夫次第でレコードを楽しむことができる時代が来ていたのです。好きなバンドの新譜も一緒に並べています。
 そういえば子どもの学校の文化祭でもレコードをかけている部屋があって、いろんな世代が耳をすましていました。

 レコード盤を入れていたポリ袋をすぐに捨てていたので、それに入れて保管したほうがよい、と説明したら、慌てていました。でも、新しい袋だけをまとめてネットで買うこともできて、便利な時代です。

 測れないけど、もし測れるのだとしたら、うちの総重量はなかなか減らないです。


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