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推し車と、人と、動物と。1歳の愛読書の思い出

ぶーぶーじどうしゃ 山本忠敬作 福音館書店
 福音館書店の赤ちゃん絵本シリーズに、0.1.2えほんというシリーズがある。
 サイズは正方形。ボール紙製。文字すくなめ。多くの赤ちゃんの最初の1冊となっただろう。

 うちの子が特に好きだったのは『ぶーぶーじどうしゃ』。ちょっと前のタイプの働く車が登場する。1995年初版。そこからのロングセラー絵本だったのだ。多くの乗り物好きキッズを生み出したしょうぼうじどうしゃじぷたの著者、チューさんこと、山本忠敬さんの赤ちゃん絵本である。この本に出会ったときは、チューさんはすでにお亡くなりになっていた。

 最初の愛読書だ。家用と実家に泊まったとき用の2冊を愛読していた。寝る時にないと機嫌を損ねる。
 久しぶりに本棚から出して開いた。残念ながら2冊とも汚れている。

 暗唱できる。
 この本の絵を見て、文章を応えるクイズがあるなら、今でも現役で参加資格がある、と宣言したい。

 特徴をまとめると、

・背景は白。
・画面中央に車。車の輪郭は、太い。極太。
 車体の角を少し丸くしている気がする。
 車はこっちを向いている。擬人化をしていないのに、前の2つのライトが目、ナンバーのあたりが口に見える。
・余白に子どもと、動物(白い犬か、黒い猫)。
 子どもは、男の子とも、女の子とも見える。まだおむつが外れていないシルエット。
 子どもは、ベビーカーや、車のおもちゃにまたがって自分でも運転をしている。

 大きな車と、小さな人と、小さな動物と。
 この繰り返しのシンプルなもの。
 起承転結は、ない。

 出合いは1歳過ぎ。
 はじめに本を開くと、描かれたものを、あった! あった!とランダムに指さすようになった。”いた”ではなくて、”あった”。しかも過去形。よくわからなくても”そうだね”と返事をしておいた。指さしてる間に、こちらは文章をさらっと読む。

 ほぼ同時に、ぶーぶ、あった!あった!と主語がついた。
文になった。本を開いて指さす。主役はもちろん人でななく、中央に描かれた乗り物だった。

 ある時からミニカーや、外で走る自動車をほら、あったと、指さすようになった。外にあるものと、そこに描かれているものが同じだとわかってきたようだ。呼びかけ、遠近を実感する、比較する。

 おさがりでもらったミニカーが、ちょっと前のタイプだったのもよかったのかもしれない。ぶーぶーじどうしゃの時代とマッチする。

 少したってミニカーに無理やり人形を載せたりするようになった。もしかしたら”この子は自分なのだ”と、投影をしはじめたのかもしれない。本に描かれている子どもは自分なのだと自覚している。

 愛車(アンパンマンの絵がついているまたがって乗る車)に乗れるようになった。さっそく後ろにぬいぐるみの犬や猫を乗車させるようになった。ぶっぶー、みんな のってくださいマイクロバスはっしゃします。絵本の文章を唱えている。激しく走らせる。おお、覚えているのか。ものがたりの誕生だ。


 ぶーぶーじどうしゃの中で、最初の推しは、はしご車だった。

 実はぶーぶーじどうしゃでは、消防車は、はしごが閉じている。本のサイズの都合かもしれない。はしごが伸びると知って、驚いたようだ。何のために伸びるのか、最初は用途を知らない。愛車のアンパンマン号にも無理やりはしごのようなものをつけたり、はずしたりしていた。

 はしご車は会いに行ける推しだ。
 自転車に載せて、消防署に消防車を見に行った。消防車たちは火事や事故がないかぎり、そこで待っていてくれる。タクシーやバスを見に行くと止まってくれてしまうし、ごみ収集車や宅配便の車の働く現場は危険で、邪魔になってしまう。

 消防署の前で一人で立ち止まることはないが、子どもと一緒だと堂々と見ていられる。子どもは喜んでそれぞれの車に向かって手を振ったりしている。時間がある時は消防士さんも慣れた様子で振り返してくれる。子どもが手を振った相手は消防士さんにではなく、消防車にだったと思う。

 出初式や、お祭りの脇でやっていた、はたらくのりもののイベントは、推しが輝くもう一つの現場だ。ふだんはなかなか見れない、はしご車が伸びる様子をじっくり見ることができる。こまめに調べるとこうしたイベントはけっこうあった。

 お祭りでは、オレンジ色の制服を借りて、記念写真を撮らせてくれたり、助手席に乗せてもらえたりした。運転席は思ったより高かった。運転席にいた消防士さんに抱えてもらって、子どもを座らせた。せっかくのチャンスだったのに、生まれてはじめてはしご車の運転席にのせてもらった時の写真は号泣している。人見知りか。親としては残念だった。2歳。

 乗り物パレードでは、最前列はもちろん、ベビーカーに乗った熱心なファンでいっぱいだった。推しのTシャツを着ている子もいる。それぞれの推しに向かって手を振っていた。ちびっこたちはみんな、ぶーぶーじどうしゃの、脇にいる小さなあの子のようだった。ありがとう、チューさん。


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