続・スタジオエンジニアが教えられる程度の役者向けアフレコ基礎(ノイズ編)

お久しぶりです

分散収録から、ぼちぼち以前のアフレコ体制に戻りつつある昨今、
役者様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
一斉収録を経験してる方でも4年近くのブランクを取り戻すのに苦心されてるような話もチラホラリ。
ってことは、まともにマイクワークを経験してない新人若手の方々はもっと大変なわけで。
まあ、かく言う我らエンジニアサイドも、指先の事とは言え似たように苦労しております。
さて、なんで今回また記事にしようかと思ったのかと言いますと、アフレコの体制が戻ったことで出てきた問題が軽減出来たらいいなぁと思ったからです。
皆様の収録の一助になれれば幸いです。

1)アフレコにおけるノイズとは

まあ、そもそもノイズと言っても色々ありますが、要するに不要な音なわけで。
アフレコに関しては画やお芝居に関係のない音は大体ノイズです。
スタジオ編1でマイクの大まかな知識とマイク前でのノイズについて話したと思いますので、少し重複する部分はあるかと思いますが、ご容赦ください。

若い役者さんが考えるノイズとして、
リップノイズ、吹き、鼻鳴り、ペーパーノイズなどが挙がると思います。
この辺は実際にマイク前で演じている時に出る可能性があるノイズですね。
コレにさらに、衣擦れ、髪の毛、アクセサリー、足音、椅子なんかを気遣えるようになると有難い限りです。
では、細かく話していきましょう。

2)マイク前以外のノイズ

ここ数カ月、以前では考えなかった事で別線を作らないといけない事が増えて、頭を悩ませてました。
が、先日中堅の役者さんと話す機会があり、若手の役者さんがノイズに頓着してないのではなく、知らない、気にするように教わってないのだと分かり、なるほどと思ったので、先にマイク前以外の部分を話させていただきます。

ここ最近多くて頭を抱えてるのが、移動に関わるノイズです。
立ち上がり、座り、足音、移動中の衣擦れ
これらはコロナ禍前にはあまり気にならなかったノイズたちです。
何故なら以前までは、収録ブース内で先輩役者から教わったり、先輩役者の所作をよく見て研究してきたという人達だったからのようです。
また、分散収録の際は移動というものが必要無かったというのも有ります。
なので、是非今からお伝えすることを覚えてアフレコに臨んでいただきたいと思います。

立ち上がり、座り時

アフレコブースに着いて収録の準備に余念がないと思いますが、
自分の座る椅子を良く調べておいて欲しいです。
立つ時、座る時、その椅子は鳴ったりしませんか?
スタジオにあるベンチシート等はなるべく音が鳴らない工夫がされてたりしますが、それも年数を重ねればどこかにガタが来てしまいます。
座面がちょっと浮いてて座ったり立ったりするとギュっと鳴ったり、背もたれに体重掛けるとギギギと鳴ったりと色々考えられます。
なので、収録前に深く腰掛けたり、浅くしたり、体重を掛けたりして、鳴るかどうかのノイズ対策を収録前にやっていただけると有難いです。

また、鳴りやすい椅子に当たってしまったとしても大丈夫なように台本チェック時にも対策は立てられます。
映像を見ながらチェックしてると、シーン変わりや、会話が切れるタイミング(アドリブ入らないかも確認の上)にそれなりに間が空くところがあると思います。
そこが立ち上がり・座りポイントです。
人によっては、本番中一回も座らない人も居ます。その場合、出番近くまではブースの出入り口近く(椅子が無いので邪魔にならない)に待機してて出番になる頃に間を見つけてスルスルとマイク前に移動します。
正直エンジニア目線で、ノイズのリスクを考えるとこれが理想ですが、そうもいかないと思いますので、あくまで一つの手段として覚えておいてください。

移動時

立ち上がり・座りと似たようなところが多いですが、最近目立って多いのがセリフを喋ってる人の近くや真後ろでガサガサと動く役者さんが一定数います。
残念ながら、マイクは拾ってますその音。そしてリテイクです。
なるべく大移動は上記の立ち座りのタイミングと同じように、シーン変わりや会話の切れ目で行うようにしていただけると大変助かります。
またはノイズの出ない歩行術を体得していただけるとw

あと、案外盲点なのが靴です。特に革製の場合曲げ伸ばしでギュッギュと軋んだ音が出ることが有ります。スニーカーもモノによっては鳴ってしまうものが有りますので、購入時や慣らし履きの際に特性を把握しておくと良いかと思います。
ちなみに、足音で気になる事として、
踵から接地する歩き方をされとドスンと低音のノイズを拾う事も有りますのでお気を付けください。
また、アフレコスタジオは大体カーペット敷きなので擦って歩くのもNGです。

3)マイク前でのノイズ

さて、いいタイミングで立ち上がり、移動し、いざ自分の出番です。
しかし最高の演技を出せても、ノイズが乗ったら台無し。
結局録り直しになってしまいます。そうならないように未然に防げるものは防ぐ努力をお願いします。

服装

一斉収録に戻ってから顕著に目立って多いのが衣擦れと言われるノイズです。残念なことにどんなに技術が進歩してもセリフに被った衣擦れの音は完璧に取ることはできません。
と言うか、細かく消し去ることに時間を割くより取り直した方がよほど時間が掛からないです。
これもコロナ禍での分散収録の影響なんだと思いますが、移動が無い分鳴りやすい服装でも発声中に激しく動かない人は気になることが無かったんだと思いますし、台本のページめくりの際の上げ下ろしもその収録グループじゃないキャラのタイミングで行う等であればさして問題にならなかったんだと思います。
ちょっと前置きが長くなりましたが、何人かの役者さんにご協力いただいて、服を買う際や収録に臨む際の服選びの方法やノイズチェック等を教えて頂きましたので私の意見も含めてまとめたのをお伝えします。

<購入の際>

まず購入前に、生地の素材や硬さ、厚さなどを良く見る。
ワイシャツなどのポリエステル系が多く、硬い物は分かりやすくノイズになりやすいです。逆にTシャツやスウェットなどの綿が多く、柔らかいものはノイズになりにくい傾向にあるようです。
(ポリエステルが含まれてる物が全部ダメというわけではありません)
また、表生地と裏生地が違う材質の物は注意が必要です。

ズボンやスカート等で裾が広くなってる物や、厚手で硬めのズボン(デニム等)や、膝下丈のスカート(マーメードタイプなど)は、足の運び方にも寄りますが歩く時に擦れやすいので、音が鳴りやすいと思っておいた方が良いようです。
(柔らかめの素材の物(Ex.シフォンスカート)は比較的鳴りにくく、厚手で硬めの物(デニム系など)の裾広丈長は要注意と覚えると良いようです)

とは言え、収録後に撮影が控えてたりするなどでちゃんとしたい時も有ると思いますが、柔らかく着慣れた麻のシャツはハリがある割に繊維の特徴で擦れてもあまり音がしないのでキチンと感を出したい時には良いらしいです。

ノイズのチェック方法として、上着等でハンガーにかかっているものは持って揺らしてみる。畳まれてる物も持ち上げたり揺らしたりしてみる。
ガサガサ・シャカシャカうるさく聞こえる物は大体NGです。
(間に紙が挟まってたりする物もあるのでお気をつけを)
また、試着出来る場合は、二の腕を体に密着させながら腕を振ってみる。
それなりに大きくシュッシュッと聞こえたらそれもNGです。
ズボンやスカートは屈伸や、可能であれば歩いてみて、軋みや擦れを確認してみてください。

<収録前>

収録時におめかししたい気持ちは分かりますが、新品降ろしたてを着るのではなく、何回か着慣れ、何度か洗濯した物にした方が良いです。
また、単体だとさほど衣擦れは気にならなかったけど、上着とインナーの相性によっては鳴りやすくなることも有りますので、鳴りにくい組み合わせを調べておくことも重要かと思います。

また、ファスナーのついた服は、ファスナーの取っ手が当たって鳴る可能性があるので、収録前にテープ等で止めておきましょう。

髪の毛やアクセサリー等

まず髪の毛について
ロングヘヤーの男性があまり居ないので、主に女性に向けた話になってしまいますが、肩に掛かるかそれ以上の長さのヘアスタイルの方で、髪の毛を肩より前に出す方は要注意です。
首や体を動かした際に、毛先などが服と擦れてノイズになることが有ります。
なので、後ろでまとめていただくか、頭に巻いてしまって垂らさないというのが理想です。
何故肩より前だとダメかと言いますと、マイクに近いからです。特にウィスパーなどでエンジニアが音量を上げているときは特に気になるし、喋る事で動く頭に連動して、サワサワやサクサクという音がだいたい出るので、マイクから遠ざける意味で「肩より後ろ」なのです。

つづいてアクセサリー等について
とりあえず、問題なければ収録前に全部外してください。
ネックレスやブレスレット、チェーン式の物や数珠つなぎな物など、鳴る可能性がある物は外してバッグの中などに保管しておいてください。
また、小銭や小銭入れをポケットに入れている方も、同じくバッグの中へお願いします。

吹替の現場限定になるかもしれませんが、耳送りの無線レシーバーのストラップを首からかける場合、服のボタンに当たってカチカチを音がすることがありますので、うまく避けていただけると助かります。

最後に

ツラツラと上げ連ねてきましたが、マイクを通してどういう感じで音が録られているのかについて意識をしていただけるだけでもエンジニアとしてはありがたい限りです。
コレを書いてて思い出したのですが、とある養成所のスタジオ実習の際に、音響監督さんから「テストはフェーダー触らないで」と指示をされ、終わった後に調整室に全員を呼んで、「ほら、君らの出したノイズだよ?うるさかろう?」って聞かせてたのを思い出しました。
そういう実体験はたぶん稀なんだと思います。
人の耳は聞きたいものを脳が取捨選択するのですが、マイクは素直にその場で鳴ってる音を録る。録ってしまう物なので、会心の演技を台無しにしない為にもぜひご協力いただければと思います。


また、前回までの三部作に加え、今回も記事作成に際しご協力いただいた役者の方々には深く御礼申し上げます。

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