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積分因子の自由度についての一考察

 今日は、数学的な記事を書いてみようと思います。なお、以下に述べることは第三者の方に見ていただいたものではないので、誤りがあるかもしれません。

 それでは、始めていきます。


全微分方程式と積分因子

 今回考えるのは、3変数の全微分方程式の積分因子についてです。

 全微分方程式とは、例えば次のような形の微分方程式です。

$$
y^2zdx+xyzdy+xy^2dz=0
$$

 このような微分方程式は、$${f(x,y,z)=C}$$という形の解をもちます。ここで$${f(x,y,z)}$$は3変数関数、$${C}$$は任意定数です。

 このような微分方程式は、式を変形して左辺を(ある関数の全微分)=0という形に変形します。このような形にするために、両辺にある既知の関数を掛けるとうまくいく場合があります。例えば、冒頭で例示した方程式については、$${\mu(x,y,z)=1/y}$$という関数を両辺に掛けると、

$$
yzdx+zxdy+xydz=0
$$

となり、これは$${d(xyz)=0}$$になりますから、解として$${xyz=C}$$を得ます。この時の$${\mu}$$のことを、全微分方程式の積分因子と言います。

考える問題

 冒頭に例示した全微分方程式$${y^2zdx+xyzdy+xy^2dz=0}$$の積分因子は、$${\mu=1/y}$$のほかにも、その定数倍も積分因子となります。このように、積分因子には定数倍の自由度があります。

 しかし、自由度は何も定数倍だけではありません。例えば、積分因子として$${\mu'=1/xy^2z}$$もあり得ます。実際、これを掛けると、

$$
\frac{1}{x}dx+\frac{1}{y}dy+\frac{1}{z}dz=d(\log|xyz|)=0
$$

と変形され、よって解を$${\log|xyz|=C'}$$という形で得ます。これは$${\pm e^{C'}=C}$$と置きなおせば、先ほど求めた解$${xyz=C}$$と一致します。

 つまり、冒頭に挙げた方程式一つとっても、$${\mu=1/y,\; \mu'=1/xy^2z}$$と、少なくとも2つの積分因子があります。

 ここで次のようなことを考えてみます。2つの積分因子の比をとるのです。

$$
\frac{\mu}{\mu'}=\frac{xy^2z}{y}=xyz
$$

 このように2つの積分因子の比をとると、解になっている$${xyz=C}$$の左辺が登場します。

 このことを素直に一般化することを考えます。$${N_i(x,y,z),\; i=1,2,3}$$を適当な回数微分可能な3変数関数とします。すると一般に、全微分方程式は次の形になります:

$$
N_1dx+N_2dy+N_3dz=0\quad\dots(**)
$$

 今、これに積分因子が1つ存在し、$${\mu(x,y,z)}$$と書けたとします(この$${\mu}$$は上に例示した$${\mu=1/y}$$とは限りません)。この積分因子をかけて、全微分方程式が適当な関数$${\nu(x,y,z)}$$を用いて$${d\nu=0}$$と書けたとしましょう。このとき、上に書いた例は次の予想を示唆します。


予想A

 上記の一般化の仮定の下で、全微分方程式$${(**)}$$に別の積分因子$${\mu'(x,y,z)}$$が存在したと仮定すると、その積分因子は、ある1変数関数$${\varphi(x)}$$を用いて

$$
\mu'=\varphi(\nu)\mu
$$

と書ける。


 以下、この予想を示します。

予想Aの証明

 $${\bm{N}=(N_1,N_2,N_3)}$$というベクトル値関数を定義します。一般に積分可能な全微分方程式がベクトル記法で$${\bm{M}\cdot d\bm{x}=0}$$のように書けるとき、$${\nabla\times\bm{M}=\bm{0}}$$が成り立ちます(文献[1])。したがって、この場合は$${\nabla\times(\mu'\bm{N})=0\;\dots(\star)}$$が成り立ちます。さらに、$${\mu\bm{N}\cdot d\bm{x}=d\nu}$$が成り立つので、$${\mu\bm{N}=\nabla\nu}$$が成り立ちます。したがって、積分可能条件$${(\star)}$$の両辺の回転をとることで

$$
0=\nabla\times(\mu'\bm{N})=\nabla\times\left(\frac{\mu'}{\mu}\mu\bm{N}\right)\\
=\nabla\times\left(\frac{\mu'}{\mu}\nabla\nu\right)=\nabla\left(\frac{\mu'}{\mu}\right)\times\nabla\nu
$$

すなわち

$$
\nabla\left(\frac{\mu'}{\mu}\right)\times\nabla\nu=0\quad\dots(\clubsuit)
$$

が成り立ちます。ここで公式$${\nabla\times(a\nabla b)=\nabla a\times\nabla b}$$を用いました。ここで次の補題を示します。

補題B

 関数$${f(x,y,z)}$$の「等値面」を、$${f}$$の値が等しい点を連ねた曲面、すなわち$${C}$$を定数として曲面$${f(x,y,z)=C}$$で定義する。このとき、適当な回数微分可能な$${f,g}$$に対して$${\nabla f,\nabla g}$$が常に平行ならば、等値面$${f(x,y,z)=C}$$と同じ曲面を表す等値面$${g(x,y,z)=C'}$$が存在する。

 この証明は次のようにできます。

証明.

 $${f}$$の値域に含まれる任意の定数$${C}$$を用いて、等値面を次のように表すことにする。

$$
\braket{f,C}=\{(x,y,z)|f(x,y,z)=C\}
$$

 今$${\bm{x}\in\braket{f,C}}$$を任意に一つ取る。すると、$${\nabla f}$$は$${\braket{f,C}}$$に垂直である。このとき、$${\nabla g}$$が$${\nabla f}$$に常に平行であるので、ある定数$${C'}$$が存在して、$${\bm{x}\in\braket{g,C'}}$$が成り立つ。

 ここで、別の$${\bm{y}\in\braket{f,C}}$$を一つ取る。すると、同様にして$${\bm{y}\in\braket{g,C''}}$$となる定数$${C''}$$が存在する。今、$${\bm{x},\bm{y}}$$を結ぶ、$${\braket{f,C}}$$上の任意の曲線$${L}$$を考え、この上で$${g}$$の変化を考える。$${\nabla g=k(x,y,z)\nabla f}$$となる0でない関数$${k}$$の存在に注意すると、$${L}$$上$${df=0}$$のことから、$${g}$$の変化分は

$$
\int_{L}dg=\int_{L}\nabla g\cdot d\bm{l}=\int_{L}k(x,y,z)\nabla f\cdot d\bm{l}\\
=\int_Lkdf=0
$$

となり、$${g}$$は$${L}$$上一定だと分かる。したがって、$${g(\bm{x})=g(\bm{y})}$$を得て、$${C'=C''}$$が分かる。

 ゆえに$${C}$$に対して$${C'}$$が存在して、

$$
\bm{x}\in\braket{f,C}\;\Longrightarrow\; \bm{x}\in\braket{g,C'}\quad\dots(a)
$$

がわかる。

 同様の議論を$${f,g}$$を入れ替えて行うと、$${g}$$の値域に含まれる任意の定数$${D}$$に対して、ある定数$${D'}$$が存在して、

$$
\bm{x}\in\braket{g,D}\;\Longrightarrow\; \bm{x}\in\braket{f,D'}
$$

となる。今$${D=C'}$$と選ぶと、$${f(x,y,z)=C}$$なので特に

$$
\bm{x}\in\braket{g,C'}\;\Longrightarrow\;\bm{x}\in\braket{f,C}\quad\dots(b)
$$

となる。$${(a),(b)}$$より、2つの等値面$${\braket{f,C}}$$および$${\braket{g,C'}}$$は同一のものであることが分かった。(Q.E.D.)


 補題Bより、$${C}$$を1つとり固定し、等値面$${f(x,y,z)=C}$$を定めると、それと一致する曲面$${g(x,y,z)=C'}$$を与える$${C'}$$が$${C}$$の関数として定まります。この関数関係を$${\Phi(C,C')=0}$$と定めると、これを$${C}$$について解いて($${C}$$が$${C'}$$の多価関数である場合は適当に主値を選んで)、$${C=\varphi(C')}$$となれば、等値面の定義$${f(x,y,z)=C,\;g(x,y,z)=C'}$$より

$$
f(x,y,z)=\varphi(g(x,y,z))
$$

が成り立ちます。これを$${(\clubsuit)}$$式に適用すると、

$$
\frac{\mu'}{\mu}=\varphi(\nu)
$$

を得て、両辺に$${\mu}$$をかければ予想Aを得ます。故に示されました。

最後に

 今回の記事では、積分因子の自由度について、その一端を示しました。これは私が考えているある別の問題で必要になった話題で、もし機会があれば、その問題についても紹介したいと思います。

 最後までお読みくださり、ありがとうございました。

 ねこっち

参考文献

[1]スバラシク実力がつくと評判の偏微分方程式キャンパス・ゼミ(馬場敬之 著・マセマ出版社)

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