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青春ソングと遠い日のあの場所

大学時代の友人と焼き肉を食べに行ったら、懐かしい歌が流れていた。思わず顔を見合わせ、同時に「恋心!」と叫んだ。
店のBGMは九十年代のヒット曲メドレーだったらしく、そのあとも「決戦は金曜日」「裸足の女神」「ロマンスの神様」「EZ DO DANCE」とつづいた。二年ぶりの再会だったが、こうなると近況報告どころではない。「ラブ・ストーリーは突然に」「SAY YES」で往年の月9ドラマについて語ったり、イントロクイズをしたりして盛り上がった。
……のだけれど。急に彼女の口数が減ったため、ふと見ると目が潤んでいるではないか。
「この人の歌、私の青春だったんだよねえ……」
「あなただけ見つめてる」が流れていた。大黒摩季さんの全盛期が私たちの大学時代にドンピシャで、私もよく聴いたものだ。「DA・KA・RA」「ら・ら・ら」「熱くなれ」なんかはいまでも空で歌えるかもしれない。
このところ家庭でいろいろあって心がしおれている彼女は、身軽でいられた頃を思い出して胸がいっぱいになったようだ。

九十年代の歌の中でも、私にとって一番の青春ソングは槇原敬之さん。
ふだん音楽はメロディで聴いているが、槇原さんの歌は別。なんてことない日常やちょっと女々しくて不器用な男の心情が描かれたピュアな詞が好きだった。いまもときどき聴くけれど、優しい気持ちになれる。
そしてもうひとつ、懐かしさと同じくらい切なさが押し寄せて胸が締めつけられるのがチェッカーズだ。
若い人は知らないだろう、八十年代から九十年代にかけて絶大な人気を誇ったバンドで、七人のメンバーはやんちゃでオシャレでチャラめのルックス。とくにボーカルの藤井郁弥さんは小柄で童顔なのに色気があって、めちゃくちゃかっこよかった。
そのフミヤに大学時代に付き合っていた男の子がとてもよく似ていた。飲み会の二次会でカラオケに行くといつも女子にリクエストされていたから、彼らの歌を耳にすると甘酸っぱい感情がよみがえる。
「あの頃の私、本当に幸せだった……」
とホームシックのような気持ちになってしまうのだ。

「背が高くて顔がフミヤって最強やん」と言われることもあったが、心配されることのほうが多かった。「意外」とは言われても「お似合い」とは言われなかった気がする。
「昨日一緒に歩いてた人、まさか彼氏?」
「そうやけど。その“まさか”ってなに」
「いや、ちょっとびっくりというか……」
モテるだろうになんであんたなん?というニュアンスもあったのかもしれないが(失礼だな!)、遊んでいそうな雰囲気の彼とお堅めの私とではキャラのギャップが大きかったのだと思う。
不思議はない。私自身、知り合って一年経った時点でも「こういう人と付き合う女の子は苦労するだろうなあ。ぜったい女関係で泣かされるよね」と思っていたくらいだから。
「こういうタイプ、私はパス!」
が初めて会ったときの印象。ゼミの顔合わせの場で、彼の自己紹介がとても軽薄だったからだ。
ノリのいい誰かの提案で「恋人持ちは正直に申告すること」というルールになり、彼も入学当初から付き合っているという彼女について触れたのであるが、そのあと女子に向かって「でも募集は随時してるんでヨロシク」と言ったのだ。
みなはヒッドーイ!なんて言いながら笑っていたが、私はそういう冗談がキライ。よって、私の中で彼は「チャラ男」に認定された。

悪いヤツではないということはじきにわかったが、遊び人のイメージは覆らないまま一年ほどが過ぎたある日、私が社会人の彼とうまくいっていないことをぽろっと話したら、とてもまともで温かいアドバイスが返ってきた。あれ?「さっさと別れて新しい男探せよ」で片づけられると思ったのに。
それから気をつけて見ていると、男同士でこれから誰それの部屋で麻雀しようという話になっても「たぶんメシつくってくれてると思うから」とあっさり帰って行ったり、休日の予定を訊いたら「あいつをどっか連れてってやらないと」と言ってみたりとけっこう優しい。
「ふうん、もしかしてこの人、見た目やポーズからイメージするほど不誠実な人じゃないのかしら……」
それからまもなくある出来事があって私たちは付き合うようになったのだけれど、そうしたらすぐにわかった。彼女はぞんざいに扱われてなんかいなかったんだ。


いくつになっても何度でも青春はできる。だけど、その時代限定の青春もある。
これからもどこかでばったりチェッカーズに出会ったら、私の心は遠い日のあの場所に戻ってしまうだろう。でも、しばし幸福感に浸ったら、「さて、と」と言ってちゃんとここに帰ってこなくっちゃ……ね。


【あとがき】
コンパや打ち上げの飲み会のあとは必ずカラオケでした。大学のそばに何軒もあって、ほんとよく行ったなあ。いまはタダみたいに安いけど、当時は部屋代(ワンドリンク代だったかも)プラス一曲百円だったから、けっこうしましたね。
通信ではなくレーザーディスクカラオケで、分厚い目次本から曲を選び、マイクはもちろん有線。でも、歌詞のテロップと一緒に映る背景映像が歌の雰囲気に合ったドラマ仕立てになっていて、人が歌っているときにそれを眺めているのもおもしろかったなー。