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ある音声配信にて

 私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
月に一度テーマを決めて、部員で作品を書き合います。
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※この作品はフィクションです。


■ある音声配信にて A面

登場人物
 
◎私(ヤシロ/語り/男性)
 
◎MAKOTO(男性)
 
◎ヤシロの友達(女性声)
 
 
通話アプリを通じて、俺は彼女と話していた。
 
「MAKOTOさん助かって良かったね」
 
「そうっすね」
 

 
配信者仲間のMAKOTO。
彼の飲酒ライブ配信は、しょっちゅうだったが、その時は様子が違った。
 
MAKOTO「そんなに、しんはいしなくてほ、だいひょうふ、らってわ」
 
ライブ中、MAKOTOの語調が急に変わった。
これは……
人々は、次々と、メッセージを送っていた。
 
   「MAKOTOさん、まずいよ!」
 
   「それ、ヤバイ奴!!」
 
   「救急車! はやく救急車!」
 
本当に脳がやられているのか、MAKOTOは、
 
MAKOTO「だひょうふ、だいひょうふ」
 
というばかりだった。
そんな混乱の中、MAKOTOの配信は、ぷつりと途切れてしまった。
みんな心配したが、
一週間ほど経ってから、MAKOTOは、配信に戻ってきた。
 
MAKOTO「みんなー、ごめんねー」
 
     「生きてたー!!」
 
    「おかえりー MAKOTOさん!」
 
    「心配したよー」
 
 
MAKOTO「脳梗塞だった……
     誰かが救急車呼んでくれたみたいでさ……
     早かったから後遺症もなくばっちり!」
 
 
    「おー 神出現ー! すげえ!」
 
    「ラッキーでしたね!」
 
    「でも、誰が通報したの?」
 
 
MAKOTO「それが、わかんないんだ。
     ぼく、一人暮らしでしょ? 
     近所の人には、ぼくが倒れてるのわからないはずなんだよね。
     不思議だよね。
     配信中に倒れたから、聞いてたリスナーさんが通報したのかな」
 
 
    「えーーー?」
 
    「は? そいつMAKOTOさんの住所を把握してたってこと?」
 
    「こわいよ。それ……」
 
 
タイムラインがざわついた。
とうとうMAKOTOの住所を特定して、救急車を呼んだのは、誰かわからないままだ、と思っていた。
 

 
彼女は俺に言った。
 
   「私なの……」
 
   「え? MAKOTOのリアルの知り合いなんすか?」
 
   「いーえ。でも、私がMAKOTOさんに救急車を呼んであげたの」
 
   「……MAKOTOの住所を特定して?」
 
   「そう……」
 
   「どうやって?」
 
   「それは、秘密。そして、あなたのもね
    ……どうせなら、あなたが、倒れてくれれば良かったんだけど……」
 
俺は、息を飲んだ。鼓動が速くなり、息が苦しくなった。
 
   「MAKOTOさんは、別に無害な人だったから助けてあげた。
    でも、あんたは別……」
 
   「お前、何を言ってるんだ……」
 
   「リンって配信してる子がいるでしょ?
    あなた、陰で、あの子にしつこく絡んで、言い寄ってるわよね……
    うまくやってるつもりかもしれないけど、
    下心がバレバレ。
    頭沸いてんじゃないの? 
    これ以上関わるのはやめなさい」
 
   「あ?」
 
   「知ってるの。あなたの本名も住所も。
    だから、リンに手を出すのはやめなさい。
    言ってる意味わかるわよね?」
 
   「バカなっ!」
 
   「ウソじゃないわ……今から住所と名前を言うわよ?」
 
彼女は、本当に、俺の本名と住所を読み上げていった。
 
   「どうやって……」
 
   「そんなことはどうでもいいわ。
    でも、本当に、やめなさい。
    私は、このアカウントを捨てるから、追跡しても無駄よ。
    変なことをしようとしたら、本当に、バラすからね」
 
 
いったいどうやって?
あの女……MAKOTOの命は助けたくせに、俺に対しては脅迫してきた。
いったい何だったんだ?
 
 
 
 
■ある音声配信にて B面
 
◆登場人物
 
◎私(ヤシロの友だち/男性声(A面と同一人物))
 
 
バカな男……
 
特定屋は

SNSの「言葉」と「写真」の手掛かりから、
相手の住所や名前を特定する。

写真にある特徴のある建物。
店や電信柱に書いてある名前や地名。
どんな行動を、いつしたのかの記述。

いろいろな手がかりから、ターゲットの身元を絞り込んでいき、
その住所と本名の情報を依頼主に売る。

罪深い職業だ。

ハッキング技術も補助的に使うこともあるが
写真とコメントから特定する方が痕跡を残さなくて済む。
 
その要領で、相手の配信の音を聞いていた。

不用心な男だ。

手掛かりになる、ノイズを垂れ流しながら配信している。
 
写真や文字だけでなくても、人は様々な手がかりを残す。

言葉のアクセントやイントネーションで、生育地を、
声の調子や話し方、内容で、職業や生活状況、
家族構成まで、ある程度絞り込める。

ヤシロのアーカイブには、
選挙の時のウグイス嬢が叫ぶ、
候補者の名前がノイズの中に入り込んでいた。
それで、かなり居住地域は特定できた。

様々な趣味のノイズマニアの記録サイトはたくさんある
例えば、
救急車やパトカーの音がした場所と時間を詳細に記録している
マニアたちのサイトがある。

そういうものを照会し、繋ぎ合わせる。
ノイズからだけでなく
本人たちの会話の中からも、手掛かりを拾っていく。

狙いはヤシロだが、MAKOTOとヤシロは仲がいい。
二人のコラボは、いろいろな自己開示をするから、なお良かった。

しかし、MAKOTOが脳梗塞で倒れたのは、計算外だったが……
MAKOTOがリンによくしてくれていたのは、知っていた。
MAKOTOがリンに言い寄っているヤシロに、
それとなく絡み過ぎないようにと言っているのを、私は聞いていた。
 
偶然、初めてリンの音声配信を聞いたとき……


あのとき以来、遠くからそっと眺めることはあったが、
彼女に会うことはできなかった。

対面した状態での声は何年も聞いていない。
しかし、少し配信を聞いただけで、
リンは、鈴音(すずね)だとわかった。
ヤシロという男が、絡んでいた。


ヤシロはノイズを乗せて配信するような不用心な輩だ。
私を辿ることなど、できまいと思ったが、
念のため声を変えた。

それに、男を誘うには、女性の人格に限る。
女性の声と人格で、ヤシロに近づき誘いをかけた。
男は基本的にバカだ。
女の声だと、甘くなり気を許して、
いろんな手掛かりになることをしゃべってくれた。

何年も前。 
私は、役者を目指して、落ちぶれ、
妻にも逃げられ……いくら生活が厳しいからっといって……
鈴音……幼いおまえを施設に置き去りにした。
役者なんか目指さず、そのままプログラマーをやっていれば……

……父さんを許してくれ……
ヤケになって犯罪歴を作ってしまった私にできる仕事は少ない。

こんな稼業をやっていて、今さら、父親面なんかできない。
しかし、できる限りおまえを……
 
 
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