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―――ん?  今、誰が返事した?


 ぼくは、感覚が鈍いのか、幸いなことに、超自然的な恐い体験は、あまり、したことが、ありません。

でも、少ないながら、奇妙な体験をしたことは、あります。

 

 これは、そんなに恐い話では、ありません。でも、未だ解けない不思議な出来事です。

 

 あれは、確か、ぼくが、中学二年生の頃でした。そして、数学の時間でした。

 

 いつもの通りの授業の展開で、数学の先生は、例題の解き方を黒板に書いていました。

 そして、先生は、誰に尋ねるでも、なくこう言いました。

 

「これで、いいんだよな……」

 

 先生とはいえ、間違うことはあるので、つい、そういう言葉を言ったのでしょう。

 

 それに対して、誰かが、

 

「はい」

 

 と答えたのです。女の子の声のようでした。

 

「ん? 今、誰が返事した?」

 

 先生は、言いました。みんな、きょろきょろして、ざわざわしはじました。

 

「誰だ? 今の?」

「女みたいだったけど、誰?」

 

 みんな、誰が、返事をしたかわからない様子なのです。

 

 ちょっと想像してみてください。静かな教室内で、教壇にまで聞こえるほど、はっきりと誰かが、声を出したとして、そして、しらばっくれたとしても、それが、誰か、わからないなんて、こと、ありえると思いますか?

 ただで、さえ、ぼくが通っていた中学校は、生徒数が少なくて、一学年が二クラスしかなく、みんな、知り合い同然なんです。

 

 教室なんて、そんな広い空間じゃないし、何と言っても、誰かが、声を発したら、その付近の席の誰かが、気付くはずなのです。

 

そ れなのに、みんな、その声を聞いているのに、誰一人として、その声が、どこから聞こえたのかわからないのです。

 

 あれは、何だったのでしょう?

 

 誰かが、思いもよらないトリックでも、使ったのでしょうか?

 トリックだったとしても、田舎中学で、誰が、何のために?

 

 この出来事は、今でも、何だったのか、よくわかりません。

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