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片二重さんの作られた音声作品 善性バッドトリップ 感想

「善性バットトリップ」は、HEARという音声配信サービスの中で、片二重さんが、オムニバス形式で作られた音声作品です。

(敬称略)

■SF落語『猫』
 台本・編集:片二重
 主演:百舌鳥
 VOICEVOX:四国めたん(https://voicevox.hiroshiba.jp/

■ポエトリーリーディング『4K罵倒』
 作詞・編曲・編集:片二重
 VOICEVOX:冥嶋ひまり(https://meimeihimari.wixsite.com/himari

■朗読『言葉の行方』
 台本・編集:なす
 主演:ゆで太 たまご(https://hear.jp/yudeta_egg51r

の三つで構成されています。

もし、まだこの作品を聞いていなくて、興味を持たれたのなら、私の感想を読む前に、聞いていただいた方がいいと思います。

感想書きたいのに、表現する言葉が見つからなくて困っているので。

善性バッドトリップ


■無釉(むゆう)
 
 無釉なんて言葉、当然、私は、知らない言葉だったので、検索して「(敢えて)釉薬(焼き物の色を出す薬)をつけないで、陶芸作品を作る方法」ということを知りました。勉強になります。
 私の古い頭では、理解の及ぶ所ではないのですが、やはり聞いてみて、次元を突き抜けているので、言葉がやっぱり出てきません。破格も破格、凄いという感想はすぐ出るのですが、それ以上言葉が出ない。
 前半を聞いていて、頭を抱えていたら「あの、もしかして、まだこれを、ちゃんと聞こうとしてます?」という台詞が流れてきました。ちゃかしてはいるのだけど、「分かる奴だけくればいい」と視聴者を放り出してる冷酷な作品でもない。
 それこそ、詩のような面積が広い言葉で、取り囲むようなことをしないと、この作品は捕えられないような作品だとも思いました。私は詩を書けないのですが。
 感想を書くというのは、解釈をして、それを言葉で取り囲む行為なので、零れ落ちるものが、必ずあるのは確かなのですが、破格過ぎるので、いくら言葉で掬おうにも、大半が抜け落ちてしまいます。かといって、まったく見ただけ聞いただけで、興味を失い理解を諦めて立ち去るしかなさそうな、前衛的な音楽や絵画がありますが、そういうものとも違う。
 どうにも自分では言葉にできないなあと思っていたら、片二重さん、ご本人が書いていらっしゃった言葉「いろんなセリフを重ねてありますが、そのどれもがフレーバーテキストとして丁寧にひねり出した文章たち」この表現。やっぱり、ご本人の言葉の方がしっくりくる。
 森羅万象の時間とか空間を超えた人間たちの台詞が、意味がありそうで、意味がなさそうで、でも、無意味綴りではなく、分解しては組み立てるのを繰り返している。

 あれこれ、考えて、枠にはめるのは、もうこれは無理なので諦めて聞きいるのです。

 恐ろしく洗練された雑然を。

■SF落語 猫

 片二重さんが作った落語とは、どんなふうになるんだろうと思いました。設定はサイバーパンク調なのですが、きちんと寄席で話している感じがわかる話で、実際に笑いながら聞いていました。
 落語をよくわかっていない私が、しかも、こんな飛躍した設定の落語に、私がついていけるのかと思いましたが、ちゃんと笑えるし、味がある。
 それは、台本の妙でもあると思いますが、百舌鳥さんの妙技でもあると思います。落語に詳しくない私が、言うのも何なのですが、役者の方が落語家の役をやっても、あまり落語っぽい味を感じない時があります。でも、百舌鳥さんは、ちゃんとサイバーな落語をやっている。これは、百舌鳥さんが、講談をされたり、古典芸能に非常に造詣が深かったり、台本の文字を追いながら台詞を出す不自然さを無くすために、台詞をまるごと覚えて収録ということをされるので(百舌鳥さんとコラボさせていただいた時、膨大な専門用語が入る台詞を記憶されて演じておられることに驚きました)、そういう事を繰り返されたのもおおいに関係があるだろうと思いました。
 破格な作品、果たして、私にオチがわかるのだろうか、と、思ったら、ちゃんと、オチがつき笑えたので、そこは、ほっとしています。

 ■4K罵倒

 捻じれすぎてわからないけれどツンデレのようなにおいもするし、やはり、この音と意味の繋がりの奇妙にリズムの合った混沌は、言葉で掬い取る事は、難しくて、余計なことを言えば言うほど、陳腐になるし、まず、聞いた方がいい気がします。
 あと、編曲もされるということを始めて知り、なんと、いくつも技をお持ちなのだろうと、驚いています。片二重さんは、ドット調のお洒落なイラストも描かれます。反則だと思います。

■言葉の行方
 
 ある女性の一生というモチーフで、肉声が忘れられていき言葉だけが残っていく様を人間とボイスロイドを使い表したという理解であっているのでしょうか。なんだか、英語論文の直訳みたいな硬い表現で申し訳ないです。
 私はボイスロイドというものをよくわかっていませんでした。「無釉」にも「4K罵倒」にも使われていると思うのですが、敢えてそれを使っていって、さらに、それで独自の味を出すというのも、私の理解の範疇を超えているので(ボイスロイドのキャラのみでお笑い的に展開させている、あるいは対話篇にして内容をわかりやすくする補助的な役割をさせている動画というのはYouTubeをうろついていると見かけますが、人間とこれだけ周到に組み合わせて複雑で深い表現をするというのは、私は初めて聞きました)何回か聞いていて、こういう意味なのかなと思いました。こういうものは、やっぱり圧倒されます。
 出演されている、ゆで太たまごさんの温かい声だけど、それが特定の誰かではなく、敢えて空中に行くような演技。だから、やはり誰かに向けられた声という個性は消えて、「意味」というか「伝説とか伝承の言葉」だけが残っていくという暗示なのか。
 片二重さんの作られるものが、どちらかというと「丹念に散らしていく(そして緻密にまた組み直す)」感じなのに対して、なすさんの表現は「連ねて伸ばしていく」という印象を持ちました。温かそうだけど、やっぱり、なすさんの淡々とした、ラジオの語り口みたいに、型をすり抜ける感じ。
 前例が無い事を作りたいと、片二重さんは、おっしゃっていて、実際、次元が違うので、追い付いてるのだか、引き離されているのだかも、よくわからないのですが、どうにもこうにも、Twitterや配信のコメント欄にも、数千字の感想は収まり切れないし、お便りするには、分量が多過ぎるので、ここに書きたいと思いました。
 こねくりまわした表現ですみません。

 片二重さん、わずかばかりですが「無釉」の台詞に参加させていただき、本当にありがとうございました。
 
 こんな突き抜けた作品の一部に使っていただける体験なんて絶対できないと思ったから、片二重さんが台詞音声応募されたときに神速のスピードで、手を挙げた俗物の私……

次の作品を楽しみにしております。

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