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(3)怪物の足音

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STFドラマ祭というスタンドFMでのボイスドラマのお祭りでいろいろな監督うのもと、様々なジャンルのストーリー約30作品が、が4月7日一斉に配信されました。
STFドラマ祭で、どんな内容の作品が公開されるのか、下記のリンクに一覧があります。
ぜひ、チェックしてみてください。
https://note.com/nekonotsuuro/n/n41e4744b1f9f
私も脚本・監督として「牛鬼」(漁村で侍と怪物が戦う話です)という作品で参加させていただいています。
のですが、そのメイキングにまつわるお話を少しずつ書いています。



前回は、「怪物の鳴き声」にまつわる話をしたのですが、今回は、足音の話です。以下、少しネタバレと関係する話があるので、ご了承ください。

怪物の鳴き声は、前に書いたような形
(2)怪物の鳴き声
で、なんとかクリアできたのですが、この奇妙な怪物の足音は、どんなふうになるのか。見当もつきませんでした。

足音もフリー効果音素材として、いろいろなものが利用できるのですが、それは、ほとんど「人間」の足音です。
今回、私が作ろうとしている怪物は、鋭い爪のある八本の足を持っているという設定です。
人間以外の動物の足音も「馬」くらいならありますが、ほかには、なかなかありません。
「怪獣」の足音というものもありますが、「ズシン! ズシン!」という二足歩行の足音。8本足の足音とはやはり違います。
単純に8つの足音を連続させて作ってみて人に聞いてもらったら、8本足に聞こえないといわれて頭を抱えました。
ボイスドラマなので、音で「恐ろしい怪物が近づいてくる様子」を表したいのにうまくいかない。



参考にならないかと、蜘蛛のような怪物が出て来るいろいろな動画を見たのですが、なんだか、いまいちわからない。恐竜の足跡と変わらない感じ。

ちょっとイメージに近いかなと思ったのが、バイオハザードre:4というゲームの「プラーガ」というクリーチャーでした。
足がいっぱいある怪物の足音でかなり近い感じでした。
しかし、素早過ぎて足の速い昆虫が走ってるみたいにも聞こえて、よくわからない。私が作ろうとしている怪物は、もっと重量のある足の遅い生き物の設定です。
それで、プラーガの足音を録音してスロー再生してみたのですが、これもまた、ゲームの中なので、音楽やほかのクリーチャーたちの立てる音に紛れてしまって、どう再現したらいいのかつかめませんでした。

それで、考え方をもっとシンプルにすることにしました。
8本足で歩いているのなら、2本足ではない独特なリズムがあるのではないか。
とにかく足音のリズムを把握すれこと。
あのような生き物の足音のリズムをどう調べればいいのか。
8本足の歩く生き物。
蜘蛛!



今度は、「蜘蛛の歩行アニメーション Spider Walk Cycle」という動画

を見つけました。
やっぱり見ていても早過ぎて理解できないので、スローモーションで再生。
それでもわからない。
とうとう
R1~R4
L1~L4
というふうにそれぞれの足に数字と記号を振り、
音声ソフトに8本のラインを作り、どの足を着地させたか、大雑把に見ながら、鋭い短い音(※1)を使って、どんなリズムになるのか、試してみました。
数学的な処理をしたわけではないので、正確なリズムではないと思うのですが、なんとなく2本ではない多くの足を持っているクリーチャーのリズムになっているような気がしました。
これで、怪物の足音のリズムができました。
これが基本になって、ゆっくり歩くとき、速く移動するとき、それぞれ、音のスピードを変えればいいことになります。

もう一つ難問がありました。
この怪物は、物語の中で、こんなふうにやってきます。

・浅瀬(海中)
・砂浜
・洞窟
・船に爪を食い込ませて登ってくる
・船上
・崖

怪物は、これだけ、足場の違う場所を移動するのです。
それぞれの足音をなんとかしなければなりません。



「浅瀬(海中)」は、意外に早くにできました。
「湿地帯を歩く」という素材があったので、その足音を分解して、クリーチャーのリズムにすれば、簡単でした。
「崖」も、「ピッケル」というのがあったので、それを使用。

「船に爪を食い込ませて登ってくる」は、音のイメージはわかるのですが、素材が無い。
さっき言ったバイオハザードRE:4にも、巨大で鋭い足を持って襲ってくるクリーチャーの音がありましたが、転用というわけにもいかない。
「釘を打つ」とか、いろんなものを試してみたけれど、何かが違う。
よく使う「ドアを叩く」という素材も試してみました。
「ドアを叩く」というのは、本当にいろんな音に応用できる効果音だと、私は感じています。
打撃音として使えるだけでなく、さまざまな足音にも使えます。
船のような特殊な板の上を走っているような音にも使える。
ほかの作品(※2)でも「ドアを叩く音を」船上で戦っている兵士たちの足音で使ったことがあります。

でも、兵士の足音は人間であって、怪物が登ってくる音ではありません。
「ドアを叩く」も、やっぱり何か違う。
最後に行き着いたのが「火縄銃の銃声」の素材でした。
「素材に爪が食い込むほどの衝撃」というのは、もう「銃撃」と似たようなものなんですね。
自分としては、未知の怪物が船を登ってくる恐ろしい場面の音が、うまくできたと感じました。


洞窟と船上は、ただ歩く音だけではなく、少し「ぬちゃ」と湿った感じをつけるといいかもとアドバイスをいただいて、それぞれ出来上がり、「砂浜」が最後に残りました。
一番最初の方の場面なのに、最後まで大変でした。
砂の上を長い足を持った、しかも重い生き物が動く場合はどうなるか。
着地して足が沈み、それを抜き取る音も聞こえるだろうと思って、着地音と、砂から足を抜き取る音を重ねました。
それを人に聞いてもらっても、何か違うと言われて、「音にうねりをつける」「ほんの少しずらして音を重ねる」ということを教えていただいて、やってみたら、本当に恐い音になりました。
ホラーゲームなどでも、「普通に話してるみたいだけど、なんか恐い響き方をしている声」というのは、こういう技術をいろいろ使っているのだと思い当たりました。

※1 メトロノームの音。あの音は本当に、リズムを把握するのによかった。
※2 耳なし芳一(壇ノ浦の戦いの回想場面で)

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