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「待機児童ゼロ」を実現した市でも、私の子どもは保育園に入れない。/岩手県盛岡市在住・春田さんへのインタビュー

こんにちは、医療的ケア児の親で、フリーライターのおざわです。
医療的ケア児の親御さんにインタビューをし、それぞれの生活や困りごと、各自治体の課題などをお聞きして記事にしています。
(詳細はこちらの記事にまとめています。)

今回お話をお聞きしたのは、岩手県盛岡市在住の春田さん(仮名)。お子さんは現在1歳で、必要な医療的ケアは経鼻経管栄養と在宅酸素です。

春田さんは現在育休中。仕事に復帰したいと強く望んでいますが、産休中に内定していた保育園に入れる見通しが、今現在立っていません。

春田さん「職場の規定上、育休が取れるのは2歳の誕生日までです。あと1年もないのですが、子どもに医療的ケアが必要とわかってから、保育園に入れる予定が白紙状態。このままでは退職することになってしまいます。もうどうしたらいいのかわかりません…」

仕事の継続が危ぶまれている春田さんの切実な思いを詳しく聞きました。

自治体の発表は「待機児童ゼロ」。その数字の中に、入園できない医療的ケア児は入ってますか…?

春田さんが産休に入った時点で、実は子どもが生まれたら保育園に入れる目処が立っていました。勤務先の系列に保育園があったからです。春田さんも出産後の仕事復帰を望んでいたこともあり、産休の時点で枠を確保してくれていたそうです。

でも、生まれてきた子どもに医療的ケアが必要だとわかると、入園は難しいものとなりました。

春田さん「入れる見込みだった保育園には、看護師さんがいないんです。役所に相談しても、そこがなかなか解消されないみたいで、話が全然前に進みません。訪問看護とか、病院からの看護師派遣とか、思いつく代替案はいくつか提示しているんですが、いまだにいい返事はもらえていない状況です。今後子どもに医療的ケアが必要になるかもとわかってすぐ、もう1年も前からずっと相談していたのですが…」

春田さんは役所も医ケア児の保育園入園にすぐに対応するのは難しいだろうと考え、かなり早めに相談をしていたそうです。

春田さん「うちの子は生まれてすぐにNICUに入ったのですが、保育園のことで役所に相談に行ったのはそのすぐ後です。医療的ケアが必要な状態で退院するかもしれないと。役所に言ってもすぐにどうにかなる問題じゃないよな、予算とかも確保してもらわないと、と考えて、自分なりに早めに動いたつもりでした。でも、1年たってもまだ、保育園に入れる目処が立ちません。今は育休を延長していますが、それも2歳までで終わってしまいます。2歳までに保育園が見つからなかったらどうしたらいいかと職場に相談してみても、『今までにそういう人いなかったから退職するしかないんじゃないか』と言われてしまいました。うちの子は1歳をすぎたので、もう時間がありません。この1年で動かなかったことが、あと1年以内にどうにかなるとも思えず、『退職』の文字が浮かんでいる状況です

ここ2年、うちの自治体が発表している待機児童の数は0とか1だけです。でも私が知っているだけでも、同じように子どもに医療的ケアがあって保育園に入れないと言っているママはその数字以上にいます。私たちは待機児童にすらなれていないんでしょうか。自治体が発表する『待機児童ゼロ』を見て、なんとも言えない気持ちになってしまいましたね…」

普通の生活をするために、私たちは頑張らないといけない。

生まれてすぐに保育園入園について役所に相談した以外にも、春田さんは、考えられる限りのことはしています。

春田さん「医療的ケア児コーディネーターの方にも相談しましたし、議員さんにも会って話をしました。問題としては受け止めてもらったと思います。でも、進展はありません。もうあと何をしたらいいんでしょうか。みなさんどうされているんでしょうか…?正直、働けないと困るんです。ずっと共働きすることを考えて生活設計してきました。家も、共働き前提で買いました。児童発達支援に入れて働くことも提案されたけど、児童発達支援での預かり時間では、時短でも間に合いません。医療的ケア児を育てながら収入を得る方法が、今のところ私には思い浮かばないんです…普通の生活を送りたいだけなのに、働きたいだけなのに、それをするために考えつくだけのことはしているけど、まだ足りないんでしょうか。もっと頑張らないと、望む生活は送れないんだなって思ってます。」

数が少なくても、存在を知ってほしい

盛岡市は岩手県の中では一番大きな市ですが、それでも役所の対応を見ていると、医療的ケア児という少数の子どもの認知度が低いんだなと思うこともあるそうです。

春田さん「最近になって、障害者手帳を発行できることになって、手続きをしました。交付される時には、予約が必要だと言われ、予約して受け取りに行きました。でもいざ行ってみると、担当は小児の制度を全く知らない人で…もともと病気を理由に特別児童扶養手当2級で認定されていたんですが、障害者手帳が1級だったので、金額が上がる可能性がありますよね。それで、変更申請の手続きを希望したのですが、『今もらってるなら大丈夫ですよね』と言われたり、自動車税の割引などについて聞いても『自動車の所有者は障害者本人じゃないので認められないと思います』と間違ったことを言われたり。1歳の子が自動車持ってるわけないじゃん!と耳を疑いましたね。わざわざ予約して行っても、それですよ。役所にいる人でも、こういう子どものことはよく知らないみたいだし、相談しても正確な答えが得られてる気がしません。だから、どんなに聞いても『まだ知らないことがあるんじゃないか』と不安が拭えないんです。保育園のことも、たくさん調べたしたくさん相談したけど、どこかにまだ、実は情報を知ってる人がいるんじゃないかなって思ってしまいます。だから、こういう子いるよ、こういうことに困ってますって、声を出していかないといけないなって思って、とにかく頑張るしかないです。そうしないと、何も変わらないんですよね。数が少ないから仕方ないと思う面もありますが、大変ですよね。」

医ケア児家族でも働ける方法をとにかく知りたい

ずっと仕事を続けるつもりで人生設計・家計の設計をしていたという春田さんは、「とにかく仕事を続けたい」「今の職場に戻れないとしても、何かで生計を立てたい」とものすごく考え、行動していました。今はハンドメイドを勉強し、作品を売ることで在宅でも収入が得られるように頑張っているそうです。

春田さん「他の人はどうやって働いてるのかな?ていうのがすごく知りたいです。私は、育休が終わるまでに預け先が見つからなかったら、在宅で働く方法を見つけるしかないのかなって思い始めています。少しでも収入が得られれば、と思ったのと、少しでも医ケア児や障害児の親御さんたちにとって気分が上がるものが作れればいいな、という気持ちで今は障害児が使えるようなハンドメイドのグッズを作っているんです。自分にできることをしながら、保育園に入れる方法をもう少し模索してみます。

あとがき

春田さんがこのインタビュー企画に応募してくれたとき、当初は「インタビューを受けたい」というよりも「話を聞いてほしい」という側面が強い印象を受けました。

いただいたメールには、「2歳までに入園できなければ退職の文字が出てきている」「地域差なのかとも感じている」「いろんな方の話を聞いているおざわさんなら」と書いてあり、その悲痛な思いに心を掴まれて、すぐにお話しする機会を持つことになりました。

その後、「私たち家族のケースも一つの前例として誰かの助けになれれば」と記事にすることも前向きに捉えてくださり、こうして記事として公開できることに。

「前例がないことをするにはパワーがいる」と嘆きながらも、決して下を向かず、できることを探している春田さん。話を聞いている私の方が勇気をもらうくらい素敵な人でした。

「保育園に入れない」「仕事ができない」「家計が厳しくなる」という医ケア児家庭は全国に多く存在していると思います。でもその中の一つ、と片づけるのではなく、一人一人の声に耳を傾け、それぞれのケースをしっかり把握してもらいたい、と強く思いました。

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