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「いろんな子がいるってこと、もっと社会に知ってもらえたら」/愛知県名古屋市在住、生野さんへのインタビュー

こんにちは、医療的ケア児の親で、フリーライターのおざわです。
医療的ケア児の親御さんにインタビューをし、それぞれの生活や困りごと、各自治体の課題などをお聞きして記事にしていく企画を始めました。
(詳細はこちらの記事にまとめています。)

今回お話をお聞きしたのは、愛知県名古屋市に住む生野さんです。

1型糖尿病のお子さんがいる生野さん。お話ししてくれたのは、「病気への理解があるだけでずいぶん暮らしやすくなる。いろんな子がいる、というのをもっと社会に知ってほしい」という願いでした。

「看護師派遣の対象にならない」インスリン注射を打つために幼稚園と学校に毎日通った4年間

生野さんの息子、真浩(まひろ)くんは現在9歳。1型糖尿病という病気を5歳の時に発症しました。

1型糖尿病は、「糖尿病」という言葉が連想させるような生活習慣病ではなく、ある日突然、発症する病気です。

※1型糖尿病とは?
https://japan-iddm.net/what-iddm-is/

発症すると、膵臓移植を受けない限り、生涯にわたりインスリン注射を打つ生活を続けなければなりません。真浩くんも今、学校で自分でインスリン注射を打っています。

しかし、真浩くんが自分でインスリン注射を打てるようになるまでは、母である生野さんが注射を打たなければならず、昼食の時間になると幼稚園や学校に通う生活が4年間も続きました。

生野さん「うちの子は、幼稚園の時に1型糖尿病を発症しました。そこからは食事の前にインスリン注射を打つ生活になり、通っていた幼稚園にこのまま通わせるのは難しいかも、と思ったのですが、園長先生の理解もあって通園自体は継続できることになりました。ただ、注射を打つために、給食の時間に私が幼稚園に行かないといけないことに。その時は私も仕事をしていなかったので、通う時間はありました。でも、毎日その時間に行かないといけない、というのは本当に大変で…夜間も血糖値を見ないといけなくて、寝不足も続き、私の体調的に『今日はどうしても行くのが無理』という日も出てきました。その時に子どもも休ませないといけないことがすごく申し訳なくて、辛かったです。子どもは元気なのに、私が注射を打ちにいけないために、通わせてあげられない。『今日なんで幼稚園行かないの?』と子どもに言われた時は、堪えましたね…実家も遠方なので、頼れる人もいなくて。あの時は本当に、『誰か助けて』って思いました。」

注射を打ちに通う日々は、小学校に入っても続きます。

「名古屋市には、経管栄養や導尿などの医療的ケアがある子どもの場合、学校に看護師を派遣する制度があるんです。それを知って、小学校に上がる時に教育委員会に確認してみたんですが、なぜかインスリン注射は医療的ケアに当てはまらないらしく、看護師派遣はできないと言われました。なので小学校に上がってからも、給食の前に私が毎日注射を打ちに行く日々は続きました。その時は、落ち込んだけど、『そういうもんなのか』って受け入れるしかありませんでした。でも、おかしいなって思って。対象になる医療的ケアと同じで、インスリン注射だって看護師と医師しかできない医療的ケアなんですよ。なのにどうして対象にならないんだろう、って。それで、市議会議員さんにお話をしたら議会で取り上げてくれて。支援法ができたタイミングもあって、3年生になった頃ようやく、看護師派遣が受けられるようになりました。」

大変な時に声を上げる元気なんてない。でも、変えるには声を上げないといけない。

生野さん「うちの子の場合、まだ恵まれていたかもしれません。お友達の子どもは、保育園や幼稚園から退園要請を受けた子も多いですし、入園前に発症した子は、入園もできないことも多いと聞きますから。それでも、毎日通っていた日々は本当に大変でした。看護師派遣が受けられなくても、行政に言われたら、『そういうもんなのかな』と思ってしまうし、『おかしいな』と思っても声を上げられる状況ではなかったです。当時は寝不足もひどく、息子が通園や通学をしていてもずっと心配が尽きず気も休まらなくて…生活するだけで精一杯の中で、行政に掛け合う元気なんて、ないです。」

「でも、声を上げてくれたお母さんたちのおかげで少しずつ、『動けば変えわる』という認識ができてきました。医ケア児支援法もできて、後押しになってくれているのもあると思います。私がいる名古屋市でも変わってきましたし、他の自治体でも動き始めていると聞いています。」

生野さんは“type1unity”という支援団体の運営にも関わっているので、他の自治体の事情にも詳しいです。メンバーから話を聞いていると、動いてくれる自治体とそうでない自治体の差を感じることもあると言います。

「学校看護師の派遣とか、うちはやってるけど、隣の市はやってないとか、やっぱり自治体間で取り組みに格差があるのは感じます。他の自治体のお母さんと話した時に、『うちは行政が全然話を聞いてくれない』と仰ってた方もいました。名古屋市は今は変わったのではないかと思いますが、動きは遅かったな、と感じることもあります。その点、意外と地方の方が動きが早いこともあって、静岡県藤枝市とかは、言って半年くらいで学校看護師をつけてくれたそうです。医ケア児支援法ができる前のことです。一方で、東京都の中野区に住んでるご家族は、お子さん保育園から退園させられたと言っていました。家を買ったけど、区内には通園できるところがないから、別のところに家を借りて通園しているそうです。どうしてこんなに自治体によって違うのか、と疑問に思います。」

「いろんな子がいることを知ってほしい。知ってもらえるだけで生きやすくなることもある。」

必要なのは自治体の支援だけでなく、1型糖尿病について、社会や周りにも理解してほしいと、生野さんはお話しされていました。

今、真浩くんはスマホで血糖値が見れる機械を装着し、アラームが鳴るたびにインスリンを追加で打ったり、「補食」というアメなどの糖分補給をしたりしています。

1型糖尿病は、高血糖の場合にはインスリンを打たなくては腎不全や失明につながってしまう可能性があり、低血糖の場合は補食をしないと手の震えなどの症状のほか、最悪の場合には命を落とすことにもつながってしまう病気です。注射も補食も、生きるために必要な処置ですが、周りからの理解がないとそれすらやりにくいことも。

生野さん「一度、学校で補食をしたときに、他の子に『おやつ食べてる』と言われて騒ぎになってしまったことがあったんです。その時は学校の先生からも『人前で食べないように』と指導されてしまいました。先生には新学期に入った時、『補食はおやつではない』と説明していたのですが、それでもこんな事態に。周りから理解を得るのはそれくらい難しいことだということがよくわかりました。」

最後に生野さんはこう訴えます。

「いろんな人がいる、と知ってほしいです。理解があるだけで随分生きやすくなるんです。例えば補食は、生きるために必要なことなのに、子どもに陰でさせたくはありません。子どもに突然発症することが多い病気なので、学校の先生たちには特に知っておいてもらいたいです。そんな想いで、type1unityでは『学校生活の手引き』という冊子も作成しました(記事の最後にリンクあり)。とにかく、まずはいろんな人に1型糖尿病のことを知ってもらいたいです。

あとがき

生野さんにインタビューさせてもらった後、生野さんご家族が取材されているニュースの動画を拝見しました。映像に映る真浩くんは、見た目だけだと病気があることは分かりません。でももしかしたら、だからこそ理解が得られにくい、ということもあるのかもしれない、と思いました。

今でさえ、必要な補食もしづらい状況。もっと多感な時期になったら、人目をもっと気にするようになったら、と考えると、やはり社会全体で「知ること」が必要なのだなと、生野さんのお話を聞いて感じました。インスリン注射に限らずどんな医療的ケアにも言えることですが、見かけたとしても好奇の目を向けたりすることなく、「そういう人もいる」と認識できる、必要な医療行為が何の引け目もなくできる、そんな社会であってほしいと、心から思いました。

生野さん、ありがとうございました!

<記事内でご紹介した資料などのリンク>
・1型糖尿病支援団体「type1unity」:https://type1unity.wixsite.com/type1unity

・type1unity作成の「学校生活の手引き」:https://type1unity.wixsite.com/type1unity/%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%94%9F%E6%B4%BB%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3

・真浩くんが出ている1型糖尿病の動画「いちがたっこ ご飯は注射を打ってから」


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1型糖尿病はまだ知名度の低い病気だそうです。

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