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「医ケア児連れ生活の大変さ、行政に届いてますか?」/群馬県太田市在住・守屋さんへのインタビュー

こんにちは、医療的ケア児の親で、フリーライターのおざわです。
医療的ケア児の親御さんにインタビューをし、それぞれの生活や困りごと、各自治体の課題などをお聞きして記事にしていく企画を始めました。
(詳細はこちらの記事にまとめています。)

今回お話をお聞きしたのは、群馬県太田市に住む守屋さん(仮名)です。

守屋さんがまずお話ししてくれたのは、役所の対応に疲弊した経験でした。

補助金対象の指定難病なのに「対象にならない」?

守屋さんのお子さん(娘さん)は今2歳。
ライソゾーム病の一種のとある疾患が、今年になって発症しました。

ライソゾーム病とは?|難病情報センター

守屋さん「病気の発症は新型コロナウイルス感染がきっかけでした。それ以前は普通の発達だったんですが、発症してからは歩けなくなり、食べられなくなり、今年の6月に経管栄養になり、7月に胃ろうの手術をしました。発症すると進行が早い病気のようです。今後、呼吸器は必須だと言われています。」

守屋さんは今第二子を妊娠中。妊娠が分かったのは、娘さんの病気発症と同じくらいのタイミングでした。身重の体で娘さんのお世話をするため、大変なこともあります。

守屋さん「娘は、私かパパが抱っこしていないとものすごく怒って、泣いてしまうんです。筋緊張もあって激しく泣くとえびぞりになったり、呼吸を止めてしまうこともあるので、起きている時はずっと抱っこしていないといけません。ずっと抱っこじゃないとぐずるようになったのは病気が発症してからです。病気の影響なのか、お腹にいる子の存在を感じとって甘えているのかわかりませんが、寝たきり状態の娘をずっと抱っこするのはとても大変で、特に外出は一人では無理な状況です。それでもいろんな手続きに役所に行かないといけないのですが、この病気の知名度が低いためか、手続きするのにもものすごく苦労しました。」

「ライソゾーム病は指定難病ではあるのですが、その中の疾患まで知っている人は少なく、役所とやりとりしててもそもそも病気を知らない、わかってくれない、話が進まない、という状態。一度、バギーやカーシートを作りたくて相談に行った時は大変でした…保健師さんから、『身障者手帳などがなくても難病であれば補助が出る』と聞いて、役所に行ったんです。そしたらまず最初は『手帳が必要』と言われ、難病でも対象になると聞いたと言うと、『そんな制度はない』と。『難病と証明できるものはあるのか?』とも言われましたね。いろんな人が入れ替わり立ち替わりで対応し、その都度説明したのですが、結局その日は対象にならないという結論になってしまって。この時点でもうぐったりです。でも帰って調べたらやっぱり対象になるって書いてあるんですよ。それで改めて役所に出向いて、また一から説明して…ようやく理解してもらえました。ずっと抱っこが必要な子どもを連れて役所に行くのも大変なのに、人に説明するってこともものすごい労力がかかりますよね。なのに最初『対象にならない』とか言われて悲しい気持ちにもなりましたし、保健師さんは役所に聞いた制度だと言っていたのに相談しに行ったら担当は知らないし、たらい回しにした挙句間違った判断をするってどういうこと?って怒りがこみ上げてきました。そういう制度って、こちら側がここまで調べて役所に説明しないといけないだなんて思ってなくて。むしろ役所が詳しく教えてくれるものだと思ってました。」

今回は守屋さんがしっかり調べて伝えたから対象になったものの、最初に「ならない」と聞いてそのまま受け止める人も中にはいるでしょう。そう考えるとこの役所の対応はなかなか辛い現状です。

情報はどうやって知ったらいいですか?

守屋さんは役所でされた経験の話の中で「自分で情報を取得したり相談したり、ここまで手探りでやっていかないといけないというのは初めて経験しました。」とおっしゃっていました。

今でも情報収集については課題を感じているそうです。

守屋さん「私は障害者に関連する仕事をしているので、そこから情報を入手できることがあるんです。例えば、県主導で、障害児者向けに災害発生時の登録を始める、みたいなお知らせが仕事のメールで来たことがありました。たまたま仕事上知ることになりましたけど、普通はそんなメール来ないじゃないですか。だったらその情報ってどうやって知ればいいの?と思います。」

守屋さんは相談支援事業所を利用されておらず、病院ソーシャルワーカーにもつながっていないこともあり、情報収集が難しいというのもあるそうです。

「地域柄なんですが、近くに全部診てもらえる大きな病院がないので、今かかりつけが三つあるんです。ライソゾーム病については隣県の大学病院まで受診に行き、その他は症状や目的に応じて地域にある二つの病院に通ったり入院したりしています。なので病院のソーシャルワーカーさんに相談しようにも、居住地の病院じゃないからその地域の情報にあまり詳しくないらしくて。胃ろう手術の時に先生が訪問看護を紹介してくれたので、支援としては唯一それを利用できています。そして困った時も、まずは訪看さんに聞いてる、という状態ですね。医療的ケア児コーディネーターは一応ついてくれていて、お腹の子のことも含めとても気にかけてくれていて感謝はしていますが、そこから積極的に情報がくる、みたいなことはないです。なので、みんなどうやって情報知るの?って思ってます。」

障害児や医療的ケア児が生まれたら、家族が見るしかないのかな。

少ない情報源の中で、守屋さんは子どもが通える場所はないのかな?と探したことがあるそうですが、通える範囲にほとんどないことがわかりました。

守屋さん「コーディネーターさんに聞いたら、市内には児童発達支援として通所できる施設が1箇所しかないと言われました。それで見学に行ってみたら、子どもがいなくて。そこは多機能型だったので、児童発達支援だけやってるわけじゃなくて、医ケアが必要なクラスは子どもだけでなく大人も利用しているそうで。現在高校を卒業した大人しか在籍していないんだそうです。それでは子ども同士の関わりができないし…かといって子どもだけのクラスに行こうとすると看護師がいないので親が医ケアをする必要があるとのことで、預けるのは難しくなります。来年度から看護師配置の検討をしてるそうですがまだ不透明です。隣の市まで行けば他の児童発達支援事業所があるけど、遠くてとても通えません。コーディネーターさんに聞いてもうちの市にはここしかない、としか言われないし…同じ市内に住んでる医ケア児はどうしてるんだろう?って思ってます。」

守屋さんは第二子の出産も控え、どうしよう、と頭を悩ませつつも、半ば諦めの境地でいらっしゃるようにも見えました。

「二人目が生まれたら、この子の預け先を探すよりも、まず下の子の預け先を探す方が早いと思うんですよね。それくらい、医ケア児をどこかに預けるのが難しい。障害児や医療的ケア児を生んだら、小学校までずっと家で見るしかないんですかね。もう探すよりも、施設作っちゃった方が早いよね!みたいな話をしたりもしています。結構、身内で保育士とか看護師とか多いので。」

支援がないから自分たちで作る、そんな話を明るくする守屋さんを見て、たくましく、素敵だなと思う反面、支援の手が行き届いていない現状を目の当たりにし、お聞きしていて心が苦しくなりました。

親の負担を減らすためのデジタル化を。アナログで「調べる」「出向いて申請する」が難しい状況もあると知ってほしい。

最後に、特に伝えたいことや改善してほしいと訴えたいことはありますか?と聞いたところ、守屋さんは「デジタル化!」と即答してくれました。

「子どもが病気、となったときに、福祉制度が一覧で載っている冊子をもらったんです。マーカー引いたり、付箋貼ったりして頑張って読んだんですけど、申請していないものがあるということがわかって。結局何度も役所に足を運ぶことになってしまいました。何かの申請に行った時に、『これとこれも対象だからこのまま手続きしていって』と一連の手続きができるようにならないものかな、と思います。」

「そもそも、子どもが難病だ、治療はどうする、とか考えないといけない時に、福祉制度まで頭が回らないです。この認定がされたらこれもできるよ、みたいなのがシステムで簡単にわかるようになったりできないんでしょうか。マイナンバーだって、毎回書類に書かされるけど、これ何にも生きてないじゃん、て思います。口座番号だって登録してあるのに、毎回書かないといけないし。
システムを使って、情報が役所内で共有されたり、一元化されて必要な手続きがわかるようになってほしいです。そしたら何度も役所に行かなくてもよくなりますよね。娘を連れて出かけるの、本当に大変なので…手続きも、情報共有も、デジタル化して親の負担を減らしてほしいです。『手続きに来て』『取りに来て』と言われてもできない家庭もあるんです。」

「行政は、本当に私たちが何に困っているのかって、わかってないような気がします。何に悩んでいて、何を必要としているのか、もっと声を聞いてもらいたい。

あとがき

守屋さんはとても明るく、終始笑顔で、ハキハキとお話ししてくださる方でした。困ったことを言語化できる印象を受けましたし、現に役所などでもしっかり伝えているそうです。同じ疾患の親の会にも積極的に参加されていて、情報収集も頑張っていると話してくれました。それでも「何がわからないかもわかってないかも」と不安を吐露されています。

親の会に入り、コーディネーターも付き、仕事柄障害者関連の情報も手に入りやすい、求めていることも言語化できる方。それでも情報不足に不安を覚えるような社会でいいのだろうか、とインタビューしながら私は思いました。

頑張った人・運よく巡り合えた人だけに情報が届くのではなくて、
この状況になったらこの情報に、とみんながたどり着けるような社会になったらいいのに、とお話を聞いて改めて感じたインタビューでした。

守屋さん、お話を聞かせていただきありがとうございました!


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