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【インタビューレポート】ロケンロー作家 山羊的木村さん/なぜそんなにまでして小説を書くのか

ゆうべ開催した「第6回 サラ友オンライン談笑会」。ロックな作家、山羊的木村さんをゲストにお迎えしますと告知したところ、総勢13人が集まっての大盛況となりました。山羊さんファン多し!

60分という短い制限時間の中、noteに発表したエッセイや小説で数多くの賞を受賞されてきた山羊さんに、創作に対する熱い思いをできるだけたくさん聞こうと意気込んでいると、モニターの向こうに現れた山羊さんが突然すっと何かを差し出した。

両手に持っているA4クリアファイルの中には1枚の紙が挟まっている。その紙にでかでかと印刷された3つの文字。

「サラ命」

手に握っていたボールペンで、山羊の顔にヒゲ描いてやろうかと思いましたよ。
インタビュー前に、なんちゅう仕込みをしとんねん。

こういうところが人気の理由のひとつだと思われます。見習う気はない。

進行中に誰かが入ってくるたび、話を中断してこのファイルを見せるので、貴重な60分が45分くらいに減ったような気がしますが、トークの中身はさすがに濃かった。ハイライトをまとめてお届けします。

(山羊さんの小説『ハイライト』はこちら。ラストに向けて視界が広がっていく感じがめちゃ好き)


なにしろ山羊さんは、こちらから投げかけた質問に対して「それについては逆に僕からみなさんにお聞きしたいんですけど」なんて飄々と切り返してくる方なので、今回のインタビューもしっちゃかめっちゃかになるんだろうなあと想像しておりました。しかし、振り返ってみると案外きちんとボールを返してくれていた。勝手に動きまわっているように見えた山羊の足跡が、終わったあとに上空からドローンで見てみると、きれいな1枚の山羊の絵に仕上がっていたようなものです。山羊さん、いつのまに!

私が事前の告知で「こんなこと聞きたい」とリクエストした事柄について、さまざまなエピソードの中でさりげなく答えてくださっていたので、ここから順に紹介しますね。

1、何がきっかけで小説を書くようになったのか。


まずは山羊さんの読書歴から。山羊さんがもっとも小説を読んでいたのは、小学校高学年〜高校生の頃だそうです。ヘミングウェイ、村上春樹、西加奈子、スコットフィッツジェラルド、村上龍、あたり。こちらの記事にはその5人の作家による短編の中で、山羊さんが特に好む作品が紹介されています。

これらの作家に影響を受け、学生の頃から小説を書いていたのかと思いきや、実際には「いきなりnoteに書いた」のが執筆のスタートでした。2020年の話。最初の2本は反響が薄かったものの、3本めと4本めに書いたエッセイが立て続けにnote公式コンテストで受賞しました。すごい快挙! このあたりについては、「noteクリエイターファイル」にも書かれています。

しかしですね。何の下地もなしに、いきなりコンテストで受賞できるようなエッセイを書けるはずがないではないか。それまで日記すらつけていなかったというのは本当ですが、文章鍛錬を積んだ場所はほかにきちんとあったはず。問い詰めてみたらやはりあった。何かというと、会社の仕事。山羊さんはある重要書類を、これまで大量に書いてきたのです。

それが稟議書です。起案書、立案書ともいう。部署に何か欲しいものがある、こんなアイデアがあるといった場合、それを実現させるために裁量権を持つ上層部に直訴するための書類。これを山羊さんは、自分の部署だけでなく、ほかの部署からも代筆を頼まれて、山のように書いてきたという。人から頼りにされるほど、山羊さんの書く稟議書には「上層部の心を動かす思い」が十二分に備わっていたのではないでしょうか。案を通すために山羊さんも、最初に書いたものをそのまま提出せず、読み返して必要な箇所に肉付けをほどこす工夫をしていたと言います。

読む人の心を揺るがす技術。長い仕事生活の中で、山羊さんの腕に小説家にとっては欠かせない「相手の心に届く筆力」が、自然と身についていったのだと思います。加えて豊富な読書量。コンテストを2連続で受賞した自信。夜、車に乗っていた。雨を吹き飛ばすワイパー。信号は赤。突然「俺小説書こう」と思った。小説家ってかっこいい。家の棚に並んだ本の背表紙を眺めていく。村上龍「空港にて」。(こういうの書けばいいんだ!)ここから山羊さんの執筆生活が始まったのです。

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