見出し画像

おすすめ映画「日曜日は別れの時」

こんにちは。
「週間BLマガジン」ライターの猫野サラでございます。

ひかりTVで見た映画が期待した以上に魅力的だったので、みなさんにも紹介しますね。

特に魅力が溢れ出ていたのがこの青年。

画像1

ボブという名の芸術家です。

1971年のイギリス映画。舞台はロンドン。
ボブは自由恋愛主義のバイセクシュアルで、夫と別居中のキャリアウーマン、アレックスのほかに、開業医の男性、ダニエルという恋人がいます。
二人ともボブよりは10歳以上年上で、それぞれ自分の住む部屋の合鍵をボブに渡してある間柄。ボブは自分の気の向くままに、二人の部屋を交互に訪ねます。

社会的地位も分別もあるアレックスとダニエルは、年下の恋人ボブが二股をかけていることも、その相手が誰かも知っている。知っていて、ボブを責めることができません。自分の元から去っていかれるのが怖いから。
見て見ぬふりを続けますが、内心はかなり傷ついています。

二人の立場から見ると、ボブはひどい男です。一夜を共に明かした翌日、平気でもう一方の恋人に会いに行く。それを隠そうともしない。
感情が表に出やすいアレックスは、時々我慢ならずに泣いてボブをなじります。ボブは困ったような顔をしながら「そんなに多くを僕に求めないで」と言い、彼女の心に寄り添うことは決してしません。

一方、ダニエルに対してもボブは、二人で行こうと約束したイタリア旅行を反故にし、自分だけニューヨークへ行くことを決めたり、ダニエルが開いたホームパーティに来た客が気に入らないと部屋を出て行ったりと、勝手気ままにやりたい放題。

そんな不義理な男なんて、とっとと見限ってしまえばいいのだけれど、アレックスにもダニエルにもそれがどうしてもできません。なぜならボブがあまりにも魅力的で、それにすっかり参っているからです。

ダニエルが疲れて家に帰ると、暗い階段の奥にある寝室から、レコードのクラシックが漏れ聞こえてきます。ドアを開けると合鍵を使って上がり込んでいたボブが、裸でベッドの中にいる。
「おかえり。遅かったね」
愛らしい顔でにっこり笑いかけられると、ダニエルの疲れは宇宙の彼方に吹っ飛んでしまいます。

アレックスも同じこと。泣いてボブを責めたあと、シャワーを浴びる彼を半透明のカーテン越しに眺めているうちに愛欲が湧き、濡れた体に抱きついて「ごめんなさい。私が悪かったわ」と謝ってしまう。

罪な男なのです、ボブは。
彼に二人を翻弄する気はないのだと思います。ただやりたいように振舞っていて、勝手に翻弄され苦しんでいる二人を遠いところから眺めている。
冷たいというのでなく、それほど深く人を愛するという気持ちが、彼には理解できないのでしょう。また、受け入れてみる気もない。
仲間と芸術作品を創るのに夢中で、アメリカへ売り出しに行く準備にも忙しく、やりたいことが山ほどあって、恋人とのんびり暮らすなんてことは考えも及ばない。

これ、結構難しい役どころだと思うんですよね。ボブという青年。
うんと年上の男と女、二人をそれぞれ虜にする。自分の魅力というものを彼は十分わかっているはずですが、それを相手に見せつけたり押しつけたりするのでなく、相手の目が勝手にくらむよう、自然に溢れ出ていないといけない。

うまいんですよ、役者が。チャーミングだし色気もあるし、それでいて物静か。
ボブ推しでおすすめです。それほど美形というわけでもないのに、どんどん可愛く見えてくるから不思議。

画像2

「日曜日は別れの時」はシネフィルwowowで10月29日に放映されるようです。
(今amazonを見に行ったら、VHSの中古品が8000円というお値段でした!)
シネフィルwowowが見られる方はぜひ。

原題は"Sunday Bloody Sunday"、U2のあの名曲と同じです。
血塗られた日曜日。ボブに心身を捧げるアレックスとダニエルの、狂おしい叫び声が聞こえて来そうです。

***

ちなみにこの映画の監督ジョン・シュレシンジャーは、ダスティン・ホフマンが出演した「真夜中のカーボーイ」で有名な方です。
こちらはブロマンス要素がかなり濃い名作です。私はもう5回ぐらい見ました。

いま手元にある「QUEER JAPAN」 という雑誌に、この映画について漫画家の吉田秋生さんが語ったインタビューがあるので、少し引用します。聞き手は編集長の伏見憲明さんです。

吉田:
私がこういう物語(『バナナ・フィッシュ』や『カリフォルニア物語』)を描くようになった最初のきっかけというのは、高校生のときにリバイバルで観たダスティン・ホフマンが出ている『真夜中のカウボーイ』という映画なんですね。あの印象がものすごく強いの。(中略)あの映画はすごく衝撃的で、いまでも忘れられない。

伏見:
『真夜中のカウボーイ』とうのは、耽美というよりは汚れ系(笑)、あまり美しいとは言えない男ふたりの絆の話ですよね。はっきりとした同性愛というわけでもないし。

吉田:
そうですね。でも、お互いにしがみついていないと溺れてしまう、魂が死んでしまうみたいなつながりがあるじゃないですか。だから、たまたま観ちゃったのが男どうしの関係だったので、ついその刷り込みで自分が描くときも、男どうしの設定を使ってしまうような気がするんですよ。

<QUEER JAPAN Vol.2 変態するサラリーマン P134 より引用>
()内は猫野の補足。

「真夜中のカーボーイ」、未見で興味のある方にはこちらもおすすめです。
(シネフィルwowowで10月28日放送予定。amazonではBlu-ray、DVDが960円で販売されているようです。安い!)

***

男と男の魂のつながり、ブロマンスについてご存知ない方はこちらの記事をご参照ください。

また、吉田秋生さんも語っておられた「刷り込みの影響力のすさまじさ」については、その一例を私も書かせていただいたのでお楽しみいただければ幸いです。


最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。