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アマプラ映画/予期せぬ沼

日中ずっとiPadでマンガのネーム(絵コンテ)を描いているので、夜は目と手と頭を休ませたいのだけど、やはり何か創作物に触れたくて、よくアマプラの映画を見ている。テレビのモニターだとぼんやり眺められてよい。ソファでチューハイ飲みながら、猫とのんびりできるし。

ゆうべ見た映画の主人公は、記憶喪失の男だった。バスで終点まで寝過ごして車掌に起こされる。どこで降りるつもりだったのか? 家はどこか? 名前は? 男は何も答えられない。救急車で病院に運ばれて、そのまま入院となる。

同じような事象がなぜか頻発しており、その地域では複数の病院で多くの記憶喪失患者が治療を受けている。支給される食事の中で、男は特にリンゴが好きだった。なぜかは自分でもわからない。

自活できると判断されたら、アパートの一室と生活必需品、生活費を与えられる。男は早速リンゴを買いに行く。紙袋にたくさん。回復のためのプロセスだとして、医師から指示される簡単なミッションをこなさなければならない。たとえば自転車に乗るなど。その姿をポラロイドカメラで自撮りし、写真を医師に提出する義務がある。ミッションはカセットテープに録音される形で、次々と男に届けられる。

街へ出てミッションをこなしていると、男と同じように首からポラロイドカメラを下げている人々に出くわす。映画を見にきた証拠にポスターの前で自撮りする人が何人も現れる光景はなかなかシュールだ。

そんなミッションの一つに、焼き菓子をある人に振る舞うというものがあった。私は男がてっきりどこかの店で焼き菓子を買うのだろうと思って見ていたが、彼は自室のキッチンでパウンドケーキを作り始めた。料理ができるのだ。しかも相当うまい。彼の部屋には医師が時々合鍵で勝手に入ってきて、男の暮らしぶりやミッションの遂行具合をチェックするのだが、あるとき鍋に残っていたスープを味見したらあまりにおいしくて、皿一杯平らげる勢いだった。

記憶が何も残っていなくても、スキルは消えないのだなと私は思った。だったらもし私が男と同じようにある日突然記憶をすべてなくしたら、最初に何をするだろうかと想像した。料理でないことは明らかだ。チューハイを買いに行く? 猫を拾って一緒に暮らす? 机の上にもしiPadが置いてあったら、絵やマンガを描き始めるだろうか?

映画の中の主人公は、徐々に複雑化していくミッションを黙々とこなしていくうちに意外な行動を取り始める。思わぬ真実が明らかになっていき、見る者に解釈をゆだねる形で約90分の映画は終わる。

……ケイト・ブランシェットが制作総指揮やってたのか!

超絶美しい『キャロル』がとてもよかったけど、『TAR』の壊れっぷりも最高でした。たまたまどちらもレズビアン役で、そういうジェンダーフリーな雰囲気も好き。

『キャロル』については感想記事を以前書きました。よかったら。

『林檎とポラロイド』、記憶に残るユニークな作品です。

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