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桃の背に笑顔の花火うちあがる

普段まったく気にしていないのですが、じっくり考えてみると、私には人と思いを分かちあえる分野があまり多くないようです。美味しい料理を作る楽しさ、子育ての苦労や喜び、美しいメイクやファッション。そういったトピックに前のめりでついていけない。経験や興味がないからです。

私が興味を示すのは、猫、酒、バイク、須永朝彦(旧仮名遣いを貫き通し、2年前に没した耽美小説家)。猫はまだしも、あとの3つの話題に「わかる〜。いいよね〜」と頷いてくれる人がどれほどいようか。須永朝彦を稲垣足穂にすり替えたとしても、共感者の数はさほど変わるまい。

まあまあ孤独です。気にしてないけど。自分の心のうちを人に話さない癖が子どもの頃から染みついているので、ひとり遊びが上手になった。学校や職場など、長い時間接する人がいる場所では、ひたすら人間観察をしていました。うわべだけでも相手にそつなく合わせるために。

人見知りしないし、新しい環境にはわりとすぐ馴染むことができます。うわべのつきあいはめんどくさいけど、そこまで苦痛ではありません。中身まで伴う交友には当然慎重で、何年もかけて心を許したら、そこから生涯の友となる確率が高い。


絵日記ブログを13年ほどやっていました。1枚の絵と3行の日記。半年に一度ぐらいは、何かちょっとした「アニメキャラのうろ覚え描き」のようなイベントをやって、読者のみなさんと盛り上がっていました。そこからnoteに移ってきた。長い文章で日記やエッセイを書く人が大勢いる。読み専から書き手に変わり、ぽつぽつ思いを綴るようになった。

少しずつ交流の範囲が広がっていき、年単位で互いの心のうちを読み合う人の数が増えてきました。オンラインで顔を見て、話をする機会も増える。いよいよリアルで会う日には、すでに相手の家族構成や趣味嗜好まで把握している。私も把握されている。そこに「初めまして」の感情はなく、口から出るのは「やっと会えた!」

その喜びの花火があちこちで打ち上がった場所に、3日前、立ち会いました。総勢16人分の花火が、どれほど賑やかに弾けたことか。

私にとっても「やっと会えた!」人がたくさんいました。名前も顔もわかっている。過去にどんな葛藤があり、いまどのような悩みを抱えているのかも知っている。その人のnoteを何年も読んできた。何度もコメントを交わし合った。その相手がいま目の前に立っている。私を見て笑っている。

「思ったより大きい!」「モニターより痩せてる!」ハグしながらそんな感想を言い合って。

美味しい料理を作る楽しみをうまく味わえない私は、ますみさんがイベント実行チームの一員に我が名を加えてくれていたにも関わらず、エプロンを持参するという事前準備すら怠っていました。そして遠方から駆けつけた参加者と同じテンションで、テーブルに所狭しと並べられためずらしいスパイス料理に舌鼓を打ち、持ち寄られた複数のお酒を味わいながら笑っていました。

たった一度、ますみさんからのご用命で、台所に立ったときがあります。渡された桃を包丁で切り分ける作業。みなに背を向けて、ひとり包丁を握っていたあの時間。背中にたくさんの笑い声を浴びていたあの時間が、もしかしたらいちばん幸せだったかもしれません。

はっきりと、天から光の祝福がそそがれていたあの場所で、6個の桃の皮を黙々と剥いていた自分。背中で聞いた15人分の笑いさざめきは、海開きにはしゃぐ初夏の波のようでした。あのひとときを、忘れることはないでしょう。



チェーンナーさんのバトンリレー企画に参加します。

私からバトンを渡したい人は、こんちゃんです。ますみさんのイベントをきっかけに、いちばんよく話した相手のひとり。

こんちゃん、ルールの詳細はチェーンナーさんの上記noteを読んでみてくださいね。企画テーマは「人に喜んでもらったこと」、「してもらって嬉しかったこと」です。バトンは返すこともできるそう。無理のない範囲で、よろしくおねがいします。また飲もうね。

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