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【小説】連綿と続け No.33

西川に送ってもらい車を降りると、
そこには久しぶりに見る航の姿があった。

侑芽)航さん…

航は呆然としている。
離れた場所から見つめ合う2人。
そして航が近づいてくる。

航)久しぶり…

侑芽)航さん…あの…

すると西川が侑芽の隣に立った。

西川)お前、一ノ瀬さんのなんなん?

航)は?なんでお前に言わんにゃならんが。関係ないやろ

西川)今日は言わせてもらう

航)早う言えや

西川)何があったんか知らんけど、一ノ瀬さん、こがに痩せてしもて。たぶん睡眠もとれてないやちゃ?こんな俺やて、見たらわかるくらいや

航)……

西川)とても幸せそうには見えん。俺やったら…こんな顔はさせん。いつも笑うて欲しいし笑わせたいて思う。この人はお前には無理や!はっきり言う。もう一ノ瀬さんに関わらんでくれま!

いつも穏やかな西川が、
啖呵を切るように思いをぶつける。
それに対して航は顔色1つかえず

航)言いたいことはそんだけけ

西川)そうやけど……

航)それを決めるがは侑芽や。とりあえず、2人にしてくれ

そう返すと
西川は侑芽の顔を覗き込み

西川)何かあったら連絡して?

そう声をかけ去って行った。
2人きりになった航と侑芽。

侑芽)航さん。部屋…上がってください

侑芽は航を部屋にあげようとする。
しかし航は自分の車を指して

航)乗って?

助手席のドアを開け侑芽を乗せた。
あの時以来の航の車はいつもと同じ香りがしたが、
心落ち着かない侑芽。

もしかすると
この車に乗るのは最後なのでは

そう思いながら黙っていた。
航の自宅に着くと
ソファーに並んで座る。
だが航はそこからおりてひざまづいた。

航)まずは…ほんまにすまんかった。

頭を下げて謝罪する航。
侑芽はその姿に狼狽えた。

侑芽)やめてください。謝るのは私の方ですよ

航)侑芽は悪ない。悪いがは俺ちゃ。侑芽の気持ち考えもせんで、酷いこと言うて、1人にさせてしもて…ほんまにかんにん…

侑芽)いえ…私こそ…ごめんなさい…

航)仕事の事も、変な言い方してしもて…

侑芽)いえ、それは大丈夫です

航)大丈夫ですって言うてる時は大丈夫やないやろ?

侑芽)そんなことは…本当に大丈夫なので

航)たとえ侑芽が大丈夫でも俺は大丈夫やない

侑芽)……

航)このまま別れるんは嫌や

侑芽)……!

航)他人に何言われても構わん。けど侑芽が言われるんは嫌や。やさかい外で会わんようにするだけでええなら、そんでええ。とにかく…一緒におりたい

航は侑芽の手を握った。
そして必死にこう願った。

航)離れんでくれ。頼む…

侑芽は航の話を聞きながら涙を流し
ただ頷いている。

そうしているうちにわかったのは、
心から笑ったり泣いたりできるのは、
やはり"ここ“なのだ
という事だった。

そのまま航に抱き寄せられ、
その胸で堪えていた涙を流した。

散々泣いた後、
不眠だったことが嘘のように
そのまま眠ってしまった。

そんな侑芽を抱き抱えてベッドに連れてゆき、
髪を撫でながら隣に寝そべった航。

その寝顔を見つめながら、
そっと口付けた。

航)おかえり…

こうして再び歩み寄り、
また並んで歩き出した2人。

侑芽は航と一緒に居ることで、
食事や睡眠もとれるようになり、
健康的な姿に戻っていった。

春子から色々な話を聞き、
同期の高岡への見方も大きく変わった。
職場で出くわした彼女を呼び止めて

侑芽)高岡さん!なんか…心配かけちゃったみたいでごめん

すると高岡は口を尖らせながらそっぽを向いた。

高岡)は?別に心配なんてしてないし!

侑芽)だって春ちゃんに連絡してくれたんでしょ?

高岡)それは…あんたに何かあったら、絶対あの人に文句言われるでしょ?それに、あんたが辞めたらアタシの仕事が増えちゃうでしょ!?それだけだから!

心配していた事を認めない高岡の事が、
どうしようもなく愛おしくなった侑芽は、
仏頂面の高岡に抱きついた。

侑芽)高岡さん大好き!ありがとうね!

高岡)は!?ちょっとやめてよ!アタシはあんたみたいな女、大嫌いだから!勘違いしないでよ!

そう言って侑芽を振り払って歩き出した。
だが高岡もまた、
ほっとしたように笑っていた。

そしてその後、
侑芽が久しぶりに井波に訪れると、
礼子や太郎、高木のおばちゃんが、
お菓子やら漬け物やらを渡してくる。

この人達も陰ながら
2人を心配していたらしい。

高木は八日町通りの真ん中で仁王立ちし、
仁王様のような顔でこう叫んだ。

高木)この街で、勝手に噂話する奴は許さん!そんなやっちゃ見つけ次第、この高木のおばちゃんがシバいたる!

そう言って
自分の胸をバシッと叩き豪快に笑った。

高木は現市長の縁談を取りまとめた人物でもあり、
市長に直談判までして侑芽の件を丸くおさめた。

こうして航と侑芽は
正々堂々と外でも会えるようになり、
離しかけたその手をしっかりと繋ぎなおした。

航は少し照れながら
久々に侑芽をデートに誘う。

航)次の休み、どっか出かけよ?

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