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【小説】連綿と続け(50話まで無料)

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2024年4月の記事一覧

【小説】連綿と続け No.37

【小説】連綿と続け No.37

かつて正也の元で修行していた
山崎洋平が皆藤家に顔を出していた。

航の先輩であり師匠とも言うべき彼と、
侑芽は初めて会った。

侑芽)こんにちは!

歌子)ちょうど今、侑芽ちゃんの話をしとったとこやちゃ〜

正也)もう仕事終わったがけ?

侑芽)はい!今日はもう終わりなんです、ってあれ?お客様いらしてたんですね!失礼しました!そしたら私はこれで……

歌子)ええのよ!この人はね、昔うちで修行しと

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【小説】連綿と続け No.38

【小説】連綿と続け No.38

侑芽が頻繁に泊まりにくるようになり、
徐々に航の家に侑芽の物が増えていく。

洗面台には歯ブラシが2本並び、
茶碗やコップ、部屋着や化粧品など、
いつでも泊まれるようになっていた。

航はそれが嬉しくて、
侑芽が居ない時でも
その存在を感じられるから寂しくなる事が減り、
以前よりもメンタルが安定していることに
自分でも気づいている。

侑芽も段々と居心地が良くなり、
当たり前のようにこの空間に溶け

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【小説】連綿と続け No.39

【小説】連綿と続け No.39

糸子から将来の事を聞かれ、固まる2人。

航・侑芽)……!?

糸子)あれ?まだやった?けど、いずれはそうなるやろ?

侑芽)えっと……

侑芽は戸惑いながら航を見る。
航はあたふたしながら

航)そ、そがなこと、まだ話しとらんちゃ!何を言い出すのちゃ!

糸子)けどこの前、歌ちゃんが「航にようやくええ人ができたさかい、こんで蓬莱屋も安泰や」て言うとったよ?

航)はぁ!?なんでそんな勝手なこと…

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【小説】連綿と続け No.40

【小説】連綿と続け No.40

純喫茶「あいの風」が
夜のスナック営業に切り替わる時間になり、
店主の礼子が店を開けようと外に出ると、
店の前に亡霊のように立っている人物がいる。
それは観光協会の西川であった。

礼子)え!?あんた……どうしたが!?

いつも爽やかな彼が無表情で立っているから、
礼子は驚きつつ中に通した。

西川)なんや無性に酒が飲みたなって……

ビールを注文し、それを一気に空けてしまった。
礼子はそんな彼を

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【小説】連綿と続け No.41

【小説】連綿と続け No.41

『高瀬遺跡で蛍の写真を撮ってから向かいます』

今日は航の家に泊まる約束をしている。
侑芽は航にLINEを送り、
高瀬遺跡に引き返した。

到着すると夜にも関わらず
蛍鑑賞をしに来ている人々がちらほらいる。

そんな光景を眺めていると、
先に着いていた西川が手を振っている。

侑芽)西川さん!お疲れのところすいません

西川)なん。疲れとらんよ。それにしても結構見に来とる人おるね!

侑芽)有名な

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【小説】連綿と続け No.42

【小説】連綿と続け No.42

航と西川が口論になり、
互いが拳をふり挙げようとしたその時、
大声で止めに入ったのは春子であった。

「そこで何やってんの!!」

侑芽)春ちゃん!?

春子)ちょっとな〜に〜?侑芽どうした〜?

春子は侑芽に駆け寄って行き、
まるで幼な子をあやす様に侑芽の頭を撫でから
航と西川を睨みつけた。

春子)ちょっとあんた達!さっきからうるさいんだよ!侑芽に何してくれたわけ?それにこっちは、せっかくのデ

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【小説】連綿と続け No.43

【小説】連綿と続け No.43

侑芽の甘い囁きに
吸い込まれるようにして覆い被さった航は、
「誰にも取られたくない」という気持ちを
ぶつけるように、荒々しくその求めに応じた。

土砂降りの雨音が
全ての音をかき消してしまうから、
誰に気を使う必要もない。

ここは2人だけの世界。
囁き合い、何度も互いの名を呼ぶ。

航)侑芽、こっち向いて?

侑芽)航さん、もっと……

求愛の果てに
横になってウトウトしている侑芽の鼻に
自分の

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【小説】連綿と続け No.44

【小説】連綿と続け No.44

マルシェの会場となる井波文化会館に着くと、
西川が待っていた。

侑芽)お待たせしました!

西川)俺も着いたばっかりや。先に中を見ようけ

侑芽)はい!

イベント当日は、
晴天なら屋外に店が立ち並び、
フリーマーケットの様な開放的なスペースで
マルシェが開催される。

雨天の場合はホールの中で
開催する事になっている。

今日は雨天になった場合を想定し、
ホール内での配置を念密に打ち合わせする

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【小説】連綿と続け No.45

【小説】連綿と続け No.45

その頃、
航は五箇山の秋祭りで使われる
獅子頭の修復作業を行っていた。

集中し、正也と確認をしながら細かい部分を補修し、
目の前の仕事と向き合っている。

あらためて紹介するが、
皆藤家がある八日町通りは、
瑞泉寺の表参道である。

この瑞泉寺の裏山は八乙女山という。
山の向こう側には庄川が流れ、
その上流を辿っていくと五箇山と呼ばれる山深い地域がある。

三角屋根の合掌造りで知られ、
山を隔て

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【小説】連綿と続け No.46

【小説】連綿と続け No.46

いつも通りの侑芽に、
騒ついていた心が穏やかになる航は、
彼女を迎え入れて、
すぐにギュッと抱きしめた。

侑芽はその胸に埋もれながら抱きしめ返す。
そして体を離した後、
持ってきた保冷バッグを持ち上げ

侑芽)今日、早く終わったので夕飯作ってきました!

航)おぉ。いつもありがと

侑芽はキッチンに立ち、
慣れた手つきで料理を皿に盛りつける。

最近はこうして
航に手料理を振る舞う機会が増えた。

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【小説】連綿と続け No.47

【小説】連綿と続け No.47

会議室に通された侑芽は
黒岩と共に席に着き、
険しい表情をした副市長から問われる。

副市長)君が観光推進課の一ノ瀬さん?

副市長は50代半ばの中年男性である。
普段はまず会う事もない副市長に
萎縮してしまう侑芽。

侑芽)はい。一ノ瀬侑芽と申します。

副市長)ここに呼ばれた理由はわかっとる?

侑芽)いえ……

すると副市長の秘書が
パソコンを傾けて侑芽に見せてくる。
画面を覗くと市民を名乗

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【小説】連綿と続け No.48

【小説】連綿と続け No.48

航は侑芽からの連絡に
事態を知る。

メッセージのやり取りで、
航はすぐに誰の仕業か検討がついた。

航)アイツや……

その瞬間、
青筋を立てるほど怒り心頭になり、
拳を床に叩きつけた。

正也)おい、何やっとんが。怪我するぞ

航)これ終わったら、ちょっこし出てくる

正也)なんや急に……まぁ、きりもええし、たまにはリフレッシュも必要やちゃ!今日はもう上がれま

航は昼食も食べず自宅に戻り、

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【小説】連綿と続け No.49

【小説】連綿と続け No.49

侑芽は城端のアパートに戻った。
航が役所まで迎えに来る事になっていたが、
とても会う気にはなれない。

部屋に入ると同時に
スマホがブルブルと鳴っている。
航からの着信であった。

何度もかけてくるから、
思い切って電話にでる。

侑芽)はい……

航)やっとでた。今どこにおるが?役所で待っとれ言うたがに

焦っている様子の航。
侑芽はか細い声で答える。

侑芽)ごめんなさい……

航)なんで泣い

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【小説】連綿と続け No.50

【小説】連綿と続け No.50

キスを避けた侑芽。
航は呆然とした。

侑芽)少し……考えさせてください

航)考えるて……何を?

侑芽)これからのこと。仕事も……航さんとの事も……

航)俺との事て何を?まさか、別れるて言うんか?昔のこと……そんな気になるんか?

侑芽は黙ったまま何も答えない。

航)俺は嫌や。こんな時にこんな事で。侑芽がしんどい時に1人にはできんちゃ

強引に抱き寄せる航。
ずっと人に無関心だった男が、

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