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2022 年間ベストアルバム 30

 2022年の30枚。これが噂の厄年か!っていう一年だった。各作品へのアクセスはBandcampへのリンクを画像に貼り付けてあります。


30. Henry Keen - Freedom in Movement

 ジャズやヒップホップ、デトロイトのハウスの色が強いブロークンビーツで、アルバム全体に暖かくポジティブなエネルギーが満ちている。鳴っている音もごちゃごちゃしておらずシンプルで風通しが良い。もっとデトロイトっぽい粘着質な感じがあっても良いが、このスマートさがUKのハウスって感じでもある。

29. Ecko Bazz - Mmaso

 インダストリアルビートなトラップに乗ったルガンダ語のラップが力強く暴力的。単語もフレーズも何一つ分からないのもあって、言葉も音としか認識できないので文字通り音の洪水となり終始圧倒される。

28. Beyoncé - Renaissance

 新譜がハウスという噂を目にして聞いてみた。そんなにハウスじゃなかった…けど、ハウスも含めたブラックミュージックのコンピレーションみたいで単純に聞いていて楽しい。

27. labile mundi - labile mundi

 ほんのりインダストリアルな質感の、人のいない廃墟となった教会から聞こえてきそうなドローン。
今年はしんどいことがたくさんあって、仕事終わりに人の少ない公園をよく走った。走り終えて車に戻ってからこれを聞く。夜と同化しそうなくらい無になれる。

26. DJ ICHE - Nai Yetu Mixtape

 ケニアのDJによるミックステープ。地元のシーンを切り取ったという、ドリルやグライム、Gengetoneがひたすら続くミックス。英語やフランス語、スワヒリ語にローカルな言語など、何を言っているのかさっぱり分からないが、めちゃくちゃ格好良くて一年通してよく聞いた。

25. Fwea-Go Jit - 2 La Jit

 R&Bなんかを大量にサンプリング、カットアップ&コラージュしてラップを乗せたクラブミュージック。
 名前にもタイトルにもJitとあるけど、Jookというジャージークラブ由来のジャンルからさらに派生してるSoFloJookというものらしい。ググってもダンス動画とかしか出てこないので、詳しいことは詳しい人に任せた。

24. mBtheLight - How To Dress Well In The Dark

 シンガーソングライターによるヒップホップ、R&B、ソウル。トラックがシンプルなうえ、一曲ごとにインタールード的な曲が挟まれることで即興を聞いているかのような感覚。12曲収録で30分足らずのとても短いアルバムだが、MoodymannやAndresらと組んだサウンドが格好悪いはずもない。

23. Shakali - Aurinkopari

 東南アジア地域を思わせる鐘や鉄琴の音色に、鳥のさえずりなども聞こえてくるニューエイジ。深い自己の探求に誘われそうではあるが、その辺別に興味はないのでとりあえず音色が気持ち良くて聞いてる。

22. Pimpon - Pozdrawiam

 パーカッションとエレクトロニクスで構成されたエクスペリメンタルミュージック。このランキングの中では一番ポップなアルバム。
 フィールドレコーディングとプチプチとしたノイズから始まるが、基本的にパーカッション祭り。楽しい。イヤホンやヘッドホンで聞くよりも車で聞く方がしっくりくる。

21. L​ä​uten der Seele - L​ä​uten der Seele

 往年のヴィジュアル系バンドみたいな名前だ。1950年代のドイツを中心に流行したハイマットフィルム(大戦後の荒廃から逃避するような、愛や道徳にあふれた映画)からサンプリングされたサウンドコラージュ作品で、レトロで牧歌的な空気が満ちたクラシカルなアンビエントとなっている。特に山場もなく、あまりに平和過ぎて不気味なのが魅力的。よくあるでしょ、みんな善人過ぎて逆に怖い的な。

20. Fort Romeau - Beings of Light

 一曲目がレイヴ感のある大箱系ダンスミュージックで面を食らうが、二曲目はさっきのが夢だったかのような暗めのテックハウス。それ以降も暗いミニマルテクノ、アンビエントが最後まで続く。以前はストレートなハウスばかりだったはずだが随分雰囲気が変わった。
 アルバムを聞き終えて一曲目に戻ると、不思議と物悲しいトラックに聴こえてくる。

19. memotone - Clever Dog

 ジャズやフュージョン、管楽器を使用したクラシック的な要素に、第四世界的な異国情緒(オリエンタルな香り)を吹き込んだアンビエント的な何か。リラックスできるかと言うと少し無理そうな、若干の不安感が終始つきまとうメディテイティブなアルバム。

18. Alexi Baris - Support Surfaces

 物音と電子音とフィールドレコーディングが絶妙にブレンドされ、寝起きのまどろみの時間のよう。アンビエントといえばアンビエントだけど、結構せわしなく音が蠢いている。アートワークの先入観から無機質な電子音を想像していたが、じっくり聞けば聞くほどに有機的で緻密。湿度が高め。

17. rRoxymore - Perpetual Now

 元々パーカッシブな民族音楽的要素を散りばめたトラックを作っていたが、本作ではポップさが後退しシンプルに。特に一曲目は、往時のCadenzaからリリースされていそうなオーガニックなミニマルテクノとなっているし、三曲目も明るさのあるハードなテクノとなるなど、よりディープに音に没頭できそうなクラブミュージックとなっている。

16. Shy One - Carnival Lost Tapes / 5enses

 「五感を呼び覚ます」をテーマとする404 Erosのミックステープシリーズ『5enses』は、今年さらにカーニバルを体現するというサブテーマでリリースを重ねている。
 レゲエ、ダンスホールを中心に、80~90年代のクラシックなA面と00年代以降のB面というミックスは、時代は違えど開放感と多幸感に包まれており、そんなゆるい空気は暑い夏によく似合う。カセットには写真(視覚)、お香やスパイス(嗅覚)、ミックスに合うレシピ(味覚)が同封されており、それらを愛でる(触覚)ことで五感を刺激する。フィジカルとしての満足感が高い。

15. Leon Vynehall - fabric presents Leon Vynehall

 ストーリー性を持たせドラマチックに仕立てるのが本当にうまい。ゆったりとスタートし、ハウスやクラシックを挟んでヒップホップやダンスホール、テクノで上げていく。終盤のハイライトでは自身のトラックを使ってくるのがまた憎い。縦横無尽にジャンルを飛び越える、とてもバラエティに富んだミックス。

14. Shackleton - The Majestic Yes

 パーカッションによるポリリズムやダブサウンドに呪術的なメロディと、彼の独創性は失われることはない。しかしいつもの電子トライバルとは違い、サバールというセネガルのドラムを使用していることで乾いた音像による土着感が強くなっている。

13. crys cole - A Piece Of Work

 電気的な音や楽器の音、世界の都市で採集された音を組み換えたという本作は、30分弱の一曲のみという構成で、数分おきにゆっくりと表情を変える。いわゆるメロディのある曲ではないが、大きさも距離感も異なる音の移り変わりが架空の都市の喧騒のようにも聞こえ、つい耳を傾けてしまう。

12. KMRU - Temporary Stored

 植民地支配によってアフリカの多くの文化財などがヨーロッパに持ち去られたが、音もその一つであり、本作ではそこに焦点があてられている。
 ベルギーの王立中央アフリカ博物館のアーカイブを基に作られたアンビエントは、素材のインパクトはもちろん、それが今目の前にあるかのような立体感を時間を超越して届けてくれる。

11. Turbo Sonidero - Lowrider Kumbias

 とにかく楽しいクンビア。ヒップホップ的にサンプリングを多用しているが、普段あまり聞かないジャンルとあって、元ネタにしろその使い方にしろ新鮮で陽気で活気がありソウルフル。車を運転しながら聞いていもいいし、夜お酒を飲みながら聞くのも良い。三曲目にやられた。

10. Valerio Tricoli - Say Goodbye To The Wind

 パチパチとしたノイズやASMR的な物音、テープ操作により繋げられ、歪められた音は不快感の一歩手前。本作は過去の作品よりも穏やかさ?が感じられるが、それでも緊張感が張り詰めていてヒリヒリする。

9. Kode9 - Escapology

 宇宙を舞台にした作品のサウンドトラックでありながら、かなり低音の効いたベースミュージックとなっている。けれどダンスミュージックかと言われるとそうでもなくて、曲中でロケットの発射シーケンスが始まったときは唖然とした。プレステ3のソフトを模したパッケージにロゴマークなども含め、遊び心も感じられるとても楽しめるアルバムだ。

8. Jay Sound - H O M E

 L O V E …。タイトル通りに郷愁に駆られるような切なさがつまっている。キーボーディストであるため鍵盤の音色が美しいのはもちろんだが、パーカッションも耳を惹く。
 紹介文にあるようにセオ・パリッシュやデラーノ・スミスらの影響は濃く、それでいてオリジナリティもあるので最高に大好物。

7. Jordan GCZ - My Brain's Brain

 Juju & Jordashの片割れがTerrence Dixonのレーベルからリリースときたら、宇宙!ジャズ!デトロイト!ハウス!としか言うしかない。タイトルからも推測できるように内省的でありながら、即興のジャズとアンビエント、空間を漂うようなシンセ、疾走感のあるハウスが果てしない宇宙への旅を想起させる。

6. Coby Sey - Conduit

 スポークンワードとラップの中間を漂うボーカルに、トラックもグライムやテクノ、ジャズのどれでもあるし、どれでもない。アルバム全体から不安や息苦しさが見て取れるが、それらを打破しようという強いエネルギーを感じることもできる。

5. Wojciech Rusin - Syphon

 過去の音楽をインスピレーションとし未来に作曲されたら、というテーマらしく前作よりも室内楽要素は控えめ。声楽、室内楽、フィールドレコーディング、エレクトロニクスの組み合わせは前作と同じ方向性だなと思ったら三部作の第二弾だとか。
 彼のサイトに行くと、自ら設計し3Dプリンタで出力した数々のカラフルな自作楽器を見ることができる。

4. Valentina Magaletti - Rotta

 かなりストイックでミニマル。何て言うか、多くのパーカッションのソロプレイはカチッとした端正さが気持ち良さに繋がっているんだけど、彼女の場合は空間に響く音には余白が感じられるのに、どこか儀式的、呪術的なうねりのようなものがある。Eli Keszlerはテクノっぽくて彼女はハウスっぽい的な。知らんけど。

3. Hi Tech - Hi Tech

 BPMの割にメロウでしっとりしてるし、クラブ、ダンスミュージックのはずなのに、多くの曲が2分足らずというのが面白いし最高。

2. O. G. JIGG - Dominion Window

 序盤数曲のダンジョンシンセからじわじわと中世、異世界を舞台にしたフォークミュージックに変貌していき、気が付いたら生け贄が捧げられているだろう儀式に参加させられている。
 19位のmemotoneの別名義であり、Batuのアルバムへの楽曲提供や複数のアルバムリリースなど、一年通して非常に楽しませてもらった。

1. Omar S - Can't Change

 デリック・メイの件から端を発する、人としてどうなん?な記事を目にしてうんざり。既に手元にあったアルバムを聞かないわけにもいかないし、聞いたら聞いたで超好みで複雑な気分。アナログを持っていながら、Spotifyで今年一番聞いたくらいにはナンバーワン。


おわりに

 何気なく開いたtwitterで見かけた、Boomkatのこんなツイート。

 “レコードショップの意義”などの話の中で、個人のツイートやネット上のレビューのほとんどにはbandcampのリンクが貼られていること。アーティストの為なのは理解できると同時に、そのアーティストを発掘・紹介するために写真を撮ってレビューを書いているショップは?というくだりが。
 確かに思い返すと、ショップで知った音楽を購入orストリーミングで聞いてツイートしたことは何度もあるけど、そのリンク先はほとんどbandcampだったし、実際にこの記事でもそう。というわけで最後に今年レコードやCD、カセットを購入する際に利用したショップを書いて、今年の年間ベストを終わりにしようと思います。どうもありがとうございました。

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