【映画感想】『怪物』 ★★★★☆ 4.1点

 ある小学校で起こった教師による体罰疑惑を、3部構成で3人の登場人物の視点からそれぞれに描く本作。第1部の時点では多くが謎に包まれていた事件の真相が、第2部、第3部と進行していくに連れて徐々に明らかになっていき、かつ、物語に新たな視点が追加されるごとに各々の登場人物の印象がドラマチックに変化していくスリリングな作品だ。手の内の明かし方が非常に鮮やかで、かつ、編集もテンポが良いため、最後まで集中を切らさずに没頭して鑑賞ができるサスペンスとなっている。


 前述の通り、本作は3部構成になっており、各部ごとに中心となる登場人物が遷移していくのだが、これにより、3部全てで同じ出来事を描いているにも関わらず、各部ごとに全く異なるジャンルの作品のような仕上がりとなっている。第1部はシングルマザーの早織の視点から物語が描かれることでいじめ問題が、第2部は早織の息子の湊のクラスの担任・道敏の視点から物語が描かれることで学校の隠蔽体質が、そして、第3部は……といった具合である。

 この構成がゆえに前述の通り、各部によって同じ登場人物でもその印象は違ったものに見えてくるのだが、本作の良い点は、どの登場人物にも当人からすれば真っ当な理があり、それでも各人がそれぞれにずるさや歪みを抱えていることがフェアに描かれている点である。

 世の中のトラブルは一人の極悪人によってではなく、各人が持つちょっとしたずるさや歪みが持ち寄られることによって引き起こされるという本作のプロットは、私達が無意識下に押しやっている差別意識や視野狭窄を的確にすくい上げており、チクチクと心が突き刺されるようで非常に見応えがある。


 上述の通り、サスペンスとして非常に良い仕上がりの本作なのだが、最後の第3部については同性愛がテーマとなっているため、テーマの重み的に最終的には第3部のテーマで作品全体が覆い尽くされる感がある。

 この第3部における2人の少年が惹かれ合い、そして苦悩する描写にはかなり真に迫るものがあり、かつ、第2部までで明かされていなかった不可解な点もこの第3部によって鮮やかに解き明かされるため、作品全体のエッセンスとして第3部は非常に優れているのだが、一方で、テーマ的な観点から考えると、この第3部をエンターテインメントとして安易に消費すべきではないのも事実。

 同性愛に対する社会の無言の圧力や偏見を繊細に浮かび上がらせているという点で優れた部分もある一方で、最終的に本作で提示される結末が全く前向きなものではないのは少し引っかかるところだ。サスペンス作品としてはおおいに称賛に値する作品である一方で、クィア映画としては「これでいいのかな……?」とも思ってしまう1作と感じる。

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