2022年8月公開新作映画感想まとめ

ONE PIECE FILM RED

 人気アニメ『ONE PIECE』の劇場版最新作。海賊王を目指す少年・ルフィ率いる麦わら海賊団と、自身が統治する新世界の設立を目論む少女・ウタとの戦いを描く。本作の肝は本作オリジナルキャラクターのウタ。世界で最も愛される歌手であり、歌で人々を夢の世界に引きずり込んだり、攻撃したりすることができる、とにかく歌に力点が置かれたキャラだが、本作ではこのウタの声優を名塚佳織と歌唱担当のAdoのダブルキャストで担当しており、これが非常によく機能している。ウタのキャラクターの肝は幼児的な純真さとこれに不相応な暴力性が同居している点だが、ここにAdoの青さがありつつもパンチの強い歌声が非常にマッチしている。特に、ウタは歌で戦うキャラクターであり、歌の力強さがそのまま攻撃力にリンクする演出になっているため、Adoのパワフルな歌声は実に説得力がある。また、物語が進むにつれ、ウタが狂気にかられて歌うシーンが増えていくが、これもAdoの強烈なシャウトがよく合っており、Adoを抜擢したのは大正解だったと言えるだろう。また、歌唱シーン以外の大部分を担う名塚佳織も、幼さと狂気が併存する特異なキャラクターをベテランの演技で、納得力のあるものに仕上げている。2人のキャストにより、ウタというキャラクターがしっかりと立てられているので、本作で最も描きたかったであろうポイントはしっかりと仕上がっていると言える。


 ストーリー面に関しては一見派手で大スケールに思われるものの、よく分解してみると、核となる事件は非常にコンパクトで、そこに回想シーンを次々に付け足していくという歪な構成になっている。普通だったら途中でダレそうなものだが、ストーリーテリングのテンポが良く、かつ、回想シーンが多いのはONE PIECEに限って言えば、作品の味のようなものなので、それほど気にならない印象に仕上がっている。ただ、ウタを通して物語前半で提起される「あらゆる武力を無力化できる圧倒的な存在が世界を統治できれば、完璧な平和が訪れるのでは?」という問いかけに対して、作品内で何らかの回答が示されることなく、作品の論点がウタが持つ能力の危険性にシフトしていってしまっている点は残念なところ。ただ、ONE PIECEのメインキャラクターは、そのほとんどがテロリストか脛に傷を持つ公僕ばかりなので、この問いに対して真正面からNOを突きつけられる立場のキャラクターがおらず、そもそもが噛み合わせの悪いテーマだったとも言える。


ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ

 人気ゲーム「ソニック」シリーズの映画化第2作。本作はソニックと敵役のドクター・ロボトニックのマクガフィンの争奪戦と、新キャラクター・ナックルズとソニックの敵対からの結束という2本柱からなる非常にオーソドックスな物語になっている。地球から遠く離れた星で生まれたソニックがなぜ地球にやってきたのかといった込み入った説明は前作で済ませているため、本作ではより物語が単純明快な冒険活劇にフォーカスされている。


 実写キャストたちからなるハワイでの結婚式のパートだけトーンが明らかに違って浮いていたり、ドクター・ロボトニックを演じるジム・キャリーのハイテンション演技に妙に尺を割いていたりと、一歩間違えると作品が空中分解しかねない珍妙な部分が散見される本作。しかし、ソニック・ナックルズ・テイルスの3人のチームタッグや、ドクター・ロボトニックによる派手な戦闘シーンなど、この題材において抑えてほしい点は、取りこぼしなくしっかり抑えられているため、一定の満足感は保証されている。


 本作はストーリーよりも、キャラクターたちの可愛らしさやキャラクター同士の軽妙なやり取りで引っ張る作品となっている。青臭くお調子者だが気の良いソニック、頭は悪いが真面目で天然なナックルズ、臆病だが優しく頭の良いテイルス。この3人が三者三様の可愛らしさを持っており、彼らが噛み合っているような噛み合っていないようなやり取りをすればするほど、作品の面白さが上がっていく。そのため、3人が結束するクライマックスでしっかり作品のテンションも最高潮に達しており、この点は夏休みファミリー映画として大変良い。難点をあげるとすると、ソニックを敵対視していたナックルズが、彼と手を組むまでの物語上の描写が若干雑なので、このポイントがもう少し丁寧であれば、ラストバトルが更に盛り上がっただろうと思われる。

 
 前作に引き続き、今作も派手でポップなアクションシーンが多く盛り込まれており楽しい作品に仕上がっている一方で、ソニックが超高速で動けることを活かしたシーンが少なかったのは少し残念なところ。ただ一方で、全力でアニメやゲームっぽい方向に振り切ったラストの巨大ロボットとのバトルは、ゲーム原作であることを最大限活かしており、こういった味付けは高く評価できる点であろう。


スワンソング

 一人のゲイの男性による、ある意味で究極の終活映画。本作はヘアメイクドレッサーを引退し老人ホームで暮らす老人パットが、旧友のリタに遺言で死化粧を依頼されたことをきっかけに、若き日を過ごした街サンダスキーに赴く様が描かれ、全編のほぼ全てがパットによるサンダスキーの街ブラである。ただこの街ブラには2つの要素が内包されており、一つはパットが抱える過去のわだかまりの精算、そして、もう一つがパットが持つゲイコミュニティやサンダスキーへの認識のアップデートである。


 若き日に通ったゲイバーが閉店することや、かつて愛用したヘアクリームが生産中止となっていることなど、自身が若かった頃からゲイコミュニティもファッション業界も変化していっていることを、サンダスキーの若者たちに突きつけられ、そのたびに面食らいながらも徐々にパットは一つずつ飲み込んでいく。このようにパットの認識のアップデートは、若者たちとの対話によってなされていく。


 一方で、かつてのお得意様にして友人であるリタとの確執や、急逝した恋人デイビッドへの執着の解消は、どれも故人の幻影との対話によってなされていく。これはパットの中では本当はすでに結論の出ていた問題に、彼が意識的に折り合いをつけていく作業の暗喩であると思われる。未来への理解は他者との対話によってなされる一方で、過去への決着は自己の内省によってなされるのである。


 パットがサンダスキーでの旅を通して、捨て去っていたゲイでヘアドレッサーである自分を取り戻していく過程を、彼のファッションを通して視覚的に表現している点が映画的で非常に面白い。最初はよれよれのパーカーにスウェットだった彼が、指に1つ1つ指輪をつけ、鮮やかスーツをまとい、徐々にきらびやかな装いへ変貌していく。そして、彼の人生の最後の課題であったリタとのわだかまりが溶けた時、彼のファッションも同時に完成することを示唆したラストカットは実に粋で素晴らしい。


NOPE/ノープ

 ホラー映画かと思ったら、モンスターパニックかと思ったら、一発逆転サクセスストーリーかと思ったら、最後は怪獣映画でした、という非常に独特な一本。映画のジャンルを作中でころころと変遷させることで、観客を飽きさせないようになっており面白い。


 序盤は主人公たちが相対することとなる空飛ぶ円盤をチラ見せしつつも、なかなかはっきりとは見せないホラー映画らしい演出がなされており、ここの焦らしがとても心地よい。しかし、この手のジャンル映画において、あまりにも焦らされすぎると観客の興味が失せてしまいかねない。かといって、怪異の正体がはっきりしてしまうとそれはそれで白けてしまう。本作ではこの問題を、作品のジャンルを謎の飛行物体から身を隠すホラー映画から、仲間たちと作戦を練って謎の飛行物体を映像に収めるというアクション映画に大きく物語を展開させ、観客の目先を変えることで解決している。実にスマートな手法である。このようにジャンルが変わった以上、今度は飛行物体が画面にしっかり映らないと盛り上がらないため、後半からはガンガン出し惜しみなく、飛行物体、正しくは飛行生物をスクリーン上に登場させる。この切り替えの思い切りの良さが実に良い。また、この飛行生物のクリーチャーデザインが、生物然としすぎていないのもセンスがよい。口などの構造はなんとなく分かるものの、全体的にはどの部位がなんなのかさっぱり分からないデザインのおかげで、最後まで飛行生物の神秘性が損なわれていない。


 脚本的には、クライマックスで飛行生物を動画に収めるために、主人公であるOJが馬を駆って飛行生物と対峙する展開を通して、物語の序盤で語られる映画の起源が騎乗する黒人男性の映像であるという話に、回り回って還ってくる構成が美しい。痛快な人生逆転ストーリーである。ただ、ラストで主人公の妹エメラルドによって撮影される決定的な飛行生物の証拠写真には馬に乗った兄の姿が一切写っていない点は、この物語構造からすると若干モヤモヤするところ。飛行生物を撮影した映像フィルムを持って、兄妹で馬で飛行生物から逃げる展開にした方がまとまりが良かった気がしないではない。


DC がんばれ!スーパーペット

 スーパーパワーを手に入れた動物たちが地球を守るために活躍する姿を描くアニメ作品。「仲間との出会い→衝突→挫折→再起と結束→勝利」というハリウッド映画の黄金則をしっかりと踏んで、最後までダレることなく駆け抜ける王道な良作。要所要所で挟まるコミカルな描写で楽しませつつ、意外とヒーロー映画らしいケレン味のある演出もしっかりと盛り込まれており、終盤は主人公の動物たちの友情にホロリとさせられる。奇抜さや予想を裏切るような展開はないが、抑えるべき王道ポイントを外さずにしっかりやってくれるため、良い意味で俗に言う「こういうのでいいんだよ、こういうので」という作品に仕上がっている。

 脚本がよく出来ているうえに、主要キャラのキャラ造形も良く、それぞれが非常にキャラが立っているので、キャラクターの面白さでもストーリーがグイグイと牽引されている。個人的には犬のエースと敵役のモルモット・ルルが特にお気に入り。主人公チームが実にまとまりが良いのだが、これは偏に、口は悪いが情に厚いという主要キャラの中で最も複雑な内面を持つエースのキャラクターが、しっかりと説得力のあるものに仕上がっているためであろう。そして、ルルの強キャラだがどこか抜けているキャラクターのおかげで、終盤のストーリーが緊張感がありつつも、コミカルでもあるとてもバランスの良いものになっている。これ以外のキャラクターもよく考えられたストーリー上の配置がされており、どのキャラにも愛着が湧く作りになっていて素晴らしい。


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