美術館レポ#1「アーティゾン美術館 - ここへきてやむに止まれぬサンサシオン」と家長むぎの話

サンサシオンとはフランス語で感覚を意味する。

言葉の響きが美しかった。ここへきてやむに止まれぬサンサシオン。この言葉だけで満足させるような、素晴らしい展示だということがわかるような、パワーを持っている。

はっきり言ってその言葉に満足しすぎて、行く気が起きなかった。たまたま見ていたVTuberがこの美術館を勧めていなかったら行っていなかったと思う。まあそんな訳で少しだけVTuberの話から。

家長むぎ
にじさんじ所属のVTuber。多分割とVTuberの中でも古株だけど若い。美術や哲学、現代小説に詳しい。かしこい。

元々は切り抜きで人生についての話に共感したのが知ったきっかけ。見た目で子供っぽさを感じていたがとても頭が良いのだなと思って色々と見始めた。美術、哲学、読書と合致する趣味が多かったのもポイント。

そんな彼女が初めての美術館ガイドなる配信をしていた。共感する部分も、なるほどなと思うところも、意見が反するところもありつつ、その中で彼女が初心者向けのおすすめ美術館として挙げていた中にアーティゾン美術館があった。

【美術館】どこ行く?楽しみ方は?おすすめは?全部答えます!【にじさんじ/家長むぎ】

(美術館好きな人でも参考になるので是非)

私は人よりは美術館に行く質で、都内の大型美術館には大概行ったような気がするがアーティゾン美術館は行ったことがなかった。だから行こうという訳でもないが、気になる存在ではあった。

アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)
石橋財団運営の京橋にある美術館。東京駅から歩いて行ける。旧名の通りあのタイヤメーカーの創業者が立ち上げた美術館。
ARTIZONはART(美術)とHORIZON(地平)を合わせた造語。ブリヂストンはBRIDGE(橋)とSTONEを合わせた造語。

まあ、そんなこんなで時間と気力に余力が出来たのでサンサシオンパワーに惹かれて行ってきたのだ。

東京駅八重洲口から徒歩5分ぐらい、そこには綺麗なビルが建っていた。確か、数年前に建て替えたらしい。エントランスは開放的で、カフェが併設されている。美術館の厳かさよりはコミュニケートな空間といった感じ。

エスカレーターで2階に上がり、コインロッカーに荷物を預ける。無料かつ百円玉が要らないのがキャッシュレス派に嬉しい。コインロッカーの近くにミュージアムショップがあるので財布を置いていけるのも良い。ちなみに、アーティゾン美術館では音声ガイドが無料なのでスマホとイヤホンは忘れずに。

更に上にあがり、三階がチケットカウンターになっている。言い忘れていたが、日時指定入場制なので予約を忘れずに。画面にQRコードをかざして入場するのでスマホがすぐ出せるとスマートに入場できる。そこからエレベーターで更に三階上がり、六階からが展示室になっている。

エレベーターを降りるとエントランスのような空間が広がり、順路は小部屋に繋がっている。空間を隔て、ここからが山口昇の世界だ。

小部屋

一見するとただの空間である。こざっぱりとした部屋にカウンターがあり、グラスや照明、カレンダーなどの小物がある。そんなこの空間の異質性は傾いていることだ。

15度の傾斜がついている。

ごく普通の部屋がたった15度傾いているだけで、世界は非日常へと変わる。この15度が絶妙で、なんとか立っていられる程度だが、転ぶ人も多いのだとか。

少し歩き、部屋を抜ける。平行な展示室へ戻るもグラついた感覚がしばらく抜けない。白を基調とした展示室内には拓けた空間となっている。
いくつかの範囲に区画分けされ、どちらへ進むべきか迷わせる。手近な右手から回ったがまた違う周り方をすれば持つ印象も違うだろうなとも思った。

右手にまわると、そこはセザンヌを主とした空間でセザンヌの人物画、風景画、静物画が並ぶ。更に裏手には山口が風景を模倣した絵や研究している資料が並ぶ。この空間はサンサシオンという言葉を使ったセザンヌを軸に作品を解体し鑑賞させる。

更に一つ入れば、そこは薄暗く、雪舟が飾られている。雪舟と水墨、墨どんどんと要素は解体され単体を捕える。言語化や学びと言った感覚に近く、作品の感覚を事実に起こし再表現させる。それが山口の強みかもしれないと思った。

奥へ進めば、立体視を駆使した空間や日本橋を主軸としたSF的漫画が並んでいたり、日本画をベースとした巨大な地図など鑑賞者を飽きさせない。巨大な絵図や思想の細部にまでこだわりが見られ、俯瞰してみても素晴らしく、細部に注目しても面白い。時間をベースに日本画と現代が綯い交ぜになり、作品の感覚は超越されていく。日本という世界だけでも古典と現代アートの融合にはこれほど可能性があるのかと思わせる素晴らしい展示であった。

山口昇の展示はワンフロアだが、アーティゾン美術館の展示はエスカレーターを下り、まだ続く。ある程度省略するが、日本の美術映画と本を読む女性についての企画展が行われていた。常設展も有名画家を抑えるとこはキチッと抑えつつ、国内外が対比的に飾られているのが印象的だった。
とはいえ展示の数は抑えられており、そこまで人も多くなく、ゆったりとした空間で鑑賞しやすい。確かに家長むぎの言う通り初心者におすすめの美術館だった。

全体的に綺麗でビルの中なのに開放感もあり素晴らしい美術館を知れたなと思えた。個人的にはミュージアムショップがもう少し広いと嬉しいとも感じた。美術館で変なもの買うのが好きなので。
あと、山口昇の展示はインスタレーション的な展示が少なくなかったので人と来て感情を共有した方が楽しめただろうなとも思った。

企画展   85/100点
美術館   80/100点

総合評価   165/200点

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