見出し画像

ヴィクトル・ブローネル / 悪夢を感じるシュルレアリズム

noteを始めた理由の一つに、iCloudの整理のために、美術館や博物館でメモとして撮影した作品や解説・後日調べたことをまとめよう、と思ったことも一つのきっかけだ。

というわけで、初めはヴィクトル・ブローネルだ。数年前にパリのポンピドゥーセンターで鑑賞した。

画像1

Endotête (1951)

ブローネルの作品が展示してある部屋に入って、まず感じたのは、なんとも言えないグロテスク感だ。

目に飛び込んできたのは、キツネの剥製の胴体部分がテーブルとらなっている「狼・テーブル」だ。(ガラスケース内の展示で、映り込みが激しいので写真は省略する)

キツネの剥製なのに、なぜ狼なのかは分からない。ただ、牙を向けるキツネの生々しい表情と、ぐにっと尾の方に不自然に曲がった首、そして木製の胴体が、キツネの死体性を明瞭にしているように感じさせ、なんともいえない心地悪さがあった。

そして、壁にかかっていたのが、この「Endotête」である。少し調べたが、このタイトルの意味が分からなかった。google翻訳に入れると、「クルド語」とでてくるが、意味は出てこない。また、ブローネルはルーマニア人であるし、クルド語ではない気はする。

猫のようにも見えるが、かわいさではなく不気味さを感じさせる。画面いっぱいに奥行を感じるまでに重ねられた線が、悪夢の中にでてくる怪物のように感じられた。

ブローネルは、1903年にルーマニアのユダヤ時代家庭で生まれた。父親が心霊術に傾倒しており、作風にもその影響を受けていると言われている。悪夢、と感じたのはそのせいかもしれない。

学生時代は、ダダイズムの作品を制作していたが、当時潮流であったシュルレアリズム運動に参加をしていく。

その後、ヒトラー政権の影響で迫害、亡命をするなどをしたが、1942年以降、オート=アルプの小村で隠れながらの制作を行う。

このとき、画材が無かったために、自然の材料を使い、また蝋画の新しい表現に取り組んだ。さらに、窮地に陥ったことからなのか、神秘主義的なものに傾倒し、独自の世界観が生み出されたとされる。

先述のとおり、私はなんとも言えないグロテスクな悪夢をブローネルの作品から感じたが、同時に何か惹かれるものもあるのも事実だ。怖いもの見たさなのか、あるいは、あくまでひと事だからなのか。人間(あるいは生物)が残酷な面を隠し持っているからかもしれない。

また、この作者は「未来を幻視する画家」とも言われ、「眼球を摘出した自画像」という作品を描いた7年後に事故で左目を失ったというエピソードが有名だ。

未来を見ているような作者の悪夢が、現実にならないことを願うばかりだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?