〈それ〉がない日記㊼(最終回)
さて、ずいぶんと時間が空いてしまいました。
ここまで男の〈それ〉がない日常を覗いてきました。男はいつだって、何かしらの〈それ〉を失くしています。ポケットの中に、鍋の中に、屋根の上に、洋服ダンスに、記憶の外に。失ってから初めて気づくことがある、とはよく言ったものですが、この男の場合は、見つけてから初めて失っていたことに気づく、といったところでしょうか。
しかし、世の中にはただの偶然では片付けられないことが起こるものです。声が出なくなっていた男は子どもたちにどうしても伝えたい