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〔ショートショート〕真夜中の万華鏡

真夜中にこの万華鏡を覗いてはいけないと、先生は言っていた。物静かで、細い指が綺麗だった美術の先生。昔、外国のフリマで買ったという万華鏡は、深い藍色が美しい。

突然、先生は消えた。教師間の虐めで病んだとか、誰かと駆け落ちしたとか、噂だけが駆け巡る。彩に残されたのは、この万華鏡だけ。「彩へ」と書かれていたと、先生のご家族から渡された。

どこにも居場所が無い者同士、唯一心を許せたのに。放課後の美術室にも、もう先生はいない。彩は眠れない夜が増えていった。

今夜も眠れないまま、万華鏡を手に取る。昼間しか覗いたことはないけど、もう先生の言いつけを守る必要は無いよね。彩は引き寄せられるように万華鏡を覗いた。

ステンドグラスのような幾何学模様は昼間と同じ。が、なんと小さな人影がひとつ、右端で手を振っている。
「あ!先生!」
万華鏡を回すと、先生が少し近くなる。彩は夢中になって回し続けた。


翌朝。万華鏡が転がる部屋に、もう彩はいなかった。
(完・409字)


こんばんは。こちらに参加させていただきます。

初めての裏お題挑戦です。
たらはさん、お手数かけますが、よろしくお願いします。
読んでくださった方、ありがとうございました。

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