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リテラシーがとけるほど恋したい

ロシアのウクライナ侵攻という国際ニュースでTwitterのタイムラインがもちきりだ。不謹慎ではあるが、スマホの画面越しに覗き見る、遠く離れた馴染みのない国での戦争というのは野次馬精神が刺激されるものであり、文字通り対岸の火事として盛り上がること自体は人間が持つ性として仕方ないことなのかなと思う。白地図を出してウクライナはどこ?と指を刺させたら8割が間違えてそうだよねとか思ってても言ったら駄目だよ絶対。

さて、少しタイムラインが過熱状態になっていたので昼過ぎに上記のような投稿をした。なんの気ない投稿だったが、意外なほど拡散され、普段触れ合うことがないタイプのフレンズにも届いたらしい。以下、空っぽの脳みそを使った結果、陰謀論にハマってしまった猿にも劣る知性の持ち主のクソ引用RT・クソリプ国際情勢を憂う人々の真摯な意見をいくつか紹介しよう。

・『BBCやロイターが信頼できる情報源』という真偽不明の情報
・そういう本人もアングロサクソンのバイアスには無関心っぽそうなのが心配だのう。
・BBCやロイターが信頼おけるならスプートニクも信頼おけるな😁
・いつからBBCやロイターが信頼できるメディアに?
・ロイターBBCは嘘つき新聞 日本の悪口を書いたBBCはゆるさない

Twitterより

普段であれば「多様性www」と笑いながら即ブロックするのだが、今回は私の専門分野(全裸中年男性の生態とメディアリテラシー)にも関わってくることなので一言申し上げたい。この手の「欧米メディアは信頼できない」という言説は、ロシア政府が戦略的に流布しているプロパガンダだ。ロシア政府が直接的な軍事攻撃と並行して情報戦を仕掛けるハイブリッド戦を得意としていることはよく知られているが、主要メディアの信頼度を下げるという行為は基本中の基本であり、長きに渡って世界中で行われている。

上記に挙げた多様性フレンズは別にロシアの手先という訳ではなく、おそらく自分なりに一生懸命頭を使っているのだろう。皆が知っている情報ではなく、オルタナティブな視点や情報を求めた結果、刷り込みを間に受けてしまった、哀れで醜い可愛い我がちいかわだ。ちなみにスプートニクやRTといった、世論操作を目的に活動しているロシア政府系のメディアの存在は有名だが、斜に構えてBBCやロイターをこれらの官製プロパガンダメディアと同列に扱うのも、また彼らの術中にはまっているといえる。

ちなみに私がBBCやロイターの具体例を挙げた理由だが、英語圏のメディアであり、欧州での取材力があるメディアを代表例として挙げたつもりだ。通信社世界最大手のロイターと、欧州ナンバーワンメディアであるBBC。ウクライナ情勢を語るにあたって、現地語を理解しない人々が抑えておくメディアはこの2つで概ね間違いないだろう。お好みでAP通信などを入れても構わない。彼らは国際共通言語である大正義英語メディアという武器を活かし、世界各国で英語を母語並のレベルで操る現地の記者・ストリンガー(情報提供者)を採用している。肌感覚でニュースの本質を理解できる人間が組織内に多数いるというのは強い。そして彼らは情報が間違っていたら間違っていた旨を記録として残し、後から検証できるようにしている。(日本におけるBBCやNYT、CNN等の報道が頓珍漢なことが多いのは、そもそも日本を希望する時点で主流派ではない変人が多い上、本邦はネイティブレベルで英語を読み書きできる人材が少なく、偏った思想の現地記者やレベルの低いストリンガーが紛れ込んでいることが挙げられる。上杉隆を採用するレベルだぞ?その点ロイターやブルームバーグは日本語で書いて英訳しているので、人材と記事の質はそれなりに保たれている)
※ちなみに本邦のメディアについては、現地語を理解しない人間が社内人事の一環で特派員になることもあるので、玉石混交というほかない。特にNHK。無尽蔵に金があるんだから、明日発表されることを夜討ち朝駆けしてゴマ擦って取ってくる脳筋じゃなくて、もっと専門人材の採用・教育に力を入れてほしい。

あと、オールドファッションの左翼の人々が「帝国主義の欧米メディア」的な言説をよく流すが、あれほど理解不能な言葉もない。どのメディアを見ても、トランプだろうがバイデンだろうがボリスジョンソンだろうがボロクソにけなしており、とても帝国主義という単一の目的に沿って動いているようには見えないでしょ。シンプルに馬鹿なの?英語読めないの?そもそもこの業界、金を貰った位でペンを曲げるなんて、欧米の大手ネットワークではFOXくらいしか思いつかないが。

ちなみに現地で取材する記者やそこに住む市民のツイッターアカウントが発する情報を熱心に拡散することの是非だが、これも微妙だ。仮に東京に有事が起こった際、あなたが六本木にいたとして、北千住の情勢をすぐに書けと言われて正確に情報を収集して届けることができるだろうか。また、眼の前の六本木ヒルズが攻撃を受けたとして、誰が何の目的で攻撃したのか、現地で瞬時に判断できるだろうか。戦場では敵の攻撃だけでなく、誤爆などあらゆる可能性が考えられる。戦時中という誰もが興奮した状態で、正しく情報を取捨選択できる人間は多くはない。百選練磨の戦場ジャーナリストだとしても、常にその場で正しい情報を発信できるわけではないということは知っておいて損はない。

さて本題に戻ろう。国際情勢において、ソースが不確かな情報を善意で拡散することの問題だが、「前提知識を持っていない人々はその情報の真贋を理解できないから」、これに尽きる。SNS全盛期の昨今、衝撃的な写真や動画を人々に伝えたいという欲求は誰もが持っているものだ。ましてや世界中が注目を集めているウクライナ情勢、一枚の写真や数秒の動画が持つ拡散力はすさまじい。テクノロジーが発達した現在、写真や音声、動画ですら捏造することすら可能だ。多くの人がより刺激的な情報を求め、真贋不確かな情報の拡散に手を貸してしまっているのが現状だ。

直近の例をとってみれば、今やネットミームとなった「通訳のアブドラ」がいる。アブドラの本体こと西谷氏はアフガニスタンのガニ政権の崩壊後、「アフガニスタンの現状」と題して、道に捨てられた子供や空爆を受けた病院など、多くの衝撃的な写真を次々と投稿して一躍スターダムに躍り出た。しかし、後ほど多くの写真はネットからの流用であり、更に時系列も場所もバラバラであることが判明した。悪意があったのかアホなだけなのか分からないが、西谷氏の行為がジャーナリストを名乗る人間として言語道断であることは間違いないが、いいねやRTで拡散に手を貸した多くの人々はこの惨状を皆に知って欲しいという善意でやったものだろう。その善意こそが、ロシアをはじめとした強権国家の進める情報戦の最大の狙いだ。トランプを当選に押しやったのは熱心な共和党支持者ではなく、フェイクニュースによって踊らされた中間層だ。

また、ロシアの現地メディアの内容をもとに「プーチンの真意」を一生懸命拡散することも素人にはおすすめできない。タス通信やインタファクス通信、スプートニクやRTを定点観察し、そこに隠された思惑を探り当てるという行為は訓練を受けた専門家が手掛けるものであり、ロシアに知見を持っていない人間がやってもただ情報の拡散に手を貸すだけになる。現在、大学の研究者などの専門家を除き、日本の組織でこうした情報収集をちゃんと手掛けているのは在外公館で勤務する専門調査員くらいではなかろうか。

とにかく、これからウクライナ情勢がヒートアップするにつれ、センセーショナルな情報や写真、動画が錯綜するだろう。そしてついRTしたくなるだろう。しかし、上記に挙げたように、欧米のメディアの公式アカウントか、丸の内OL(27)などの信頼のおける専門家(その真贋を見極めるのがまた難しい)が流すまでは一呼吸置くのが正解だ。

(HUNTER×HUNTER 冨樫 義博 集英社より)

ここまで長々と書いておいて、こうした情報を本当に届けたい人には届かないということもよく知っている。そもそもほとんどの人類は140文字の文字を文字通り読むという能力を身に着けていない。人類にSNSは早すぎたのだ。私にできるのは時事ネタが動くたびに大喜利を投稿して、情報の洪水の中に小便を混ぜるくらいだ。ほうら、おじさん特製のあったか泡立ちビール、飲むかい?(ロシア軍の特殊部隊に連れ去られながら

ご清聴ありがとうございました。ロシアのハイブリッド戦については色々本が出ているが、ここら辺を抑えておけばまあ良いかなと。みんなも自分だけの独自の視点で思う存分時事ネタを切り取って、オリジナルのフェイクニュースを流そう!


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