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デジモンを語りたい世代 ー『デジモンアドベンチャーLAST EVOLUTION絆』についてー

カラオケに行くと必ず「Butter-fly」を歌ってしまう。
僕と同じ世代(20歳後半から30歳前半)にありがちなこと。

誰もが、日曜日の朝9時に『デジモンアドベンチャー』を観ていた。
八神太一を始めとする「選ばれし子供達」が、デジタルワールドを舞台に時に協力し、時に仲違いしながらも絆を深め、戦う姿に、毎週、わくわくしていた。

おそらく、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』を基にしているのだろう。
無人島で子供達だけが生き残らないといけない状況。子供向けアニメでは珍しい設定だ。
子供達は皆、個性的で一筋縄ではいかない。意見はまとまらず、喧嘩をすることもしょっちゅうだ。
それでも、パートナーのデジモンと絆を深め、問題を克服していく姿に自分を重ね合わせながら観ていた。

『デジモンアドベンチャー』が素晴らしかったのは、ストーリーがしっかりしていた点もそうだが、曲の力も大きい。
冒頭に流れる「Butter-fly」もデジモンの進化時に流れる「brave heart」も素晴らしい名曲だ。
世界観とマッチしている歌詞と心地いい疾走感は、いくら聞いても飽きることはない。
『デジモンアドベンチャー』は、これらの名曲がなければここまで多くの人の心をつかむ作品にはなっていなかったかもしれない。

また、忘れてはいけないのは、細田守監督の劇場版2作だ。
1作目は、テレビ放送の前日譚にあたるストーリーである。
幼い少年と少女がデジモンという未知の生物に出会い、
大人に内緒で遊んでいるうちに、ついには怪獣同士の争いにまきこまれるという、とてつもない話を情緒たっぷりにダイナミックに描いた傑作だ。
全編に流れるボレロは、この時から『デジモンアドベンチャー』の代名詞になった。

2作目の『ぼくらのウォーゲーム!』は、もはや説明不要だろう。
細田守の名前を一躍、世間に知らしめた傑作だ。
誰も見たことがない独特のインターネット空間を表現し、
ネットが支配されるサイバーテロの恐ろしさを誰よりも早く描ききった。
一瞬たりとも無駄のない濃密な40分。
この少ない時間に2時間以上の映画を観たような満足感が得られる。
デジモンシリーズとしてではなく、単体の映画として観ても、とてつもない完成度の作品だ。

前置きが長くなってしまった。
だから、『デジモンアドベンチャー』に対しての僕たちの世代の採点はかなり甘いのだろう。
ボレロが流れて、1作目に登場したパロットモンが敵で登場して、市街戦を繰り広げて進化の時には「brave heart」が、タイトルとともに「Butter-fly」が流れれば、それだけで、ちょっと涙ぐんでしまう。もう、大満足なのだ。
Yahoo映画サイトの高評価がそれを物語っている。
それくらい、ちょろいのだ。

しかし、である。
はっきり言って、普通に今回の『LAST EVOLUTION絆』は、単体の作品としてはかなりひどい。
説明するために、ストーリーを細かく記載しようという気にはまったくならない。
なぜかというと、今作は、今作のみのオリジナルの要素というものが、まったくと言っていいほどないからだ。

本作の根幹と言えるストーリーは『デジモンアドベンチャー02 デジモンハリケーン上陸!!』を元にアレンジしたものだろう。
アメリカ人の新キャラがキーパーソンになっている点、敵デジモンに捕らえられる「選ばれし子供達」、真の犯人の動機。
どれもが忠実と言ってもいいほど、『デジモンハリケーン』をなぞっているのが本作だ。
また、ネット空間や敵デジモンの特徴は『ぼくらのウォーゲーム』から、街のオーロラ現象、ヒカリの笛(あそこで使う意味が全くわからない)は、劇場1作目から。
一切合切、全てが借り物なのである。
そして、当然のことながら、参照元の作品の方が圧倒的に素晴らしい。

もちろん、借り物でも、元々が素晴らしいものなのだから、部分、部分では感動することもある。
なにせ、何度も書くが、「Butter-fly」だけで感動できるように僕たちは調教済みだからだ。
あの曲だけで、僕たちは、あの日のあの時のデジモンと、自らの幼かった日々を思い出せるからだ。

本作で描かれるテーマはデジモンとの「別れ」だ。
おそらく、この作品をつくるために無理矢理捻り出したテーマなのだろう。
それこそ、『デジモンアドベンチャー』の最終話でとっくに最高の別れは描かれているので、今更、大人になった太一たちが、「別れ」について「いやだー!!別れたくないー!!」なんて、言ってると、それだけで、冷めるという点はおいておいて、ここだけは、唯一といってもいいくらい、本作のオリジナルの要素かもしれない。

しかし、だ。
これだけ借り物だらけの下手な模造品のような、ファンの美しい思い出だけに頼りきった作品をつくり、さらに、これから新作のテレビシリーズもつくるという……。

何がお別れだよ!!
何がラストだよ!!!
ファンなめた商売してるだけだろそれ!!!!

まんまと東映アニメーションの策略に乗っかってしまった自分が恥ずかしい。
しかし、本来、東映アニメ祭りとは、そういう子供騙し的な商売であり、
デジモンだけを神聖視してしまうのは、きっとだめなことなのだろう。

映画を観ていたら、『おジャ魔女どれみ』の新作映画もこれから公開するらしい。
もちろん、『おジャ魔女どれみ』も素晴らしい作品である。
子供の頃の美しい思い出がその作品にはある。

美しい思い出は美しいままにしておくべきだと悟った1人の夜だった。