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「かんかん橋の向こう側」 あさのあつこ

 あさの作品は、「バッテリー」が最初の出会いだった。若者の起伏の激しい葛藤に共感する。

第一章「十七歳の日付」
 石鎚真子は、山陰の温泉地 津雲に住む高3で進路に悩んでる。食堂「ののや」の母子家庭の一人娘だが、父を亡くし母は後妻の奈央さん。鮮魚店の池内夫妻、公務員を退職した野々村さん、写真館の国見さん、看護師長の久本さんと息子の和久くんが織り成す騒がしくも心温まる日常。
 育ててくれた奈央さんへの感謝、鬱陶しさ、心配をかけてはいけないという気遣い。思いは複雑で目まぐるしく移ろう。
 奈央さんからプレゼントされた水玉の傘。学校の帰り道、雨に濡れカンカン橋に佇む若い男(東山)を痴漢と勘違いして走り出し、幼馴染で別の高校へ進学した岩鞍友哉と出会い頭にぶつかり膝を擦りむく。好きだという気持ちに初めて気付く喜びは、多感な若者の初々しさ。

第二章「青い風に乗って」
 ののやの常連、野々村さん。公務員を退職し、見合いで結婚した友香子を亡くし、一人のささやかな日常に身を置く。軒下の燕の巣が崩れ、ヤキモキするが、燕は巣を修復して今年も帰ってきた。亡くした妻が楽しみにしていた日常が戻り安堵するが、物置部屋を片付けて、青いアルバムと共に青い箱が見つかる。妻の若い頃付き合っていた男の手紙の束を目にして心が揺らぐ。亡き妻の姉に会いにゆき妻の一面を知らされる。小説家志望の男にのぼせていた過去。口数少ない平凡な自分との暮らしに幸せだったのだろうかという不安。言葉はなくとも気持ちが伝わっていたことを知り、無意識に流れる涙にいつまでも妻を好いとった気持に改めて気づいた。
 見上げた空を燕が過ぎる、囀る。人はそれぞれの人生を歩む。一番好きな章。

第三章「闇と陽溜まり」
 痴漢に間違われた東山は、和久のネット小説「KANKAN騒動記」の温かさに誘われて津雲に流れ着き、和久の家で居候となる。和久は、高校を中退して故郷を飛び出すが戻り、旅館で働く。
 東山の過去と、和久の優しさ溢れるお節介。詐欺事件にヤクザが絡み、危機一髪をののやの面々が、かんかん橋が救ってくれる。平凡な日常をはみ出した感じが振りすぎかな。

第四章「風が吹いて、陽が差して」
 真子は進路を決めて受験生の決意を固める。野球部の友哉の告白を受ける。家を出た産みの母親からの電話は、再婚と一緒に住みたいと告げる。
 友哉と付き合ってることをののやの常連に冷やかされて、大きな声上げてしまう。悪気わなくても人は傷つく。
 奈央さんが倒れて、病院へ運ばれたとき、支えてくれたのはののやの常連たち。
 親友の鮎美のぎこちない対応は、友哉が好きだったから。
 4月、かんかん橋を渡り真子が大学生として津雲を旅立つ。これからどうなるのか、今は分からない。戻るのか、戻らないのか。自分の人生は自分で決める。奈央さん、友哉、鮎美、母親、そしてののやの面々。思いやりは大切だけど、それぞれの思いを抱いて、それぞれの人生を歩んでいく。

 本を閉じれば、自分の人生が、自分だけの人生がそこにある。


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