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お酒を減らすといい事だらけ、だけど複雑。

2020年3月、当時勤めていた会社から即日自宅勤務の指示が出た。それから、パンデミックのため、たまには行っていたレストランに行くこともなくなり、毎日自宅で調理をしていた。そんな時に毎日の食事を美味しくしたのはお酒の力である。私のイマイチな料理でも、ワインと一緒に食事をすれば美味しかった。

20代の頃、仕事の後に友人達と食事がてらアルコールの入った飲み物を1〜2杯飲むのが普通だった。それは月に一度あるかないかの頻度だったと思う。いつの間にか、毎日晩酌をするようになった。そしてパンデミックで自宅待機。週に一度や二度は飲まない休肝日を作ろうとしたけど、飲まない日はほとんどなかったと思う。いつも通っていたジムは一時閉鎖していたし、近所の散歩ぐらいしか運動らしい運動はしなくなった。仕事のストレスと外に出かけられないストレスとで、酒量は増えた。わかってはいたけど、自分を甘やかして見ないふりをしていた。

そして、年に一度の健康診断がやってきた。血液検査の結果ASTとALTが通常より高いので、2ヶ月後に再検査となった。

グーグルによると、「AST、ALTの値が高いときは、アルコールや肥満、薬剤、肝炎ウイルスによる肝機能障害が疑われる。 また、肝臓や胆道系のがんの場合にも上昇する。」

2ヶ月後の再検査の結果、数値はさらに悪化していた。医師からの指示で、アルコールは一切禁止、2〜3ヶ月後に再再検査しますと、クリスマスの一週間前に告げられた。年末のパーティシーズンでお酒なしとは少しさみしいなとは思ったものの、私は医師の指示には絶対に従うと決めているので、冷蔵庫にある飲みさしのワインのボトルを終えることなく、その日からお酒をぱったりとやめた。

やめて3日目、ぐっすり熟睡できることに気がついた。こんなに熟睡したのは子供の時以来かもしれない。三週間目、肌が透明感が出てきて綺麗になった。その後、顔のむくみが取れて引き締まった気がする。味が以前よりずっとわかる様になった。髪の毛に艶が出てツルツルになった。体重も少し減った。断酒したことで、全てにおいて良い反応しかなかった。ずっと飲みたい気持ちはあったから、その良い反応が出た事が嬉しくもあり、飲めない寂しさもありで、複雑な心境だったけど、肝臓の数値が改善するまではと、再再検査の結果が出るまで一切飲まなかった。

断酒している間、お酒をやめてよかったという体験談をネットであちこち調べた。一番の良い事はお酒をやめると時間ができるから、いろんな事ができる。確かにそうだ。私は子供の頃から読書が趣味だった。毎週末図書館に行っていたものだ。社会人になっても、毎日通勤時間中や家に帰った後でも図書館の本を読んでいたのに、気がつくと、自宅勤務で通勤がなくて時間があるはずなのに、本を読む事がなくなってきていた。一つは老眼が始まり、小さな活字を読むのが億劫になったことだ。二つ目は、パンデミックで日本帰国がままならず、新作の本を大量に仕入れる事ができなくなったというのもある。手持ちの本は既に何十回と読み込んでいる。あとはお酒が入ると、読書よりもドラマなどを見ている方が楽だった。昔はお酒を飲みながらゆったりと読書をするのが好きだったのに。いつの間にこんなに本から離れてしまったのだろう。テレビを数時間見た後、なんとなく時間を無駄に過ごした罪悪感ぽいものは感じてた。お酒も美味しかったはずなのに、何となく夕飯時だからと惰性で飲んでいた気もする。

3ヶ月後の再再検査の結果は、全て標準値内に収まった。私の担当医師も喜んでくれた。それからはお酒を飲む頻度は一週間に一度、週末にワイン一本を二人で分けて飲む。飲まない週もある。以前に比べると劇的な酒量の変化だ。飲酒の機会が減ったせいか飲んだ後、アルコールが体内に残っているのがよくわかる。たとえグラス2杯のワインでも、翌日に残っていると感じることもある。今まで私はどうしてわからなかったのだろうか。

その一年後、再び健康診断で血液検査をしたが、全て基準数値内であった。

先日、日本に帰国した時、何十冊もの中古の文庫本を買って持って帰ってきた。毎日、元気で楽しく過ごしたいし、興味のあることをして充実した日々を過ごしたいし、また以前の様に本を楽しんで読みたい。

今から思うと、お酒を飲むことにも、テレビドラマをだらだら見るのにも、私は飽きていた様な気がする。検査で引っかかったことは、自分の習慣をかえる良いきっかけになった。今でもお酒は好きだけど、たまに飲むから美味しいのであって、以前の様な飲み方はもうしない。お酒を減らしたら、健康になり時間が有意義に使える事はわかっていたけど、なかなか自分の意思だけで減らすのは難しかった。お酒と一緒にする食事は美味しいし、ずっと続けてきたことを辞めるのは難しい。今回、私は医師に告げてもらえて本当によかった。本来ならキッパリ断酒した方が身体にはいい事だらけだけど、自分で調理したイマイチの夕食をお酒なしで食べる時、ワインと共に食べた時ほど美味しく感じなくて、少し複雑な気分になる。月に数回程度のワインを楽しむくらいが自分の妥協点だ。


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